第47話 甘味処は発酵がお上手

中に入る許可は得たが、アンガスさんの監視付きということで行動に自由までは与えられない。一旦宿まで案内するということで村の中を散策している。


最初に驚いたのは村の発展具合だ。正直、木や土の建物にボロを着ているような貧乏村を想像していたが大きく異なる。農村といえど雰囲気は各駅停車駅の駅前くらいには盛んで、建物も木造もあるが、多くはコンクリートのような石製で出来ていて現代建築に近いものがあるし、高層マンションとはいかないが4階建てのアパートみたいなものは散見している。


なんでも、村は総人口によって区分された集落の総称らしく(日本もそうだっけ?)、発展度合いは関係が無い。

なんでも農業は魔法や機械が進んでいて少人数でも大規模な農地経営が出来るため、農村と呼ばれる村は人口が少なめらしい。

それでも、バダ村は帝都に一番近く最も大きな農村らしく人口も9千人を超えている。むしろ1万人を超えると村から町に昇格して税金も高くなるので入植は断ってる位らしい。農村であることが利益を出すために重要なのだろう。


「それにしても、びっくりですね。日本だと言われても驚かない街並みです。正直ゲームみたいな村を想像してました。」


木梨君の感想に琴音ちゃんも頷き、私も賛同する。


「同じく、びっくりしました。」


「あぁ、そういえば皆は帝都は行ってないもんね。流石に高層ビルは無いけど、ほとんど現代建築で出来てるし文明も昭和レベルには達っしているんだよ。」


「電話とかテレビもあるんですか?」


琴音ちゃんが今度の生活に不安を抱いてるのか質問を重ねる。


「テレビは無いけどラジオはあるね。娯楽も演劇とか音楽とかその辺かな。電話は有線で狭い範囲ではあるけどあるね。」


「へぇ、なんだかタイムスリップみたいで面白いです。」


昭和でよかったよ。原始とかだったら地獄だね。ウキウキした琴音ちゃんの横顔を見ながら良からぬことを考える。


「そういえば車も少ないけど走ってるね。」


「村の中だと安全でやんすからね。それに、農地経営は結構儲かるでやんすよ。」


なるほど、行商として車を使うにはかなり安全性に不安があるのだろう。


「都市間の交通網とかどうなんですか?」


「いや、高速バスみたいのはあるよ。」


なんと!!


「私達も赤坂に合流するときに乗りましたね」


「そうだったね。」


あれ、私だけ?


「そういえば、香川さんはアルトダイト大平原しか行ったことないもんね。」


あれ、あの自然は普通じゃないの?


「そうなんでやんすか?なかなか特殊な方だと思ってやんしたが出自も特殊でやんしたか!」


野生児みたいに言いやがって、馬鹿にしてんのか?お前だってそんな僻地でダンジョン経営してたんだろ?


「そもそも、グランフロント大陸の北東に帝国は位置してるけど、南部にはアルトダイト大平原とマルパの森を挟んでシルテスク山脈。。アイスガーデンがあったとこだな。それらが位置して人が住めない大魔物エリアになってる。さらに良いことに中央の神国と南に位置する魔導国の国境線がこのエリアになってるんだ。そのため、開拓って感じでもないから国境線の小競り合いが無いのがメリットだな。。」


ふむ、地図をくれ


「う~ん口頭でいわれると難しいです!」


琴音ちゃんは村に来てからよくしゃべる。人の住む場所にいるって事で安心したのかニコニコしている。それに、発展度合いが現代に近いのも後押ししているだろう。おねぇさんはニコニコしてると嬉しよ!


「まぁそうだな、赤坂に戻ったら地図をみせて説明するよ。」


「ありがとうございます。」


すると先頭を黙々と歩いていたアンガスが振り返って声をかける。


「こっちが宿になります。代表者だけでいいんで手続きをお願いします。」


「じゃ俺が行ってくる。ここで待っててくれ」


そういうと、アンガスさんと八神さんが宿と呼ばれた建物に入っていく。4階建てのビジネスホテルって感じでこじんまりしてるが悪くはない。


「そういえばゲレイロ、ダンジョンの範囲ってどうしてるの?」


「範囲でやんすか?自分の足元に直径1メートル程度の円形になるように設定してるでやんすね。」


よく見ると、ゲレイロの足元が円形で他の地面と微妙に色が違う、言われなければバレないレベルだろう。


「あんたも器用になったわね。」


「今回移動するので、エリアの素材や色とか結構細かく設定できることが分かったでやんす。ちゃんと次にダンジョンを作るときはかっこよく作りたいでやんす。」


「お好きにどうぞ。デザインは任せるわ。。」


手持ち無沙汰の湧帆さんがゲレイロさんに観光予定を聞く


「ゲレイロさん、そういえば僕たちこれからどこ行くの?」


「そうでやんすね。もうすぐ夕食時でやんすから、あっしのおすすめで晩御飯を食べてから宿で休んで、明日ギルドで商品を卸してから出立って感じでやんす。長く滞在してもアンガスさんも大変でやんすから。」


