第43話 限界突破ってなぁに?

「はぁ、久々死ぬかと思いました。」


「でも、このキングは結構強いね。左手とはいえ、3発も避けられちゃったよ。」


なんだ、この人は?私の攻撃は半分以上当たってないぞ。


「やっぱり強力の個体だったか…バリスタが貫通しなかったとき少し嫌な予感がしたんだ。物理に強いって言っても限度があるしな」


そうなんだ。そのせいで、私ひとりで勝てるビジョンはなかったけど、個体差とか結構あるんだな…気を付けよう。


「多分綾香さんとかのビリビリバフが使えてたのかな?それにしても、八神さんが遅れ取ったらダメじゃんかぁ」


「いや、おっしゃる通りだわ…面目ない。久々の接近戦だから結構鈍ってたわ…少し訓練を増やすよ。」


「そうだよ~!幹部になったんだから、それなりに武でも示さないと。あ?そろそろ限界突破しに行く?」


「まじかよ。。。でも必要か…」


そういえば、幹部の人たちは軍を創設する前に冒険者稼業をしていたから限界突破を重ねてて、みんなより遥か高みにいるって聞いたことあったな。


「限界突破って何ですか?」


「木梨君にはまだ早いかもだけど、スキルってレベル5で一旦頭打ちになるだよ。それから、いくつかの条件をクリアすると限界突破してスキルの上限レベルが10になるんだ。」


湧帆さんが簡潔に説明してくれ、具体的な補足はいつもの八神教授だ。


「限界突破の方法が分からないスキルの方が多いけどな。その中でも難易度は高いが優先度が高くて明確に方法が判明してるスキルが身体強化になる。首脳陣はほぼ全員が持ってる限界突破スキルで俺らと首脳陣の違いはそのスキルのせいと言ってもいいんだ。」


「まぁ、身体強化なんて5も持ってれば、大体は無双できるけどねぇ。」


なんだ、そのやべぇスキル


「なんで八神さんは、そこまで言うのに身体強化の限界突破をしないですか?」


私の質問に想像以上の長文が返ってくる。


「俺も聞いた話だが、天然ダンジョンの奥にある祭壇での祈祷が必要らしいからな。ダンジョンマスターがいないダンジョンとうか魔物エリアを天然ダンジョンって言ったりするんだが、あれだ一緒に言ったアイスガーデンも天然ダンジョンだな」


あれか、雪山だな。


「険しい渓谷の狭間にある地下洞窟で約100階の最深部に祭壇がある。どうしてそこに祭壇があるとかは不明だけど、そこに4人以下の人数で行かなければならない。しかも、100階を下りるには、今の首脳陣が行っても一か月はかかるし、魔物の主要レベルはB~Sなんだってよ。なんでも後半はS級ばかりで、キングクローデンと連戦するイメージかな。」


なんだ、そのヤバい場所


「でも戦闘は正直問題ない、例えば湧帆をパーティーに連れてけばなんとかなるんだ。さっきみたいにS級だろうがSS級だろうが単体なら瞬殺だからな。だけど、一か月以上の遠征が厳しい。食料だけでも4人パーティーだと備蓄が難しいし、装備の管理も出来ない。今の軍のスタイルだと上位陣からアタッカー、生産系、回復系、取得希望者の編成で2か月近く赤坂を空けなくちゃいけなくなる。はっきり言って、設備維持を担ってる櫻井さんとか工藤さん(あっちゃん)が2か月いないとか現実的じゃないんだよ。」


