第28話 ユニークスキル??いや、ほかにもっと大事なことがある。
怪盗ねずみ小僧の初仕事を無事に終え、一休みした後に昂暉さんの部屋を訪れていた。
相変わらず、トレーニング用品だらけだな。天井にぶら下がって蝙蝠みたいに寝てるのだろうか。
余計な事を考えながら、近くの席に着く。今までは置いてなかった大きな円卓が部屋の中央にあり、私以外はすでに座ってる。
あれ、5分前行動じゃないの?
「香川さん、わざわざすまないね。」
「いえ、それほどでもないです。私も確認したかったので。。それよりお待たせしてすみません」
「大丈夫だよ」
イオリさんは声をかけてくれ、ほかの人も同意を示す笑みを私に向けてくれる。
現在この部屋には、イオリさん、あっちゃんこと工藤さん、櫻井さん、我妻さん、八神さん、そして、私と昂暉さんがいる。
首脳陣の中でいないのは新渡戸さんと長期出張中の湧帆さん位だ。
「じゃ、早速ユニークスキルの話からしようか?」
「はい、と言ってもよく分からないですけどね。」
「というのは?」
「取得はしていて感覚的には何ができるか分かるんですが発動しません。色々試しましたがウンともスンともいいません。なので、検証も出来ないです。」
「やっぱりエモーショナルだね?」
「はい、エモーションナルスキルで間違いないかと、スキル表を一応お見せしますね。」
そう言って、わたしは皆に見えるように机の真ん中に一枚の紙を置く。
全員が一瞥する程度で確認もしない。
「ホープフルスペースね。要する【希望する気持ちが強くなると時空魔法を強化】できる感じかな?」
「まぁ文字のままですが、恐らくはそうです。たぶん、私がユニークスキルを発動できたのは一度だけです。木梨君は助けるためにゲートに干渉した時です。」
「命懸けじゃないと発動しないとか。」
我妻さん!そんなスキル二度と発動させたくないよ。
「干渉?使用ではなくて?」
さすが昂暉さんは良いところに気が付きます!
「はい、昂暉さんからゲートの使用条件の説明を受けましたよね?ゲートは拠点となる場所を2か所以上をポインティングすることで、その場所を自由に行き来できるようにすると。」
「実際に、周りで持ってるやつがいないから多分が付くけどね。」
「使った感じだと、それは間違いないです。ただし、利用できるポイントは本来は【術者のもの】でなくてはならないと思います。」
「なるほど、それはそうだろうね。」
「当然、私は木梨君が転送された場所にポインティングをしていません。バニシエスの行動を見ていても精々周囲2~3メートルにしかポイントを設置できてませんでした。」
「それは、間違いなさそうだ。おれも、「もう少し」ってバニシエスが漏らしたのを聞いたよ」
八神さんが補足してくれる。
そう、あの時バニシエスは無理に琴音ちゃんに接近を試みていた。恐らく効果範囲の問題で間違いないはず。
「まぁ、ユニークスキルの効果で、【視認できる場所はどこでもポインティング出来る】パターンかもしれませんが…感触的には干渉です。」
「相手のゲートを盗んで使ったということか?」
我妻さんがかみ砕いて理解しようとする。
「はい、私なりに考えたイメージだと携帯電話を電波ジャックしたイメージです。」
「携帯電話?」
思わずイオリさんから疑問がこぼれる。でも、イオリさんは口出さない方がいいと思いますよ?
