第29話 待て!話は終わってない!

「はぁ、団長は嫌だなぁ。普通に考えても団長って大将クラスだから降格じゃないか。」


軍団長ってそんな偉かったんだ。意外だ、テレビとかで見てて馬鹿にしててごめんなさい。というか、元帥への拘り強くない?


「とりあえずこれで話は終わり。会議も長くなったし。」


そういわれて時計を見ると話し始めて30分程度しかたっていない。優秀な組織は会議が短いと聞いたことがある。さすが、できるな?

私の元居た会社なんてあーでもないこーでもないとダラダラ話しやがって‥‥思い出すとイライラしてくる。


「じゃ、解散ね」


「ちょっと待った~!」


逆転の一手を思いついた弁護士のような勢いで声を上げた私に注目が集まる。


恥ずかしい


集めたのは私だけど・・


「話は終わってません!私からも相談したいことがあるといったはずです!」


これが、あったので退出したい気持ちを我慢して終わるのを待ってました。

意を決して話し始める。


「え?ユニークスキルの話じゃないの?」


「いえ、他にもっと大事な話があります。」


ここにいる全員が理解できないという顔する。「鳩が豆鉄砲を食ったよう」とはこのことだろう、でも鳩の顔がイメージが出来ないのは私だけだろうか?どんな顔だよ。


「我妻さん!」


「おれ!?」


豆鉄砲を食べた鳩の耳に水をぶっかけたような顔をしていると思う。


「私が寝てる間に鑑定しましたね?」


「あ!!あぁ、ごめんごめん。気ぃ悪くしたよね?」


「本当よ!私はやめた方がいいって言ったのに、綾香があおるから」


イオリさんからタレコミが入る、ほうほう新渡戸さんのせいか。


「もちろん、早急に事態の把握が必要だったと思います。ぐっと気持ちを抑えれば、許すことのできる範囲ではあります。ユニークスキルの確認ですし場合によってはカールトンの処遇問題などもあるでしょうから。」


「そ、そうなんだよ。」


「香川さん、ごめんね。俺の指示だから」


そうやって昂暉さんもフォローに入る。よし、食いついた。


「そうです!それが理由なら昂暉さんや新渡戸さんを責めます!ただ、なんで身長体重まで鑑定してますか?」


「あ・・・・・」


「ほんとよ!祐樹さん。女性を鑑定する際にはその項目標記しないって前にもお願いしましたよね!」


まさかの、あっちゃんの激怒。ずっと、ニコニコしてたのに急に来たな。グッジョブだけど。。


「ごめん急いでて、鑑定内容をプリセットみたいに登録できるんだけど。間違えて一般用のを使ってしまった。」


「民法709条!故意又は【過失】によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。この場合プライバシーの侵害は不正行為に当たり709条に抵触します。」


丸暗記した文章を機械のように吐き捨てる


「ほ、法律詳しいね…」


「いえ、自分の身に関係ありそうなものだけ覚えただけです。」


「姑息な…」


「なんですか?」


「いえ、なんでもありません。」


私はさらに続ける。全員要領を得ない顔をし続けているが、櫻井さんだけはオチが見えたみたいで姿勢を崩してニタニタして黙ってくれてる。


助かります。


「この場合、当然過失に該当しますが、プライバシー権の侵害には実刑はありません。禁固刑なんて意味がないですしね。条項にある通り基本的には賠償責任を伴い、示談か民事裁判が必要になります!」


「目的は金か!?」


「な!!乙女の最も秘匿したい部分を公にして「金か!」とはなんという非人道的かつ男性主義的な発言!?それとも、なんですか!?東邦義勇軍は所詮日本とは違う異世界の集団。現代日本における法規や慣習は関係ないということですか?昔のことで法律なんて忘れてしまいましたか?」


「いや、違うと思うけど。。。」


我妻さんが、お手上げ状態になり昂暉さんを見て助けを求めるが当の本人も口ごもってるいる。すると、違うところから援護射撃が入る。そう女性の味方、あっちゃんだ。


「当然!日本の法律を基準に考えるべきです!むしろ、日本の法よりも、より平等な法を目指すべきです。」


超助かります。


「で、でも賠償責任だなんて大げさにしなくても」


イオリさんが宥めに入る。ふふ、イオリさんそこはにはトラップがありますよ?私はイオリの言に待ってましたと先ほどとは違う暗い調子で語りだす。


「すみません。。。そうですよね。。わたしも、支給で頂いた【たんぽぽ】もとい小型バリスタがなぜか燃えてしまい。戦闘における切り札がなく今後の訓練も不安で。。。装備を揃えようにも今回の戦争ボーナスでは足りなそうなので。。。しかも、起きてみれば私の最大のコンプレックスだった身長に、あまつさえ体重まで沢山の人に知られて…悲しくて…つい」


