スカウト
第13話 コンタクト
ゲームからログアウトしてVRデバイスを外した私は、自室にあるパソコンの前に移動してきて、チャットアプリを起動した。
フレンドの状態がオンラインになっている。あの後、ゲームから抜けた私を追って皆もログアウトしてくれたのだろうか。皆が居るのを確認して、チャット欄に文字を打ち込んでいく。
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フォルトゥナ>ちょっと、皆さん。何処に行っていたんですか!?
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すると、皆からすぐさまチャット欄に返信があった。
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レッド>人だかりが凄すぎて近づけなかった。すまん助けられなくて。
ティティアナ>あんなに歌が上手かったのねフォルトゥナちゃん。
ヴェル>やる前の、あの自信の無さは何だったんだよ(笑)
エリノル>また明日って言ってたけど、本当にやるの?
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ログアウトした後、どんな状況だったのか教えてくれた。そして歌の感想だったりこの先どうするのかの心配だった。それぞれの反応がチャット欄に文字で表示されていく。エリノルなんかは特に、私の事を心配してくれているようだった。
ブルーだけ、まだチャット欄ではオフライン状態になっている。この場に居ないようで、彼からの返信はなかった。
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フォルトゥナ>どうしよう明日。
エリノル>本当にやりたくなかったら、なんとかして事態を収めるけど。
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そう言って、優しく気遣ってくれるエリノル。その優しさに、私は甘えたくなる。でも、事態を引き起こしてしまった原因は私だ。どうするべきなのか悩んでいると、チャットルームに入ってくる者が一人居た。
チャットルームに入ってくるなり、すぐさまメッセージを送ってくる。
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ブルー>それは難しそうですね。あの後、広場で大変な騒ぎになってましたよ。
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ブルーがチャットルームに遅れて登場した。あの後、広場に彼一人だけ残って状況がどうなったのか観察してきてくれたようだ。
彼の話によれば、私と他の皆がログアウトした後にも集まっていた人は解散せずに、広場で私の歌についての感想を言い合っていたそうだ。
偶然あの場に居合わせた、私の歌を聞いたというプレイヤー同士で、すごく会話が盛り上がっていたらしい。
ただの思いつきで、勝負したかっただけなのに。とんでもない大きさの騒ぎに発展していっているような気がする。止めようとしても止まらない規模の騒動になりつつありそう。
けれど、それだけプレイヤー達が盛り上がっていたという事は意外とイケるのか。ポジティブに考えれば、期待されているという事だ!
いや、無理やり良い方向に考えようとしてもダメだった。期待されている所に自ら出ていって歌うなんて恥ずかしすぎる。ただのプレイヤーだし、注目なんてされないだろうと思って人前に出て行って歌っただけなのに。
どうするべきなのか。本当は嫌だけどログアウトする直前に言ってしまったから。明日、また行きますと。
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フォルトゥナ>約束しちゃったから明日も行きます。
エリノル>大丈夫?
フォルトゥナ>なんとかします。明日行くって約束を口に出したのは私なんで。
エリノル>分かった。アタシも付きそうよ。
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行くと言っていたのに行かなかったら、嘘だったと責められたり恨まれるのも怖いから。親身になって気遣ってくれる、エリノルの存在がとても有り難かった。
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レッド>何か有ったときの為の男手として俺も手伝うよ。
ティティアナ>確かに今回はちょっと考えが足りなかったかな。事態が落ち着くまで私も手伝う。
ヴェル>仲間が困っているんだから見過ごすわけにはいかんよな。何が出来るか分からんけど俺も手伝おう。
ブルー>まさか、こんな事態になるなんて想像もしなかったから仕方ないですよ。僕も手伝いますね。
