第2話 二度目の人生スタート
私の名前は
とは言いつつも普通とは違う、他の人と明らかに異なった特徴があった。それは、私が前世の記憶というものを持っている事。
私は、前世の現代日本で普通のサラリーマンをしていた頃の記憶がある。今世でも同じ日本人として生まれたが、何故か性別だけが違っていて女として生まれ変わって今の生活をしている。
この記憶が目覚めたのは、3歳の頃。
私の身体は突如、幼い女の子になっていた。小さな手、明らかに低い視線。意識が覚醒してきて、ここは何処なのか、何が起こったのかという状況を探ろうと思い辺りを見回した。
そこは大きなお店、デパートのおもちゃ売り場のようだった。小さな身になって、視界に入ってきた売り物の商品が並べられた棚がより大きく見える。しかしなぜ自分は、こんな所に立って居るのか理解出来なかった。
「ど、どうしたの? シホちゃん」
「大丈夫か、シホ?」
キョロキョロと辺りを見回す私に、とても心配しているという風に青ざめた表情を浮かべる美人女性が声を掛けてきた。その隣には、眉をひそめて困惑したような表情を浮かべて立っているイケメンの男性も居る。
その二人から、ジーッと視線を向けられ呼びかけられていた。それで呼ばれている自分が”シホ”という名前の子供だという事を理解した。目の前にいる大人の男女は、夫婦関係で、二人の娘が私という事なんだろうと理解する。信じられないことだが、徐々に状況を理解していった。
しかし、どうしたものか。今、私の身に起こっている事を説明してより強い不安を与えてしまうのではないか。女の子の中に、見知らぬ男の精神がある事。
赤ん坊の頃に母親から世話をしてもらった記憶、父親に抱っこしてもらった記憶。思い出そうとすると、次々に小野間志穗としての記憶が蘇る。乗っ取りではなくて、生まれ変わりだと思うけれど説明が困難だ。
すでに顔を青ざめさせるほど心配している女性に言って、更に心配させるような事を言ったら倒れてしまうのではないか、という恐れがあった。
しかも自分でもまだ状況が掴めず、混乱しているのに前世の記憶があって、今この瞬間に思い出したなんて事情を上手く説明できる自信が無い。だから心配をさせないようにすることを優先して、取り繕うことにした。
「ううん!だいじょーぶ、だよ」
舌がうまく回らず不明瞭な発音で喋ることになったが、意図せず幼い子供のような感じになって誤魔化すことが出来た。
「そう。よかったわ」
「そうか。それで、おもちゃはどっちにするか決めたかい?」
私の返事にホッと胸を撫で下ろした母親と思われる女性、話を次に進めようとする父親と思われる男性。
目の前に2つのおもちゃを差し出して見せてくる。おままごと遊びに使うのだろうフライパンや包丁のおもちゃと、着せ替え人形のどちらを選ぶのか。買ってもらえるのはどちらか一つだけ。
どうやら私は直前に、このおもちゃを両方買って欲しくてぐずって泣きわめいていたようだった。子供にとっては簡単に選ぶことは出来ない選択肢。
もしかして、そのショックで前世の記憶を思い出した……?
「……こっち!」
「よし、わかった」
それ以上に関して考えるのを止めて、私は着せ替え人形の方を指差して父親の質問に答えた。その答えに父親が笑顔で頷いた。母親もニコニコと笑顔を浮かべている。どうやら、なんとか誤魔化せたか。私も状況を把握して気分が落ち着いた。
それが、私の二度目の人生においての一番最初の記憶。13年経った今も「前世の記憶」について、誰にも打ち明けたことの無い秘密だった。
両親にも話した事は無かった。最初に、転生について説明するようなタイミングを逃してしまって以来、話す機会も無くて13年が経ってしまった。今更になって説明するのもどうかと思うので、この秘密については誰にも打ち明けない事に決めた。
墓場まで持っていく、誰も知らない秘密として隠し続けようと思っている。
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