私のシェイクスピアばりの胡散臭い演技に、イオリさんの顔が焦り出す。


「私、ユニークスキルがもし【巨人化】なんてことになったら軍をやめて街でひっそり暮らす覚悟をしていたほど気にしているんです!学生時代に、それで何度も揶揄され、いじめられたか…」


全員返り討ちにしましたけどね。


「イオリ?、香川さんがかわいそうじゃないの?」


「そ、そうよね賠償は必要よね。謝罪の気持ちを形にしないと!」


あっちゃんの追撃と罪悪感に負けて陥落するイオリさん。犬にお手をさせるよりイオリさんの誘導は簡単にできます。


「おいおいイオリまで。。」


我妻さんが、降伏寸前の顔をしている。


「しかも、お慕いしている八神さんにまで知れる悲しさ!乙女の心はどん底です!」


「いや、乙女はお慕いしてることを本人の前でいきなり公言しないだろ!それに、八神は見てないかもだろ!?」


「いえ、先ほどテーブルにスキル表を置いた時に全員ほとんど確認しなかったですよね?隅々まで覚えてますよね?」


八神さん、少しピクッと反応しましたね?どうせ、紙見て、あ!俺よりデカいやとか思ったんでしょ?

そして、とうとう櫻井さんという共犯者を除く男性陣が気まずそうに言葉を探していると、観念したらしく昂暉さんが発言する。


「わかった!今回のことは俺と我妻が悪い。お金で解決するならそれで手を打つよ。」


「やった!それじゃ、櫻井さんから頂いた見積もりを沿えて誓約書になりますので印をお願いします。」


わたしはそういうと収納に準備してあった二枚の紙に朱肉ケースを添えて絶妙な配置のバランスで渡す。


「櫻井さん知ってたんですか?もう。」


「いや、途中で気づいた。さっき話してた見積もりだしなぁ。ホントに嬢ちゃんはおもしえれぇや。」


「はぁ」


まだ、にやにや顔の止まらない櫻井さんの表情に私はひやひやしながら、ため息を漏らす昂暉さんが見積書の金額をサラッと確認して、契約書に母音を押したのを確認する。


「まて、昂暉!」


「え?」


「ちょっと見せろ」


すると、我妻さんが見積書で半分隠された誓約書の文章を見て驚愕する。


「加害者たる中田昂暉・我妻祐樹は、被害者たる香川唯に対し見積もりにある通り、今回の戦争における損失した武具および消耗品の(長槍など)の補充並びに収納空間拡張により空いたスペースにおける追加予備具の費用、さらに新規武装の開発、制作における費用、また、赤坂に帰属する改造大型バリスタの個人所有のための費用の全額を負担するすることをここに宣誓する。 P.Sここに母音を押してね。」


誓約書に気づいた我妻さんが見積書をずらしたことにより重ねてあったもう一枚の見積もりがズレて、書類が三枚になる。


二枚の見積書はぴったりと重ねて気付かないようにし、主に戦争における損害部分で少額なものが上に、新規武器開発などの高額なものは二枚目になっている。



「え?なんだこの額!?」


私はよそ見して知らんふりをする。


「がははは、全部入れ込んできたか!!」


「契約書はよく読もうな昂暉。。。つか、俺らの二人とも名前が入ってるね。ってこれ魔法清書か!?」


「破らないでくださいね?」


「詐欺だ。最悪だ。」


魔法清書とは契約を守らすための魔法の契約書で、その紙に記載されたことを破ると一日スキルの使用が停止するという結構ヤバイ品物だ。防衛できなくて隷属とか最悪のパターンらしいです。

ちなみに、ダンジョンマスターゲレイロさんの契約書もこれだ。あれ?迷宮の魔法が止まったら死んじゃうじゃない?まぁいいか。


「いい気味です!二人とも綾香と勝手ばっかして、たまには反省しなさい!女性を何だと思ってるんですか?お金で解決なんて易しい方ですよ!?」


あっちゃん裁判長の裁定が加わり、観念した二人がお手上げする。


完全勝利!


いやぁ、櫻井さんに言って考えるうる最高額に金額を調整してもらってよかった。なんでも、昂暉さんの冒険者時代の最高年収くらいの額らしいです。


「じゃ、解散ですね?」


私はそう言うと、昂暉さんの手にある紙を奪い取り颯爽と退出する。


「「「女ってこえぇ…」」」


そう漏らした男性三人が、あっちゃんにどやされてるのを後ろ髪引かれながらも、私はフェードアウトした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る