第50話 勝負相手と一緒に
ダンジョンに向かっている途中、突然勝負を挑まれるという出来事がありつつも、なんとか目的の場所に到着してからパーティーの皆と一緒に中に入っていって、情報収集を行った。
タイムアタックで、攻略の時間を短縮するためには何に注意していけば良いのか。出現するモンスターやアイテムなど、ネットで公開されているような情報についても自分の目で確かめて、間違いがないことを確認していく。その間に、気付いた点などを皆で話し合って、本気で挑みながら攻略方法を模索していく。
それから私達は、それぞれに別れてタイムアタックの練習を始める事にした。私達は仲間だけれど、ダンジョンRTAのイベントでは個人戦ということで、競争相手でもあったから。
ダンジョンのタイムアタックに挑戦する時、事前に設定すると一人で攻略を進めるイベント仕様の専用ダンジョンにできる。これで、練習している途中で勝手に他のプレイヤーがダンジョンの中に入ってくる事はなくなる。
イベント本番のタイムアタックでも、他のプレイヤーが誰もいない状況で競い合うことになるらしいから、同じ様な環境で練習しておく。
繰り返し20階層までの道のりを攻略していく。タイムアタックということなので時間を常に意識しながら、なるべく早く潜っていき最下層まで辿り着きたい。しかし少しでもミスをすると最悪の場合には記録無しにもなるので、失敗しないようにするという慎重さも求められる。
繰り返しダンジョンを攻略していくうちに、クリアタイムが1時間20分程にまで安定してきた。クリアの平均時間は、ネットの情報によれば2時間ぐらいだと言われいてるらしい。でもレッドとブルーは1時間を切ったと言っていたし、もう少し手順を効率化してクリアタイムを縮めていかないと上位入賞は難しそうだった。
数日間、毎日のようにダンジョンの最速クリアを目指す攻略の練習をしていた。
十回目の20階層ボスを倒して周回練習が終わった時、集中していて気が付いたら結構な時間が経過していた。ちょっと休憩しようと思って、久しぶりに街へと戻る。どうやって、もっとクリアタイムを縮めていこうかと考えながら。
「あ」
「あ」
ダンジョンから街の間の帰還する途中という場所でバッタリと、少し前に出会った金髪のツインテールキャラの女の子と偶然にも再開した。お互いの顔を見て、二人共がアッと言葉を漏らす。
「こんにちは」
「どうも」
私が挨拶すると、向こうは無表情であっさりとした挨拶の返答。これから私達は、イベントのダンジョンRTAでタイムアタック勝負をするという競争相手。彼女の態度がそっけないのは、馴れ合いたくないのかもしれない。
ただ前回の出会いでは、彼女の名前を聞きそびれてしまっていた。なので改めて、自己紹介をしておきたいと思った。
「私の名前はフォルトゥナです」
「知ってます」
そう言えば出会った最初の頃から既に名前を呼ばれていたし、歌のことも質問してくれた事を思い出して恥ずかしくなる。向こうは私の事を知ってくれていた。
「おいソフィア。せっかく自己紹介してくれたんだから、そんな冷たい言い方をするなよ」
そう言って、ソフィアという名前らしい金髪でツインテールの女性に注意をする。そうしてから、私の方に向き直ると彼が改めて自己紹介をしてくれた。
「すみませんフォルトゥナさん。俺はレオナルドって名前で、これはソフィアです」
「いえいえ大丈夫ですよ。よろしくお願いしますレオナルドさん、ソフィアさん」
「……」
挨拶している最中、黙ったままジッと私の顔を見つめてくるソフィア。何か、この短い間に癇に障る事をしてしまっただろうか、と心配になる。
「これから、ダンジョンのタイムアタック練習ですか?」
彼らは街の方から歩いてきた、ということは行き先はダンジョンなのだろう、かと思ったので聞いてみた。勝負相手の情報を少しでも聞き出せたらいいなと、少し狡い考え。
「あー、えっと。ダンジョンのタイムアタックを練習しようと思ったんですけどね、ダンジョン内に人が多すぎて」
私の質問に答えてくれたのはレオナルドだった。そして彼は、初心者がよくやるような失敗をしている。
「あぁ、それならイベント仕様に設定すればいいんですよ」
「設定?」
他のプレイヤーが自分の潜っているダンジョンに入ってこれないようにするために、ダンジョンに入る前に設定をすればいい。それで練習できるはずだ、という事を彼らに説明した。イベントの事前練習に役立つはず。
「ここの端末で色々と変更できるんですよ。イベント時の本番と同じルールも設定できますよ。練習するなら、こうした方が良いですよ」
「あー、なるほど。自分でこうやって設定できたんですね」
私は2人に説明するためダンジョン前まで戻ってきて、端末の前で操作し実践して見せた。というか、この2人はもしかして……。
今のやり取りで分かったことが一つ、ちょっと話を聞いてみることにした。
「タイムアタックの練習成果はどうですか? 捗ってますか?」
「あー、それはその……」
「大丈夫です」
二人の意見は真逆で違っていた。レオナルドは何だか言いにくそうにしているし、でもソフィアの方は自信がありそうだった。
「いやいや、まだ一回しか最下層にたどり着けなかったでしょ」
「……」
「でも、一回は無事に到達できたんですね」
「それも、二人で協力して何とかクリアしたんですよ。ソロではまだ、クリアできてないんです。フォルトゥナさんに打ち明けると、俺らはまだリフゼロを始めて一週間ぐらいしかプレイしてないんですよ」
「一週間!?」
「違う。もう10日は経った」
「という感じでまぁ、正真正銘の初心者なんです」
出会った時は、ソフィアが熟練のプレイヤーだと思っていたけれども。勘違いしていたのかもしれない。でも、そうすると困った。
私が勝負を挑まれた時、その私とソフィアのやり取りを見ている他のプレイヤーが居て、掲示板で書き込まれてちょっとした騒ぎになっていると聞いていた。公認プレイヤーが、一般プレイヤーから仕掛けられた勝負を受けて立ったと。
注目されている中で実は初心者だったと判明した時、プレイヤーからちょっと叩かれそうだなと思った。その程度の実力で勝負を仕掛けたのか、とか。逆に私のほうが初心者相手なのに容赦ないと言われてしまうかもしれない。
そうさせないために、私はある行動をすることに決めた。
「それなら私が教えられる範囲で、ダンジョンの事について教えますよ」
「本当ですか!? 助かります」
ダンジョンの攻略法を教える。そんな提案をすると凄く喜んでくれたレオナルド。しかし、勝負相手である彼女の方からは拒否する声が聞こえてきた。
「別にいいです」
敵の施しは受けない、という意思表示なのかもしれない。しかし、レオナルドの方は慌てた様子でソフィアを引き止めて、提案を受けるべきだと言ってくれた。
「おい、バカ! コイツの意見は適当に無視していいんで、俺らにダンジョンの攻略方法を教えて下さい!」
「もちろん、いいですよ」
「むう……」
ということで急遽、私はダンジョンタイムアタックで勝負する相手のソフィアに、ダンジョン攻略方法について教えることにした。イベント本番で少しでも競い合えるような相手に成長してもらう事を期待して。
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