第52話 練習風景

「その動きは、凄く良いですよ!」

「そう?」

「いや、素人の俺から見ても筋が良いと思うよ」


 私とレオナルドの二人で、ソフィアの華麗な動きを絶賛する。


 10階層に到着してボス戦の対策方法を教えている最中、私はソフィア達に最適な回避方法について教えていく。彼女は教えた通りの動きで、上手く攻撃を避ける事ができていた。大きい敵にも臆さずに突っ込んでいく度胸もある。


「他のVRゲームで得た経験とか、かな?」

「いや私はリフゼロが初めてのVRゲーム、……です」


 VRゲームに慣れているからと思ったけれど違った。そして、意外な事に私と同じリフゼロが初めてプレイしたVRゲームだという共通点を見つけた。


「本当ですか? 私も、リフゼロが初めてのVRゲームなんですよ」

「そ、そう」


 似ている部分を見つけて、少しテンションが上った私。嫌がられていないだろうか。落ち着いて会話をするように心掛けないと。


「そうするとソフィアさんは、もしかして何かスポーツとかやってるんですか?」

「いや私は、運動とか特に何もしてないです」


 そう思えるぐらいには、彼女の動きが良かったから。リフゼロを始めてから10日でアレだけ動けるということは、普段から何かやっているのではないだろうか。そう思ったが、それも違うようだった。


「俺たち、現代文化研究会ってオタク系のサークル所属ですからね。普段は運動とか無縁ですよ」

「へぇ、そうなんですね」


 思わず聞いてしまった、彼女たちの個人情報。サークルに所属しているという事は大学生なのかな。それとも社会人か。しかも、二人はリアルでも面識がある関係らしい。ちょっと気になったけれど、これ以上の詮索はマナー違反だから話題を変えた方がいいだろう。次の階層へ向かう道中で、別の話をする。


「ところで、なんでレオナルドさんは職業に戦士を選んだんですか?」

「やっぱり、RPGをするなら戦士かなと思って。特に深い理由は無いかなぁ」


 たしかに戦士というのが王道なのかな。今度はソフィアさんに聞いてみた。


「ソフィアさんは? どうして魔法使いを?」

「あ……いえ、私も、なんとなくです」


 何かを言いかけてから、結局レオナルドと同じような理由だったと彼女は語った。何か隠しているみたいだけれど、まだ心理的な距離は遠いだろうか。今は上手く聞き出せそうにない。


「私も魔法使いなので、同じですね」

「えぇ、まぁ……」


 そう話して同じだという事を強調してみると、フイっと顔を背けられてしまった。共通点を見つけて仲良くなろうと思ったけれど、しつこくて嫌がられてしまったか。まだまだ、仲良くなっていくのは難しそうだな。でも、諦めないぞ。


 そんな感じで、私は2人にダンジョンの攻略方法を教えていった。



***



 ダンジョンRTAの予選が始まった。2週間という期間内に、指定された最低限の装備とアイテムだけでダンジョンをソロでクリアすると、クリアタイムが記録されていく。そして、ランキングの上位100名だけがイベント本番の挑戦権を得ることが出来るというルールだった。


 イベントに参加するプレイヤーは、予選期間中なら何度でもダンジョンタイムアタックに挑戦してもよくて、クリアタイムの個人最高記録がランキングに反映されていくという仕組みらしい。


 全20階層。10層と20層に出現するボスが居るダンジョン。60分を切れるかどうかが、大きな鍵となっていた。


 イベントの本番では、ランキングの上位100名がタイムアタックしている模様が生中継される事になったらしい。第二回目の公式番組として、その模様が放送されることが決定された。ダンジョンRTAの実況解説に、ティティアナとブルーの2人が指名された。


 当初、プレイヤー達がタイムアタックしている様子の映像を流すだけの予定だったけれど、それでは盛り上がりが欠けるだろう。


 ということで、第一回の私とエリノルがやっていた公式番組が運営の想定していた以上に注目を集めたという事もあって、イベントを盛り上げる為に2人にお願いしたという。そういう訳で残念ながらティティアナとブルーの2人は、ダンジョンRTAのイベントには参加できない事になった。


「もう少し早めに、そういう事は教えといて欲しかったなぁ」

「正直に言うと、私はちょっとタイムアタックに自信が無かったからなぁ。番組出演をお願いされて、安心した部分もあったりするよ」


 ブルーはダンジョンRTAに参加したいと悔しがっていたが、ティティアナはタイムアタックに挑戦するのに弱気で、ちょっと難しそうだから応援の方に回れてホッとしたと語った。


 そんな2人は公式番組に出演する準備を進めつつ、タイムアタックに挑戦する他の皆をフォローする側に回ってくれることになった。

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