第26話 反響
あの公開生放送が終わってから数日後。運営から、ボイスチャットで打ち合わせがしたいというメール連絡が来ていた。
私は予定の時間に自室のパソコンを起動してヘッドセットマイクを装着してから、連絡するのに使っているアプリを起動した。ボイスチャットが繋がったので私は話し始めた。
「おまたせしました」
「大丈夫ですよ。予定の時間まで、まだ5分あるので」
「あと一人、まだ来ていないのはティティアナかな」
今日の打ち合わせは、レッド達ゲーム仲間の皆とプロデューサーの伊田さんが参加すると聞いている。
予定時間よりも少し早めに私がボイスチャットで参加した時、ティティアナ以外は全員既に集まっている状況だった。
残り1名の到着を待っている間、ボイスチャットのグループで世間話が始まった。話題は、つい一週間ほど前に行われた公開生放送について。
「ところで皆さん。動画サイトに投稿された映像はご覧になられましたか?」
「見ました」
「同じく」
伊田さんが言っている映像というのは、先日行われた緋色の秘宝ダンジョン攻略の公開生放送を録画した映像をリフゼロのスタッフが編集をして、某有名動画サイトにアップロードしたモノだ。
私も話を聞いてチェックしてみたけど10分程度で分かるように編集されていて、とても見やすくなっていた。しかも、ただの攻略している動画という訳ではなく皆がロールプレイしている感じになっていて、ちょっとしたアニメを見ているかのようにも見える感じで動画が編集されていた。
これなら、リフゼロのプレイヤーじゃなくても見てみて楽しめそうな動画になっているなと思った。
レッドやエリノルが、勇敢にも巨大なモンスターへ恐れずに立ち向かっていく姿が非常にカッコよく見えた。ティティアナの賢者姿が知的で、ヴェルのハンマー攻撃は迫力満点だった。
そういう事もあってか、視聴回数はアップロードして数時間後には10万を超えるという、とんでもないスピードで増えていって多くの人に見られている映像となっていた。
今では、視聴回数がとうとう100万回再生に到達しようかというところらしい。ネット上でも話題になって、いくつかゲームのニュースサイトで記事に取り上げられるほどの反響があった。
「あの動画のおかげで、リフゼロの新規ユーザー数がここ一週間で一気に20万人も増えたんですよ」
「それは多いですね。そんなに増えたんですか」
「たしかに、最近ログインすると最初の街にプレイヤーが増えている、って体感してましたよ。新規プレイヤーが増えたかなって肌で感じてました」
プレイヤー数が増加したことを嬉しそうに語る伊田さん。しかし、続けて困った事も有ったと語る。
「えぇ、そうなんですよ。ただ想定していたよりもプレイヤー数が増えたんで、緊急でサーバー強化のメンテナンスが必要になって。今は現場で中宮に頑張ってもらっている、って感じですね」
プレイヤーが増えた事は単純なメリットだけではなく、デメリットも有るという。ディレクターの中宮さんや他のスタッフは、対処するのに大変そうだった。
「おそらく復帰組とかも多いんでしょうけれど、新規のユーザーも多かったんです。リリースし始めた頃のリフゼロにあった活気が戻ってきてるんですね。一度、人気が下火になっていたのに劇的に評判が復活してきたと、実は業界でも話題になってるんです」
「へぇ、それは凄い」
伊田さんが今のリフゼロの現状について教えてくれた。先日の公開生放送は、色々なところで反響が有ったみたいだ。そんな事を話していると、残りのメンバーが到着した。
「すみません、遅くなりました」
「大丈夫です。予定時刻丁度ですよティティアナさん。それじゃあ打ち合わせを始めましょうか」
伊田さんが打ち合わせの進行を務める。今日は一体どんな事を話すのか。ざっくりと聞かされている内容では、公認プレイヤーに関して今後どうするのか、という事を話し合うって言っていたけれど。
「先程もちょっと話しましたが、今回の公開生放送が大成功したことで色々と反響がありました。それで、この勢いを逃さないように次の施策を考えています」
公開生放送の反響があったお陰で、公認プレイヤーの有用性を認められた。それによって公認プレイヤーとしての活動に本腰を入れる、ということが決定したそうだ。
「ひとつは、公認プレイヤーの数を増やそうと考えています」
「増やすんですか?」
「はい、そうです。公認プレイヤーのメンバーを増やします。まだ詳しくは決まっていない先のことですが、募集して面接を行ったり、スカウトする予定ですね」
私達の時は偶然にもプロデューサーの目に留まり、簡単なスカウトだけで決まったけれども今度は面接等をするつもりらしい。
かなり本格的に、公認プレイヤーとして働ける有能な人材を発掘していく予定のようだった。
もしかしたら私達は新しいメンバーとの交代でクビになったりとか。そんな事も、あり得るかもしれないなぁ、とネガティブに考えたりしながら特に質問もせず黙ったまま、伊田さんの話に耳を傾けていた。
「それで、次にですね。コチラをご覧ください」
アプリの共有画面に伊田さんが資料を映してくれる。それを確認しながら私は、彼の説明を聞く。
「定期的に放送する、リフゼロの公式番組の制作を予定しています。この番組では、前回やってもらったようにダンジョンを攻略する様子を放映したり、リフゼロに実装される新システムについての情報を告知したり、課金アイテムの紹介等を行っていく予定です。それで、皆さんにも出演者として番組に出てもらいたい」
他のオンラインゲームでもよくやっているような公式番組というものを、リフゼロでも制作して放送するらしい。
「いま考えているのは、1週間に1回の放送で1時間の枠。出演者はココに居る公認プレイヤーから毎回二人ずつを選出して、やってもらおうかと予定しています」
「確か、サービス開始前にも公式番組のような事をやってましたよね。あんな感じですか?」
レッドが確認する。そんなのが以前あったのかと、私は知らなかった情報について聞いて驚く。リフゼロがサービス開始された後、偶然VRデバイスを手に入れてからプレイし始めたので、ちょっと遅れてゲームに参加し始めた私。だからサービス直後の出来事について、私はあまり知らなかった。そんなのが有ったのか。
今、リフゼロは公式番組をやっていなかったはず。
「そうですね、全4回の放送をやりました。ただその頃は、視聴者数が思ったよりも良くなかったので、打ち切りという形で終わりになったんです。今回は、新しい公式番組ということでスタートさせる予定で、続きという形とは違います」
「なるほど」
でもまた打ち切り、なんて事にならなければ良いけれど。そんな前例があるというのなら新しく番組を任されるのは少し怖いなぁ、と思う。
「それで番組のオープニング曲についてですが、フォルトゥナさんに歌ってもらおうかと考えています」
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