まぁ門番なのに今やコーディネーターみたいになってるからな。あとで、草団子をあげよう。


すると、ほどなくして八神さんとアンガスさんが戻る。


「それじゃ、これからギルドでいいですか?」


「明日にしようと思いやす、今日は【カエデ】にいってそのまま宿に戻って休むでやんす、それから、明日の朝一でギルドに卸しに行くでやんす。」


「承知しました。煩わしいとは思いますが俺も【カエデ】に着いて行きますね。」


無表情で答えるアンガスさんに少し好印象を与えときたい。これは営業マンの性かしら?。。


「いえ、こちらこそ業務とは違う範囲の仕事で手を煩わしいしてしまい申し訳ありません。とても助かっています。」


私はそう前置きをして会釈してから本題を投げる。


「お詫びと言っては些細ですが、こちらでお代を持ちますので一緒に食事でもどうですか?」


アンガスさんが「だるーい」って顔から一転し目を光らせてこちらを見る


「よろしいのですか!?あ、いやいや業務中ですので…」


うっかり八兵、本音がポロリ


「では監視業務でしょうが、護衛でもありますでしょ?毒見でもしていただこうかしら?」


一瞬の間が開き


「ああははは、香川さんは口が上手でいらっしゃる。お言葉に甘えさせてもらいます。」


「そう、それは良かったです。それじゃ、ゲレイロ案内してね。」


そういって、振り返ると「お前誰!?」的な視線を浴びる。いや、湧帆さんや年下ズまでしないでよ。。。元営業マンよ?社交辞令くらいできるわ!


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そして、移動した場所は【甘味処カエデ】。夕食?


「甘味処ですね。」


木梨君が微妙な声で目の前の事実を語る。店のサイズこそ100人は入れそうなレストランだが店構えは登山口で暴利をむさぼるお店そのものだ。


「まぁ、甘い物を食べてないから、すごい食べたいけど夕食かしらね?」


「そうでやんすよ。このお店は砂糖の扱いが素晴らしいでやんす!あまじょっぱい味付けの魚や肉料理が、それはそれは旨いでやんすよ!」


なんか、聞いたことのあるの味の感想だな。まぁ、和食だろうな。


一行は、とりあえず入ってみると、出迎えてくれたのは私達と同じ黒髪を肩口で結んだポニーテールに標準身長で少し恰幅のいい気前の良さそうなおばちゃんだった。


「あ!おかみさん久しぶりでやんす!」


「あら、ゲレイロさん?久しぶり」


「百合さん!?」


まさかの、反応をしたのは八神さんだった。


「あれ?八神君?久しぶりね、こんな所にどうしたの?」


百合さんと呼ばれた女将さんは要領を得ない顔をしている。


「って湧帆君も!?」


「百合さんお久しぶりです。」


「大きくなったわねぇ10年ぶりくらい?」


「はい、大きくなってもう22歳ですよ」


「うそぉ、時間は早いなぁ。。ってゲレイロさんとお知り合い?あれ、今日は何の用なの?」


「いやぁ…偶然ですね…」


そして、八神さんが事の顛末を大体伝えると、歓迎してくれてVIPルーム(仕切りがあるだけの座敷)に通された。

女将の百合さん事、林原百合は第三世代以降の転移者で八神さんとほとんど同期になり軍にも1年所属したらしい。戦うことが嫌なのとユニークスキルの顕現がしなかったため脱退した人の一人だ。

他の脱退者とは、ほとんど交流が無いが脱退者は一様に帝都で死んだように仕事もせず暮らしているらしく、そんな生活に嫌気がさして9年前に一念発起してこちらに移住してきたようだ。

幸い、ご実家で和菓子屋を営んでた経験からこちらで甘味処を開いたところ大ヒット!いまでは、バダ村の名物料理として、甘味処で食事するために村へ来る貴族もいるそうだ。

さらに帝都には和食の文化はなく、食事も提供を始めたところ、醤油や砂糖を使ったあまじょっぱい味付けはオリジナリティがあり甘味処というネーミングとぴったり合うようで帝国市民に大うけ、朝昼晩の食事におやつにお土産と大繁盛しているらしい。


