第11話 マンネリ

 リミットファンタジーゼロをプレイし始めてから、早くも1ヶ月が経過していた。


 リフゼロに熱中している間、私は他のゲームには目もくれず夢中になってリフゼロだけをプレイしていた。けれど、プレイし始めた当初に比べると最近は少しだけ熱が冷め始めてきているように感じていた。


 ネット上でも徐々に人気が低迷しているようで、他の新作ゲームに関心が向くようになって、話題になることも少なくなった。早くもリフゼロはVR系ゲームの話題の中心から外れたような感じがあった。


 そうなったのもゲーム内のコンテンツが少なくて、プレイしていて楽しめる要素が意外と少ないから。ある程度、プレイ時間を重ねると早々にマンネリ化してしまう。にもかかわらず新要素のアップデートも無いし、プレイを続けていくモチベーションが下がってきたプレイヤーが多いのだろう。


 リリース当初の話題騒然となっていた頃からは予想できないぐらい、リフゼロには失速感があった。


 基本的にプレイヤーはダンジョンに潜って、モンスターを倒して、キャラクターのレベルを上げるか、釣りや伐採、採石をして素材を集めて武器や防具を生産するか。


 大きく分けると、主にその2つぐらいの行動しかできない。


 ティティアナがやっているようなストーリー収集という楽しみ方もあるけど、それは玄人向けだったりするので、とても大変で楽しいと思えるまでのモチベーションが保たない。


 実はリフゼロの世界観や設定は非常に膨大で緻密に作り込まれているらしいので、ストーリーとかを探っていくと調べきれないぐらい量のデータが発掘されるらしい。そして、パズルのピースを組み立てるかのようにデータを整理していくと見えてくる新たな情報を発見できるという。


 ハマるれる人はハマるだろうが、それだけ多いとなると調べていくのが面倒だろうって考えてしまうかも。


 やっぱり、私にとってゲームのメインは冒険することだった。


 メインストーリーに関係があるとされる、4つの秘宝。その秘宝が隠されている、というダンジョンの場所と存在については未だ明らかにされていない。プレイヤーが誰も発見していないから、それともゲーム内への実装がまだなのか。


 リフゼロ公式からは、秘宝のダンジョンに関する情報が一切出されていなかった。ゲーム内への実装がまだ、という事なんだろうと思うけれど。実際はどうなのかは、分からない。プレイヤーからも問い合わせが殺到していると思うんだけれど、運営は沈黙を続けている。メインプログラマーが逃げてしまって開発が止まっているとか、開発陣が大揉めして作業が遅れているという噂もあった。


 メインストーリーに大きく関係していそうなのに、そこから進められないでいる。ゲーム内に実装済みのストーリーはおそらく全部消化していて、そこから先に関するアップデートが無いから進行できない。


 ストーリーの先が気になっているのに、プレイできないお預け状態というストレスによって、プレイヤーがリフゼロから少しずつ、だが確実に離れていっている。


 ある程度完成しているのであれば、出し惜しみせず早く秘宝のダンジョンをゲームに実装して遊べるように、攻略できるようにして欲しいと思っている。だけど運営は動かない。


 実は本当に、実装に向けての準備が全く出来ていないとか。情報が一切出てこないのは、そういうことなのか。



 それともう一つの不満がある。仲間とワイワイ楽しめるようにするギルドシステムのようなシステムを早く実装して欲しい。ゲーム内には冒険者ギルドが既に存在しているから、実装する予定はありそうなんだけど。


 今現在パーティーを組んで一緒に旅をするシステムがあるけれど、ログアウトすると仕様によって毎回パーティー関係が自動的に解除される。いちいち、ログインする度にパーティーを組み直す必要があったりして不便だった。ゲーム中ずっと仲間関係を続けるギルドのようなシステムが欲しい。


 リミット・ファンタジー・ゼロが発売されてから、約2ヶ月ぐらいは経っているが、未だに大きなシステムのアップデートが実施されていない。定期的にサーバーのメンテナンスをするぐらい。


 ゲームの作り込みは素晴らしいけれど、クオリティアップにも力を入れて欲しいと思う。良いところも悪いところも変わること無く、ずっと放置されているから。


 ゲーム内容と運営に対する文句はそれぐらい。


 世界観には力を入れていて熱中できるように工夫されているし、実際にプレイしてみると戦闘は楽しい。だから人気低迷していくのが勿体ない。


 アイテムの生産も、集中すると黙々とやってしまう魅力がある。とても良いゲームなだけに、人が離れていく現状を惜しいと思ってしまう。運営には是非、頑張って欲しいところだ。



 フルダイブ型VRゲームが初体験だった私は、このゲームが今でも好きだ。



 そして、チャットグループの皆もこのゲームが私と同じ様に大好きになったので、今も一緒にプレイし続けている。


 皆で楽しめるように、色々と面白そうと思い付いた方法でマンネリに陥るのを避けながら遊んでいた。


「今日は、どうやって遊ぶ?」

「そうだなぁ……、こういうのはどう?」


 ブルーの質問に答えたレッド。彼の提案は、こうだった。


 高い場所から飛び降りて、いかに声を出さずに我慢できるかという勝負をしよう。いつものように、くだらないけれど勝負を始めたら皆が熱中しそうな感じの、絶妙な対決内容を彼はスッと提案してくる。


「なるほど、我慢比べってわけね」

「面白そうですね」


 二人の会話にエリノルと私が興味を持ち始めて、どうだと自慢げな表情を浮かべているレッド。


「高いところ、っていったらデルウ山に切り立った崖があったよね。あそこから飛び降りるのが、一番怖そうだわ」


 ティティアナが今までに調べてきた情報を思い出しながら、今回の対決に相応しい場所を瞬時に教えてくれた。彼女も、掛けている眼鏡をクイッと上げてドヤ顔をしている。


 外見は知的なキャラクターなのに、振る舞いがちょっとポンコツっぽい。メンバーが集まると、よく見る光景だった。




 教えてくれたのは、デルウ山。確かに、あそこから飛び降りると想像するだけで、うわっと思わず声が出てしまいそうな恐怖があった。リアルの世界では絶対に不可能な事、ゲームの世界だからこそ出来る遊びだ。


「このゲーム、落下ダメージは無かったっけ?」

「落下ダメージあるけど、この装備で無効化出来るぜ」


 エリノルの疑問に、今度はヴェルが答えた。彼は手に羽の付いたブーツを取り出し持っている。自作した装備だろう。特殊な効果によって、落下ダメージを無効化してくれるらしい。


 勝負は飛び降りる時に声を出さないようにすることだから、地面に着地するまでに死なないよう装備を整える。


「ナイスだ、ヴェル! 早速、行こうぜ」


 レッドの一言で、その場にいるメンバーが一斉に準備を始める。思いついた事を、即行動に移して楽しむ。こんな遊びをして、皆で集まって毎日のように楽しくゲーム内で過ごしていった。


 他にもゲームの中で、色々な自主イベントを開催してきた。例えば、腕相撲大会を行ったり、クイズ大会をしたり縛りルールを設けてPvPをしたり、自分たちで色々と独自のルールを設けたりしてリフゼロを飽きずに楽しんでいた。




 そんな日々が続いたある日のこと。今日は何をやるか話し合いが行われていた時、エリノルがこんな提案をしてきた。


「じゃあ今日は、度胸試しに街の広場ど真ん中で歌ってみるってのはどう?」

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