「ゲートでポインティングされた場所は携帯端末だと考えています。私はバニシエスのゲートをつかって連絡を試みます。バニシエスというか術者はキャリアメーカーみたいな感じですかね、同じ術者産同士の携帯じゃないとうまく繋がらないとか、許可がいるみたいな感じです。私はバニシエスゲートを電波ジャックするべく、直接キャリアの中継地点に干渉しました。ここで中継地点の解析ができれば、後はどの端末にアクセスするか決めるだけですね。」
「わかったような、分からないよな。。」
我妻さんが思考の迷宮に迷い込む。もちろん、イオリさんは分かったふりをしてふんふん頷いている。
この説明だけじゃ、分からないだろうよ。
「ということは、ゲートには中継地点があるって事か」
「そうですね。少し話が変わりますが昂暉さんとイオリさんには以前、日本からグランフロントに来る際に白い光を見た話をしましたね。」
「あぁ、そうだね。」
「多分、同じか同じような部屋を通りました。」
「え!?とぉ。。。どういうこと?」
「はい、ゲートから出現する発光と日本からグランフロントに召喚された転移者の発光は規模こそ違えど似てるんじゃないんですか?」
「えぇ!?どうだろう。」
必死に回想するイオリさんを置いて、昂暉さんが即答する。
「いや、今言われて気付いたが。似てるし、同じような光だね。」
「やっぱり、そうですか。これは新渡戸んさんがいるときに、もう一度検証が必要だと思いますが恐らくゲートの時空魔法を極めていくと日本へのアクセスができる可能性があるじゃないかと思ってます。」
「うそ」
イオリさんは、いや全員が何とも言えない複雑な表情をしている。それはそうだ、20年間帰還のヒントもなかったのだ。可能性が提示されただけでもとんでもない進捗なのだろう。
誰もが予想外の話の展開に、独り身同盟を組んでいた友達に恋人を通り越して結婚報告されたときのような私の顔に似ている。今思い出しても、あの時は無心だった。一週間ぐらい感情が止まっていたよ。
そのくらい意外な話だったのだろうが、私だって考えて考えてこの結論なんだよ!
「可能性か、だけど異空間があるって証明できるか?俺らはグランフロントに来る際はその光を感じてないぞ。」
「まぁ、その辺も要検討ですよね。私の頭がトチ狂ってる説もありえますし。」
「狂ってる人が自分を狂ってる可能性の示唆ができるとは思ないけどね。」
八神さんが私のフォローに入る。私達なんかぐっと距離が縮まりました?すこし、きゅんっとしましたが。。。平気ですか?
「ただ、予想でよければ提示は出来ます。昂暉さん、収納の先って何だと思います?異空間だと思いません?」
「…なるほど。」
すると、同じ収納持ちの櫻井さんが私の仮説に同意を示す。
「俺は、異空間があるに賛成だな。電話の例えを聞いたとき、中継地点にアクセスしてるって表現で一番最初に収納が思い浮かんだ。そういう感覚は何となくわかる。」
「ですね。俺もそれを言われると思い当たる節がある。それに、ユニークスキルが本当にその効果だと唯さんの異常な収納の性能と成長スピードを持っているのにも説明がつくね。」
「はい、私もそこから推論してます。」
「オーケー、すぐに新渡戸に戻ってもらい検証しよう。」
「祐樹すまないが、あっちは任せてもいいか?」
「問題ない。ここにいても役に立たないから、あっちでお偉いさんの護衛でもしてるさ。」
「香川さんの仮説では、日本とグランフロントの間にある空間に干渉する力がホープフルスペースにはあるってことだね?」
「まぁ、仮説以上のことはありません」
「よし、この話はここで終わり。新渡戸がいないと話が進まないしな。」
「それじゃ、もう一点の話に入るよ。」
「もう一点ですか?」
何だろうか?私の職業適性について本格的に考えてくれるのだろうか?
「あ、香川さんはあんまり関係ないけど、いいや聞いてて」
まさかの、お役目御免!もう退出したい、我慢しますが。
「八神」
「あ?俺ですか?」
「あぁ、おまえも今度から首脳陣として意思決定に参加してくれないか?」
まさかの構造改革!!これ、私居ていいの?