「旦那のジョアンよ。料理長として働いてもらってるわ。ここには居ないけど子供も二人いるのよ」


天人と子供産めるんだ!!すげぇな。


「義勇軍の皆様初めまして、いつかご挨拶をと思っていましたが機会が無く申し訳ありませんでした。」


「いえ、こちらこそ百合さんの状況を確認しようともしてなかったので申し訳ないです。」


「あら、八神君は知らないのね?昂暉君は脱退者とも連絡とってるわよ。一年に一回は綾香さんを通して話をしているから、情報交換はしているのよ?」


さすが秘密主義の軍団だ。もしくはホウレンソウできない軍団でもいいけど。八神さんは幹部になったばかりで共有はまだまだなんだなぁ。


「そうなんですか、知らなかったです。今度は皆も連れてきたいですね。」


「あら本当?歓迎するわ!それに、そちらの可愛らしい子たちは新人さんかしら?」


「はい!三石琴音と言います。2か月前にグランフロントへ、いまは15歳です」


そういうと、少し百合さんの表情が陰ったように感じたがすぐに「頑張ってね」と笑顔を返すあたりは商売人だ。

私や木梨君も簡単に自己紹介をすませ、ゲレイロさんとの関係も話せる範囲で雑談していく。


「そういえば、私もユニークスキルが顕現したのよ8年も前だけどね。」


「そうなんですか?」


「あ、僕も興味ある!」


食事に夢中だった湧帆さんもスキルの話には食いつく


「アクセラレイト クラプション(加速する腐敗)ってスキルよ。」


「なにその恐ろしい名前のスキル?」


「ははは、強そうだね!」


湧帆さんが笑ってるが、戦いにしか興味が無いのだろうか?


「発酵ですか?」


私の推測を述べる。


「そう!香川さんすごいわね!綾香さんみたい」


年上の女性に褒められると素直に嬉しいくて、ニタニタしちゃう。最後の一言が無ければ全身全霊で喜んでいた。


「発酵?ってなんでやんしたっけ?」


「菌とか酵母っていっても分からないわよね。チーズとかヨーグルトを作るのに必要な技術なのよ。もちろんうちで使う食材にも大きく関わってるわ。味噌とか醤油っていう調味料にね。

帝都では、まだ発酵は【おばぁちゃんの知恵】みたいな扱いで科学的には分析されてないようなの。だから、私が昔の知識をもとに試行錯誤で味噌を作ってたら顕現したのよ笑っちゃうでしょ?あんなに、ユニークスキルが見つからなくて苦悩したのに。。」


そういうと百合さんは哀愁ある表情で少し遠い目をする。しかし、腐敗のスキルって強力だな。。


「戦闘にも使えそうだけど?」


湧帆さんはそれしか興味が無い。


「私の力は腐敗してるものを加速させコントロールする能力なの。生きてるもの腐敗させるには殺さなければいけないのよ。生物には効果が無いから難しいかもね。」


なんかゾンビとかに強そう。


「へぇ、アンデットには最強の力だ。」


やべ、私も湧帆さんレベルだった。


「やったことないし、この先も戦うことはきっとないわ。だから、危なくなったら湧帆が私を、私達を守ってね」


湧帆さんはそういわれる満面の笑みで答える。


「もちろん!それしか出来ないし!」


その笑顔に胸が跳ねる。うんやっぱり好きだわ。一目惚れとかあんまりしたことないんだけどなあ…


「それじゃ、そろそろお暇しようか?時間も過ぎてるし。」


そういわれて支給された腕時計に目を落とすと21時を超えている。最近、日が落ちると寝てたから若干眠い。それとは、関係なくアンガスは寝てる。良いのか?門番。。


「そうですね、よしゲレイロ支払いよ!」


「あっしでやんすか!?普通は従者の分は主が払うもんでやんす!」


「あら?私は現金は持ってないもの」


「人の金だよりで、アンガスさんに奢るつもりだったでやんすか!?」


えへ?


「相変わらず、無茶苦茶でやんす」


そういって、お金を出そうとするゲレイロを八神さんが止める。


「ゲレイロさん、すまない自分が全額払うから気にしないで、香川さん達にはまだ給与を払ってないんだよ。」


「あら、ブラック企業ね。」


「やめてくださいよ百合さん。来たばっかで支給のタイミングがなかっただけで赤坂に戻ればそれなりの額は用意してありますよ。」


「でも、あなたたちから料金は頂かなくてもいいけど?」


結構な量を飲み食いしたから、厨房から顔を出してるジョアンの旦那が驚愕の表情をしてるのが面白い。


「いえ、俺が先輩ですから払いますよ?」


少しにやっとして百合さんに言う八神さん。


「ふふ、懐かしいわ。。じゃ、これがお会計」


二人のお馴染みのやり取りらしく、最初から支払いしてもらうために準備してあった紙ぺらを一枚渡す。


「あれ、結構な金額ですね。」


「そうよ~?大衆レストランじゃないんだから、貴族御用達の高級懐石扱いなのよ?」


「素直に奢ってもらえばよかったよ!」


「ふふ、もう遅いんだから。」


「はは、冗談ですよ!」


笑いあう中、八神さんが金貨一枚を手渡す。その手が少し触れると百合さんがにこっと笑顔を返す。


お二人さん、後ろでジョアンが複雑怪奇な表情してるぞ?いいのか?あ、見てられなくなって厨房に逃げた。


頑張れジョアン。


「ご馳走さまでした。」


「はい、毎度あり!」


旧知を確かめ合うように、二人は笑いあう。








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