第46話 寄道、道草、草団子

前方にはバダと呼ばれる村が見える。


いや、厳密にいえば初めて見たイメージでは村とは分からない建造物だ。日本でいう市町村は隙間がなく、地図の上からでしか確認できない線により区切られ何となく集落があるものを村と呼んでいた。

しかし、目の前にある10メートルを超える木製の塀で覆われている村というのは少ししっくりこない、どちらかと言えば要塞ののような物々しさがあり、離れてるはずなのに存在感ある建造物だ。

当然、車の中からでは村の中を伺うことはできない。ただ塀の周りには、あちらこちらに柵が設けられ米や麦、時には野菜など栽培され田園と畑がごちゃ混ぜになった不思議な農業地帯は視認することが出来る。私のイメージでは田園や畑はあまり共存しないが、この辺も異世界という事だろうか?


それよりも、実際に農作業をする人がちらほらと見受けられ、人のいる場所に来たのだと感動を覚える。車が珍しいのかこちらを覗くように遠巻きに見る人が多い。


「魔物とか平気なの?畑とかも塀で囲えばいいのに」


私は単調だった道中から目新しい空間が飛び込んでくると自然と感想を漏らしてしまう。


「森から離れてる平原でやんすから比較的安全でやんすが、結構出てくるは出てくるでやんすね。まぁ、この辺はアルトダイト大平原に比べれば平和そのものでやんす。費用対効果を考えれば、農村地帯のために塀を作る位なら畑を耕した方がいいでやんすねぇ~」


アルトダイト大平原は私が放り出された平原でクローデンの巣窟。そこら中にヤバいのが結構いるらしい。まじ不運だな。。

よく観察すると、農作業している人も軽装なりに防具を付けた男性が多く自衛できる人が命がけで農作業をしているように見える。


「魔物は畑を荒らさないのか?」


八神さんも同じような感じで話を続ける。


「この辺はゴブリンがメインでやんす。奴らは雑食でやすが、相当切羽詰まらないと野菜は食べないでやんすね。肉好きで有名でやんす。ボアとかが多いところは夜も防衛が必要だから農業は難しいでやんすね。まぁ農地があるって事はそれだけ安全ってことでやんす。」


ダンジョンからここまでの道すがら平原や川沿いなど人が住めそうなところは数多くあったが、魔物の存在がどこでも人が住めるようにはしていないのか。その結果、領土確保が難しく発展も遅れる。魔法があればすごいことが出来るって訳じゃないんだなぁ。グランフロントでは戦って生きることが最優先なんだろう。


ほどなくして、村に近づくと塀の周辺に堀が掘られて水が張っており、そこに車が三台分くらいの通れる大きな橋が門に向かって架けてある。その橋の手前には塀に使われてるような木々で掘っ立て小屋が作ってあり、そこで入村手続きをするらしい。


「あ、そういえば香川さん達の許可証が無いな。」


そりゃ身分証明書は必要か、勝手によそ者を入れられないしね。


「従者って事でよければ、あっしは行商許可書があるでやんすが?」


「いえ、正規の方法で入りたいわ。どうせこれからも使うし。」


それに、なんとなくゲレイロの下には極力付きたくない。


「じゃ、一時許可書だな。行商許可と帝国市民証があれば発行できるだろう。」


そして、入村手続きをするべく小屋の警備兵にあいさつに向かう。


「お?ゲレイロさんじゃないか?」


「これはこれは、アンガスさんでやんすね!」


アンガスさんと呼ばれた警備兵は金髪に青い目でくたびれた鉄製の兜に鎧と槍を持っている。年齢は30代くらいでちょうど働き盛りのといった雰囲気だ。それよりも、このモグラ顔を見てすぐにゲレイロと判断できるのは中々の人選眼(モグラ?)をお持ちだ。


