第51話 ダンジョン攻略法の指導

「そうそう、良い感じ!」

「なるほど」


 私の教えを聞いて、反応は薄いもののしっかりと実践してくれるソフィア。順調に教えたことを吸収していく。学習する速度が、すごく早かった。


「それです。その動きでバッチリですよ」

「そうか、こうするのか。フォルトゥナさんの教えは、分かりやすいなぁ」


 そして、ソフィアとは逆にリアクションをしてくれるレオパルド。彼にもしっかり丁寧に攻略法について教えていた。


 三人で一緒にダンジョンに入って、どうやったら良いのか初心者向けの攻略方法を教えていく。レオナルドは職業を戦士でプレイしていて、ソフィアは私と同じ職業の魔法使いだったので、それぞれの動き方について簡単にレクチャーしていく。


「あとは道中で拾えるアイテムとかを使用するタイミング、事前に決めておいた方が良いですよ」

「状況によって使い分けるとかは、やらなくていいのかな?」


 今度は、ダンジョン内を最下層に向かって進みながらテクニックを教えていく。


 今回のイベントにおいては、モンスターを倒した時にドロップする素材アイテムは全部無視して、回復アイテムだけ何個拾っておくか、ダメージを与える系のアイテムを何個ぐらい拾って行くのかを事前に決める。あらかじめ決めた個数を集め終わったなら、それ以上はドロップしているのを見ても無視をして拾わずに、最優先で下層に行く階段を見つけるのが吉。


 そうすることによって、拾うアイテムを選別している時間のロスを無くして、よりタイムの短縮に繋がるから。


「なるほど!」

「えぇ、そうなんですよ」


 私の言葉を聞いて一つ一つレオパルドが反応を返してくれるので、説明しているとすごく気持ちよかった。


「プレイヤーのスキルとか、職業とかで持っておいたら良いアイテムの個数は違ってくるんで、練習を繰り返していくうちに何個ぐらい持っておくのが丁度いいのか、というのが掴めてくるんですよ。とにかく自分の丁度いいと思える個数が分かるまで、何度か試してみることが大事ですね」

「へぇ、なるほど」

「……」


 レオナルドはよく反応してくれているので、話を聞いてくれているんだなと感じていた。だが、ソフィアは薄い反応しか返ってこなくて、聞いてくれているのか心配になる。私は説明を続けた。


「私の場合は余程の緊急の事態、例えばもう一撃だけでも食らうと倒れるような場合以外はアイテムを使わないと決めているんです。そして、10層、20層のボス戦で一気に使い切る」

「10層の時のボス戦でも、もうアイテムを使い切るのかい? まだ途中なのに」


「はい。10層のボス戦の場合は、多少無理をしてでも速攻で終わらせられるようにするんです。倒したら経験値が入手できるので、そのタイミングでレベルアップするから。そうしたら、11層から13層ぐらいで10層のボス戦で使い切ったアイテムは余裕を持って回収し直せる。レベルアップをしたなら、モンスターとの戦いも多少楽になるから。アイテムの回収が終わった後は、また最下層を目指して速攻で20層に到達することを考えれば良い。というような感じですね」


 ダンジョン内で思考している時間を次々に削っていって、タイムの短縮に繋げていく。そうすることで上位入賞を目指すのだ。


「はー、なるほどなぁ。色々と事前に計画を考えておく必要があるって事か。なぁ、ソフィアもよく分かっただろ?」

「……分かりました」


 やはりレオナルドはリアクションを返してくれるけれども、ソフィアは一言か二言ぐらいの短い言葉で返事をしてくれるだけ。もしかしたら、私がしている事はお節介で彼女からは嫌がられているのかも、とも思ったが根気よく教え込む。私がリフゼロを始めた頃に、エリノルが教えてくれた時のように丁寧に。今のソフィアは、あの頃の私と同じような初心者だから。


 小さい頃から最近までずっと、私は人とのコミュニケーションを敬遠してきて無理だと諦め気味だった。


 しかし、最近ではエリノルやティティアナと凄く仲良くなれたりもした。昔と変わることが出来ていた。でもまだ、半分しか変わることが出来ていないと思っていた。最近仲良くなれたのは、皆の方から私に歩み寄ってきてくれたから。


 でも本当は、私の方からも手を差し伸べられるようにしないといけない。


 ソフィアに初めて名前を呼ばれた時、少しだけ私の脳裏には高校時代の嫌な思い出が蘇っていた。そっけない態度を取られ続けるのも、嫌だなとは思ったりする。


 だけど、前まで感じていた不安や恐怖を今は感じなかった。だから、積極的に触れ合ってみようと思えた。ソフィアのような、歩み寄ってもツンツンとしてくる人とも仲良くなって、ようやく完全にトラウマを克服できるような気がした。


 だから私は根気強く彼女と仲良くなれるように必死に、そしてついでに、イベントでも気持ちよく競争ができる相手になるように攻略方法を教えていた。


「どうですか、ソフィアさん! 分かりましたか?」

「う、うん」


 そっけない態度、でも私の方からアクティブに声を掛けてみるとソフィアの口から言葉は短めだが返事をしてくれていた。もう少し根気強く付き合えば、もしかしたら心を開いてくれるかもしれない。そんな期待を込めて、私はソフィアとの触れ合いを率先して続けた。

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