フォルトゥナ>ありがとう。みんな。
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***
「うわぉ」
翌日、歌った場所に来たら見えてしまった光景。それを目にした瞬間に、私の口からは思わず唸る声が漏れ出ていた。
そこには、予想を遥かに超えた多くの見物人が集まり待ち構えていた。私が現れた瞬間、歓声が沸き起こる。
昨日は数十人ぐらいだった人数が、下手したら百人以上のプレイヤー達が集まって居るのではないか。こんなに多くの人達が、私なんかの歌を聞きに来たのか。
「こんなに人が集まってるぅ……」
勇気を出して来てしまったことを、今更になって少し後悔する。そして、大人数を目の前にして情けない声を上げてしまう私。
ただの素人が歌って聴かせるだけなのに、ライブイベントのようになるまで事態が進展していた。そんな歌に自信がある訳でもないのに、これから私は歌うのか……。
でも、こんな状態になって今更止めますとも言えない。結局歌うしか事態を収める方法はないようだ。
「じゃ、じゃあ早速、歌います」
昨日とは違った曲。リミットファンタジーゼロのオープニングに流れる、主題歌を私は歌う。この曲を歌うとリフゼロを始めたばかりの記憶が蘇ってくる。今の状況を忘れさせてくれる。
今、リフゼロをプレイしているプレイヤーなら知っているだろう曲。
アップテンポで盛り上がり、聞いているとテンションが更に上がっていくような曲。歌っている私自身もテンションが自然と上がっていき、どんどんと歌うのに夢中になっていく。だんだん、周りの様子が気にならなくなってきた。
歌い終わった瞬間、歓声が沸き起こった。かなり好評だった様子、自信もついた。それから、二曲続けて歌ってみた。どちらも歌い終わったら称賛の声が上がった。
これで満足してくれただろうか。突発的に実施した事なので、何曲歌うとかも予定していない。ここら辺りが頃合いなんだろうと思ってタイミングを見計らい、終了を見物人達に告げる。
「今日も素晴らしかったよぉ!」
「終わらないでー!」
「アンコール! アンコール!」
「次はいつ開催ですか?」
どうやら、これは次回開催へと続く流れなのか。めちゃくちゃ期待されているし、そんな彼らの視線によるプレッシャーが凄い。
「うっ……」
期待の眼差しで見物人達から注目されて、私は言葉に詰まり黙ってしまった。何か言わないと。でも口が開かないし、どうしよう。迷っていると、誰かが私の目の前に立った。
「今日は、これで終了になります! 次の開催は未定です。日時を決めてから、また告知するので。お楽しみに」
「あ、ありがとうございました」
私の代わりにエリノルが前に立ち、説明してくれた。今回は仲間が助けてくれて、なんとかプレイヤーの囲みから脱出することが出来た。
「ちょっと、ここから離れて休もうか」
「皆で、冒険酒場に行きましょう。あそこなら静かに休める」
慣れない人前に出て歌ったことで、色々と疲れた私をエリノル達は気遣ってくれた。そして、ティティアナが提案する場所に移動して休むことに。
そこでなら気を落ち着かせて休めるだろうと、案内してくれた。
「よし、ここなら大丈夫そうだな。ゆっくり休んでくれ」
先行して、中の様子を確認してくれたレッド。まるで有名人を護衛するような物々しさ。
皆で冒険酒場に入って、腰を下ろす。酒場の中には私達の他に人は居らず、静かだった。
「しかし、凄い盛り上がりだったわね」
「本当に歌が上手い。まさか習ってた?」
「音楽関係で言うと、ピアノを少し習ってました」
「なるほどな」
「次は、どうしようか」
「一応、次回は未定って言って逃げたけど」
「うーん」
「最悪、私が責任を持って叩かれる覚悟で。次の開催は無い、って発表して終わらせるのはどう?」
そんな事をしたら、エリノルにヘイトが溜まる。私が始めて起こしたことなのに、彼女に迷惑をかけるなんてとんでもない。これ以上は、巻き込みたくなかった。
「それは駄目」
円満に終わらせる方法、なかなか良い案は浮かんでこない。けれども、エリノルの申し出には流石に待ったをして止める。そんな事をしたら彼女が責任を負って、悪者になってしまうから。
「じゃあ、定期的にやっていく? 皆が飽きるのを待って」
「うーん。飽きるまで、どれぐらい時間が掛かるかな?」
そんな会話を繰り広げている最中、二人の男がふらっと近寄ってきた。
「ちょっと、よろしいですか?」
近付くだけでなく、声も掛けてきた。見知らぬ二人だが、先程の歌を聞いてくれていた人だろうか。私達の後を付いて来たのか。
「君たちは誰だ? 要件は何だ」
声を掛けられた私に代わってレッドが尋ねた。ちょっと、警戒したような声色。
「私、このゲームのプロデューサーを務めている伊田と申します。コチラがディレクターの中宮です。少し、お話よろしいですか?」
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