「随分と久しぶりじゃないか。しばらくはこの辺のルートで行き来するって言ってたのに…でかい車だな随分と羽振りもよさそうだ。」


「ちょっと色々ありやして、行商はお休みでやんす。今はこちらの香川様の従者のような立場で働いてるでやんす。」


「ゲレイロさんが従者だぁ!?へぇ…あれ、土人さんかい?」


私に疑いの目を向けたアンガスさんに対してカットインするように八神さんが話を割り込む


「はい。自分は東邦義勇軍所属大将の八神敦と言います。」


帝国市民証というか、軍証みたいのを出して八神さんが自己紹介をする。


「義勇軍だぁ!?何しにきやがった追加の徴税なんて無理だぞ?」


おうおう嫌われてる。


「いえ、観光ですよ。ゲレイロさんが素晴らしい村だというので」


「おぉ、そうかそれならいいけど…」


おそらくアンガスさんはゲレイロが脅されてるんじゃないかと疑っているようだが、否定する方法もなく様子を見るに留まる。


「ただ後ろの三人が新人で、いま市民証の発行手続き待ちなんです。一時許可証が欲しくて手続きできませんか?」


「いや、まぁできなくはねぇが…ちょっと待ってくれ。」


そういうとアンガスさんは掘っ立て小屋に駆け足で戻り、誰かと話をしている。あ、殴られた。

すると殴ったおじさんがアンガスさんとこちらに向かってくる。同じような格好だが兜はしておらず白髪交じりの茶髪で赤い目をしている。

よく考えればまともに天人と話すのは初めてだ。勝手なイメージだがヨーロッパ系の白人に見える。


「こんにちわ。私はバダ村の警備長をしてるガルドと申します。事情は分かりましたが、近くで戦争がありで村民もピリピリしております。できれば、一時許可証の発行はご勘弁ん願えないでしょうか?もちろん八神様やゲレイロさんには問題なく入ってもらえますが…一時許可証は…」


ふむ、ホントは入ってもらいたくないから私達を理由に追い出そうって魂胆かな?まだ、終戦の情報とか入ってないのだろうか?情報網とかどうなってるんだろう?


「気を悪くしないでくださいね。戦争は終息に向かってる情報は入ってるんですが、まだ徴兵された連中も帰ってきてねぇんです。戦時中に簡単には難しいですよ。」


ふむ、そういえばここは帝国領なのか。戦時中の警戒態勢に同盟相手とは言え、よそ者のしかも許可証のない人間を招き入れられないって事か。。。

八神さんが「どうしようか?」と考える始めると、すぐさまゲレイロが横から独り言のように話し始める。


「困りやしたねぇ。。荷物がいっぱいで肉などの生鮮食料やかなりの量の討伐証明を換金をこちらでしたかったでやんすが‥・隣のラビオス市まで行きヤスカ。。」


すると、ガルドと名乗った白髪の警備兵はずいっと前に出る。


「ちょいとお待ちくださいませ。どの程度の物資がありますでしょうか?先ほど、観光と申してましたが交易も希望で?」


状況がわからないのでゲレイロに任せてみる。


「そうでやんすね。ボアが5頭とクローデンは3頭ほどは卸せるでやんすよ。」


「グローデンも!?…わかりました。ゲレイロさんには敵いませんね。出来れば定価で下ろしていただけると、とても助かります。すぐに許可証の用意を。ほらいけ」


叱責されたアンガスさんは慌てて小屋に戻ってく。ゲレイロも行商人って言うだけあって結構商談も得意なのか。。



「すいやせん、香川様。勝手に魔物の引き渡しを約束してしまいやして」


「いえ、譲渡ではなく取引なら問題ないわ。むしろ、ありがとうね。」


「滅相もありやせん」


むしろ、脅迫の疑いを晴らすためにも私のため動くゲレイロは高評価に映るだろう。より優秀。。


それに、道中狩った魔物の一部は湧帆さんが食料になるからと血抜きだけしたものを私が保存している。魔物肉を食べるのを年下ズが嫌がっていたが、私的にはボアなんて豚にしか見えないので率先して食べると二人も、しぶしぶ食べた結果「おいしい!」と喜んでいた。

ただ、食べれる魔物の種類はそう多くないらしく、毒、固いもの、匂いなどの理由で食用に適さない。普段は日本と同じように家畜に出来る動物を飼って食べているらしい。

ただクローデンなんか特別に美味しく、美食家や貴族の間では高価な肉として取引されるらしい。なんでも、倒すのも難しければ、食肉として運ぶのはなお難しく狩りの対象としては効率が悪いからだそうだ。


くそ、知っていればもっと保管していたのに、一応キングとかは保存してるけど高いのかな?


「ゲレイロさん、それにしても食料を欲しているってよくわかりましたね?」


「いえ、戦時中は人手が足りなくなりやす。農村地帯は徴兵されると大量貨幣を得ることは出来やすが、一時的に物資が足りなくなるんでやんすよ。終戦するまで、金ももらえないでやんすし…特にこの村は普段から食肉の供給が不足気味でやんすから、割と高価で取引されてるでやんすよ。」


「そうなのか、もっと俺らも市井とか知らいないとだめだな。」


「あっしで分かる範囲なら教えるでやんすよ。特にバダ村の草団子は絶品でやんす!!」


「それは良い情報だ!」


商人の知恵というやつね。。うむダンジョンから連れ出せば優秀なモグラだ。。

そうすると、荒事が怖くて頭が回らないヘタレなだけで、交渉良し、生産良し、人脈良しの内政特化な能力なんだな。。


なんか、むかつくな。。後で、草団子でも奢らせよう。







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