第39話 六人集合3
ビルの受付で取り次いでもらい会議室に案内された。会議用テーブルに10人分の革張りチェアが置かれた部屋、中に誰も居らず閑散としていた。早く来すぎたのだろうか、私達三人の他にはまだ誰も到着していないみたいだった。
会議室は白い壁で清潔感のある、心が落ち着くような場所だった。掃除もちゃんと行き届いている。会議するのにピッタリそうな場所だった。
地上からは見上げる程の高さがある高層ビルには、フェニレート社以外にも複数の企業が事務所を構えているらしい。複数の企業という中にはCMで聞いたことのある有名な電話会社や保険会社等の企業が、別のフロアを借りて同居している。
フェニレート社の会議室があるこの場所も22階という高さにあって窓から見える景色が凄かった。この場所でリフゼロが開発されているのかと思うと感慨深い。
しばらく三人のまま会議室で待っていると男性一人と女性一人が部屋の中に入ってきた。
「こんにちは」
青年がハキハキとした口調で元気よく挨拶する。彼の格好は頭にタオルを巻いて、作務衣を着て合成樹脂製の靴を履いている。ひと目見ただけでも、職人っぽいという感想を抱くような格好だった。
残り一人の男性ということで、彼がゲーム友達のヴェルなのは明らかだった。
「よろしく、ブルーを名乗っている千木良登志夫だ」
「あぁ、貴方が。よろしくおねがいします、ヴェルを操作している
ブルーの千木良さん、ヴェルの黒石さんと名乗った二人が握手を交わしてから挨拶をする。
「フォルトゥナの小野間志穗です。今日はよろしくおねがいします」
「あぁ、よろしく。若いね」
千木良さんに続いて私も彼と握手を交わして挨拶を済ませた。ゴツゴツとした男性っぽい手を感じた。そして、残りはレッドの石坂さん。
「え? え!?」
石坂さんは、なぜかアワアワと狼狽えていた。一体、何事だろうか。正面に立って挨拶をするつもりだった黒石さんも困惑している様子だった。石坂さんが慌てている理由は、すぐに分かった。
「も、もしかして、黒石さんって、あの陶芸家で有名な黒石さん!?」
「有名かどうかは分かりませんが、確かに陶芸をやってる黒石です」
そう言って黒石さんは謙遜する。私は知らなかったが、どうやら石坂さんは知っているような有名人らしい。
「誠、知っているのか?」
「もちろん! この方は将来、人間国宝に認定されるのも時間の問題と言われているほどに有望視されている若手陶芸家だよ!」
千木良さんの質問に対して、興奮しながら解説してくれる石坂さん。そんなに凄い人だったのか。というか、そんな人が知り合いで一緒にリフゼロをプレイしていたと思うと、もっと驚いてしまうような事実。
色々と話を聞きたいけれど、もうひとり。黒石さんの後ろに立って放置されている女性の方とも挨拶を済ませたい。
「ところで、そちらの女性はもしかしてティティアナさん?」
「うおっ!? いつの間に?」
私が聞くと、その女性はコクリと頷いて答えた。そしてなぜか、部屋の中に一緒に入ってきた筈の黒石さんが、後ろに立つティティアナを振り返って見て驚いていた。一緒に居たのに気付いていなかったのか。
「そうです、私がティティアナ。本名は
声を聞いてイメージしていた通り、彼女の容姿はメガネを掛けている知的な大人の女性だった。年齢は私よりも上だろう。中年女性と呼ばれるまでの年齢には、達していないぐらい。伊礼さんと同い年ぐらいか。
大和屋さんは今の見た目の印象と実態が異なっていて意外とおちゃめ、おっちょこちょいな性格をしているのを私達は知っている。
「すぐ後ろに居たなら、ひと声かけてくれても良かったのに」
「女の子の方から声を掛けさせる気ですか? 破廉恥な」
「いやいや、そんな理不尽な」
「焼き肉を奢ってくれたのなら、無視された今回の件は許します」
「要求がデカすぎないか!?」
「正当な要求ですよ」
「そんな純粋無垢な目で見られても」
「お腹が空きました。焼き肉を絶対に要求します」
ゲーム内と同じように、二人は楽しそうに会話をしている。リアルな世界で向かい合っても変わりないお喋りが続いていた。
「よろしくね、志穗ちゃん」
「あ、はい。よろしくおねがいします大和屋さん」
会話が一段落して、大和屋さんが笑顔を浮かべて私の隣の席に腰を下ろした。
そして、最後に到着したのは彼女だ。
「アタシが最後? 打ち合わせに間に合った?」
そう言って慌てて会議室に飛び込んできたのは伊礼さんだった。予定していた打ち合わせの時間ギリギリに到着した。
「こんにちは、まだ打ち合わせは始まってないですよ」
「約束の時間、ギリギリだな。もっと早く来ないと今度は遅刻するぞ」
「これで六人集まった、ってわけね」
「プロデューサーとディレクターを呼ぶんですか?」
「約束の時刻になったら会議室に来るでしょう。静かに来るのを待っておこう」
こうして、ようやくゲーム仲間であり、リフゼロの公認プレイヤーでもある六人が集まって、初めて現実世界で集合した瞬間だった。
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