「また急ですね。」
「いや、急でもないんだ。祐樹からは前から打診があって俺がなかなか迷ってただけで、ずっと話はあったんだよ。。きっかけの一つは、今回の戦争での対応で思うところがあって、八神は撤退を進言したんだろ?」
「はい、それが一番可能性がある気がしました。」
「多分俺が八神の立場でも、撤退したと思うんだ」
「昂暉さんいれば撤退の必要ななかった気がしますけど」
「それなんだよ、八神。祐樹はさぁ、良くも悪くも俺と長く戦ってるから俺の戦い方を参考にしてる。でも、それは俺って戦力がいる前提の戦略だったりするんだよ。今回は難しい判断だったが、状況戦力を考えれば最善策は撤退後の赤坂からの遠距離砲撃だった思う。別に祐樹を責めてる訳じゃなくて適性の問題なんだよ。」
「八神、俺はさぁ軍略とかを理解してるんじゃなくて皆より経験してるだけなんだよ。基本的には脳筋さ。」
「いえ、金勘定やってるときは回転はやいですし脳筋とは思ってないですけど。。。これって、俺が軍部の責任者に就くって話ですよね。」
「あぁ、概ねそうだよ。」
「だったら、無理ですよ。俺には昂暉さんや我妻さんみたいにカリスマ性もって士気は上げられないですし前線にも立てないです。」
「俺も、軍師の立場いいじゃないかって祐樹に言ったんだが、八神に実権をもたせないと本当の意味で発言を控えるって。たしかに、それは一理ある。」
はぁ、息止めてるのがしんどくなってきた。退出すればよかった。
私は、場違いの話に身じろぎをしながら、ぐっと耐える。お?イオリさんも同志かな?
思考が脱線し始めた私を無視して話は続く。
「それに、戦略・戦術的意思決定を八神に任せるのであって副官に最低でも祐樹や湧帆は絶対にいるから、前線士気は問題ないと思う。」
「八神、いい時期なんだ。立場的には軍の指揮を任せることになるけど、それ以上に首脳陣としても意見が欲しんだ。俺達は軍の創立メンバーだけで意思決定をしてきただろ?そろそろ、新しい意見を取り入れないとダメな時期に来てるんだよ。今回みたいに人が今後も増えていくなら尚更に新しい管理者が必要なんだよ。」
二人がかりで、八神さんの説得にかかる。
「まぁ、そうですね。。。」
「それに、俺達生え抜きメンバーより、軍になってからの新規加入メンバーの代表として八神が立ったほうが士気も上がると思ってる。」
八神さんが答えに迷って少し考えこんでる。断る選択肢があるようには思えないけど感じることはあるのだろうか?
それから一分程度だろうか沈黙が続く。あぁ、声出したい!
「わかりました、じゃ俺が元帥で、昂暉さんは総帥でいいですね?」
「ちょっと待て!元帥は譲らんぞ!?」
急に、まじで下らない話になったな。イオリさんなんて話が終わった顔してるし。
「だって、元帥らしいことなんてしてないし。。交渉とか暗躍とか特攻とか」
「戦争で特攻する元帥なんていないわよ。総帥もそうかもだけど。」
イオリさんがリラックスのため意味のない発言をする。
「はい!」
いい加減黙ってるのが辛くなってきたので、私もイオリさんにあやかって空気が軽いときに発言することにする。
「香川さんなに?」
昂暉さんはいち早く私のおふざけを察して警戒する。
「八神さん元帥で昂暉さんは団長でいいじゃないですか?東邦義勇軍っていうかバラエティ班ですし、【昂暉とゆかいな仲間たち軍団】でいいんじゃないですか?」
「あははは団長」
イオリさんのツボゲット!だが、結構みんな笑ってる。
「よ!昂暉団長就任!」
我妻さんがヤジを入れる。
「かっはは、昂暉団長ぴったりじゃねぇか。元帥ってツラでもねぇだろ」
「やめてくださいよ櫻井さんまで!」
「お?私の意見が通りまして?では団長で皆に周知しておきます!」
軽く敬礼して弱みを握る。
「いや、やめてね!!」
「あはは、わかりました。どっちにしても軍部のトップをやりますよ。」
「本当か八神!?」
「えぇ、団長!任せて下さい!ぷくくく」
「うそだろ!?」
それから、二日もしないうちに軍内部では【昂暉団長】への降格が轟いたのであった。
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