第56話 ダンジョンRTA

 イベントがスタートした。皆がダッシュしてダンジョンに入っていく中、私も同じように走ってダンジョンの中に入っていく。ダンジョンに足を踏み入れた瞬間から、タイムの計測がスタートする。


「とりあえず、武器と回復アイテムの確保からだよね」


 先程までは応援してくれる人達が居て盛り上がっていたのに、ダンジョンに入ると急に静かになって心細くなる。独り言を口に出して、不安と寂しい気持ちを紛らわせながら薄暗い洞窟のようなダンジョンの中を進んでいく。


 普段はパーティーの皆と一緒にダンジョンは潜っているけど、今日は一人で進んでいくから。予選の時やタイムアタックの練習をした時には一人で進んでいたけれど、やっぱりこの環境には慣れない。


「まずは、あっちに進みようかな」


 今度は無意識に声を出していた。番組では皆のダンジョン攻略の様子を撮影されているらしいけれど、今の私の様子も画面に映っているのだろうか。映っていないならば、独り言をぶつぶつと言う不審人物になっているのだろうか。


「ま、いっか。先は長いし、好きなようにリラックスして行こうか」


 下層に進む階段を探して、アイテムも探しつつモンスターとの遭遇や戦いでタイムロスを極力避けていきながら、出来る限り短縮ルートを目指して色々と戦術を考え、ダンジョン内を進んでいく。


 モンスターとの戦いも、最小限回数に留める。だけど逃げ切れない場合には、意を決して倒してしまった方が早いし良いのかな。


「あ、良い感じに攻撃を避けられた! こんな感じて敵の攻撃を避けられるのが良いですね」


 退路を塞がれてモンスターから逃げられず、やむを得ない戦いが発生する。ただ、少しでもミスが有るとRTAが失敗に終わってしまうような状況。そんな状況の中、イメージした通りに身体を動かして避けることが出来ていた。思い描いた通りの戦闘勝利にテンションが一気に上がる。とても良い感じだった。


 配信に映っているのか分からないし、見られてるかどうかも分からないけれども、もしも見られていたら観客も喜ぶだろうギリギリ感を演出できただろう。おそらく、見られていないとは思うんだけど。


「よっし! 武器が手に入ったよ。これは、本当に20位行けそうかも!?」


 通常ドロップ率5%ぐらいしか無い武器装備が、一発でドロップした。この装備があればダンジョン内を順調に進められる。一発勝負の本番で手に入るなんて、かなり運が良いと思う。


「早速、装備してみます。うん。よし、良い感じだ。次に急ぎ行きましょう」


 初期装備として支給されていた杖から、ドロップで手に入れた魔術師の杖に装備を変更する。これで、他のプレイヤーより大きくリード出来たと思う。このまま突っ走って最後まで行きたいと思うが、どうだろうか。


 とにかく、周りから反応が無いと言うのが寂しい。最近は、ゲームのウィンドウを開いてリアルタイムでメッセージを確認できたりするから、1人で攻略していても何か反応があって良かったんだけれど。それを封じられただけで、こんなに心許ないとは。寂しさを紛らわせる為の独り言が続く。


「ちょっと、賭けに出てみようかな」


 スケジュール通り順調に進んできて、10階層直前まで到着していた。だが、この先のルートをどう進めるかを悩んでいた。


 タイムを短縮する賭けに出てボスモンスターに挑戦するのか、安全策を取ってみてしばらくアイテムをかき集めてから万全の態勢に整えてから挑むべきなのか。ここで急いでもいいけれど、順調に進めてきた分タイムには余裕があった。


 悩む時間はごく僅か、すぐに僕は判断を下す。クリアタイムを短縮する為に賭けに出てみて、挑戦しよう。


「良い武器と防具は手に入ったから、大丈夫だと思う。行きますッ!」


 声を出し気合を入れて、10階層に突入する。そこには、巨大なイノシシのようなモンスターが待ち構えていた。敵は私を視認すると、いきなり猛スピードで突進してくる。


「突撃してきた時に、大きく横へ飛び込むようなローリングをして避けてから、立ち上がって後ろに回り込む。すぐに攻撃、すぐに離脱して、すぐに遠距離攻撃を当てていく。これの繰り返しで大丈夫ッ! っと」


 ボス攻略法を口に出して動きを確認しながら動く。今日は全体を通して、良い感じに軽快な動きが出来ている。


「あの巨体が突っ込んでくるのは怖いけど、勇気を持って接近したら勝ちだ!」


 中途半端な位置取りだと、突進された時に避けきれず当たって大ダメージを受けるだろう。距離を取ろうとしても、タイミングを間違えたら一気に近づかれて離れられない。見た目は大きいけれども、想像している以上にボスモンスターの動きが素早いから。


「ハッ! ここで一気に接近しようッ!」


 結局、モンスターに接近して攻撃するのが一番安全だという。勇気を持って、敵に近寄っていく。万が一、離れてしまった場合にも慌てずにタイミングを見計らって、遠距離攻撃も織り交ぜつつ攻撃の手を緩めない。


 ここはリフゼロを始めたプレイヤーが、チュートリアルのようなクエストを受けて最初に攻略をする事になるダンジョンだから、ボスモンスターの動きも単調だった。パターンを覚えたら危なげなく倒すことが出来る。何の失敗もしなければ、だけど。


「ということで一丁上がり、っと!」


 避けて攻撃を繰り返しているうちに、戦いは終わっていた。難なく10階層のボスモンスターを攻略することが出来た。途中ミスして、一発でも攻撃を食らったりすると危なかったけど、賭けに勝つことが出来た。


「よっしゃ! しかも、レアドロップ!? 本当に運が良いです。ありがとうっ!」


 ボスモンスターを倒して、レアドロップの装備品もゲットすることもできた。


 確率的には0.1%を切ると言われている防具の鎧だった。早速装備をしておく。これで多少の危険に突っ込んでも体力がゼロになって脱落する、という可能性がほぼ無くなった。


「凄く良い感じだよ。スケジュールのタイムより、だいぶ早く進めてますね」


 目標だった20位よりも、上位にランクイン出来るかもしれない。そんな可能性が見えてきた。


 ここで慢心せず、早足で次の階層へ進んでいく。けれどメチャクチャテンションが上がっていて、笑顔を浮かべているのが自分でも分かるぐらいに興奮していた。


「いやいや、落ち着けってフォルトゥナ。焦りは禁物だって」


 足を動かして前に進みながら、自分に言い聞かせて落ち着く。まずはボス戦で消費したアイテムを、11階層から13階層まで進んでいく間に回収する事。直近の目標を再確認して、ダンジョン内を進んでいった。

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