「懐かしいなぁ、後半魔物ばっかり食べてて魔物食に詳しくなったのもあそこ行ってからだったなぁ。」


湧帆さんが、旅行に行った思い出みたいに魔物食について語る。やっぱり、魔物も食べるんですね。


「なるほど、じゃぁ私が備蓄担当で行けば生産系は居なくても大丈夫ですね。よし、帰ったら湧帆さん!一緒行きましょう!」


さぞ名案を思いつたと言わんばかりに胸を張る。小さめだが…


「ははは、香川さんは強くなることにどん欲だねぇ。限界突破にはいくつかルールがあって前提スキルがレベル5でカンストしないと取得できないから、すぐには行けないよ」


なるほど、今日から腹筋しよう。筋トレは嫌いだがスキルは欲しい。琴音ちゃんも興味あるようで身体強化スキルについて質問する。


「身体強化ってどうやってレベル上げるんですか?」


「そうだなぁ。まぁ筋トレとかじゃ、上がらないな。」


やべぇやべぇ…情報大事


「主に戦闘行為のなかで覚えるみたいだ。魔物との戦闘でも大丈夫だけど効率の良いのは模擬戦なんだよ。基本的に安全だしね。だから、訓練は模擬戦主体なんだ。」


なるほど、戦闘行為に対する慣れが目的の訓練だと思ったけど、実際は効率の良いスキル取得が目的だったのか。確かに琴音ちゃんですら身体強化レベル1は持ってるからな。


「ありがとうございます!よし、木梨さん!今日も模擬戦付き合ってください!むしろ増やしてください」


「あぁ、もちろんだよ!」


私だけだろうか…琴音ちゃんの付き合ってください!が逆告白みたいに聞こえてドキッとしたのは。濁ってる。20歳を超えれば女も大抵濁ってるな。。


「三石はなんで、そんなに身体強化にこだわるんだ?ヒーラーだしそこまでは必要ないだろう。正直、走って逃げれるレベル1あれば十分だ。訓練に参加しない連中もレベル1までは取得してるから免除されてる節があるし。」


「そうなんですか?…でも、戦闘中って私足手まといだから…せめて、木梨さんが生身で戦闘参加しても大丈夫なくらいには自衛したいんです!」


まぁ、今日の木梨君は分身とはいえは10回は死んでるけどね。生身でも3回くらいは死んでるんじゃない?自分より早い相手には急に戦闘クオリティが落ちるのが木梨君の弱点だな。あ!ふむふむ良いこと思いついた模擬戦ときはそれでやっつけよう。


「そうか、最近の女の子はみんなやる気があるなぁ。。」


八神さんが40台のオッサンみたいなことを言う。まぁ、40なんだが4~5歳くらいにしか年が離れてないように感じるのが八神さんの魅力だ。


「やる気はないんですけど…足手まといは嫌ですから。」


そうなんだ。。琴音ちゃん私と一緒で訓練好きだと思ってた。。やっぱり嫌いなんだ…私は独り身同盟を裏切れたような絶望的な顔になる。


「香川さん、そんな顔して…模擬戦が好きな女の子なんて普通はあんまり居ないよ」


「私も嫌いです!!」


八神さんが落ち込む私の顔を見て変な事を言うので、反射的に嫌いという。友達に「何々君の事好きなんでしょ~?」と言い当てられると絶対に「嫌いだから」って返すタイプでした。素直になりたい…


「はははは」


湧帆さんは笑っていて、自意識過剰かもしれないが私の心情を的確に読み取ってくれてるような大らかさを感じる。細い道から声がする。


「あのぉ~ご歓談中、申し訳ないでやんすが話に入って大丈夫でやんしょうか?」


ん?モグラ人がいる。


「あ、ゲレイロさんですか?」


すかさず、八神さんが社交性を出す。


「はい、そうでやんす!助けてくれてありがとうございやす。」


「いえいえ、こちらこそ今回は軍にお手伝い頂けるようでありがとうございます。」


八神さんはそう社交辞令と共に礼をし、社会人の手本を示す。


あぁ、そういえばゲレイロさんの事すっかり忘れてた。うっかりしている間に、八神さんに先制を打たれてしまった。会話の主導権は私が持ちますからね!!


私が対抗意識を燃やしているとゲレイロの方から挨拶に来る。


「唯様もありがとうございます。」


「様付け…」


八神さんが変な目で私を見て、湧帆さんは腹を抱えて下を向いている。おうおう何が変なんだ?オーナー様だぞ?


「じゃゲレイロ、とりあえず落ち着ける場所へ移動して話をしましょうか」


「了解でやす。こちらへどうぞ」


そういうと、ダンジョンマスターというよりは執事のような感じに先を歩き出す。


「あ、キングクローデンの拘束ってこのままで大丈夫ですか?」


「ん~取り合ず、一日くらいは大丈夫だから、飼う方法を考えてから殺すでも大丈夫だよ?」


豚の家畜みたいな言い方だな。流石に哀れだわキングよ。。


そうして、我々一行はゲレイロと一緒にダンジョン奥に進む。


どすんどすん


あぁ、ギガンテスも来るんだ…




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