第30話 新渡戸綾香とエモーションナルスキル

あれから一週間、少し時間がかかったが我妻さんと配置換えして新渡戸さんが戻ってきた。

なんでも、交渉内容から新渡戸さんが自分で残る判断をしたようだ。


ひと段落ついたので昂暉さんと私の三人で、ユニークスキルについて検証を始めることになった。


「おまたせ~」


いつもの軽い調子で昂暉さんの部屋に入ってくる新渡戸さんが開口一番で告げる。


「いや~唯ちゃんは本当面白いね。ダンジョンもそうだけど今まで謎だったことの検証が捗る捗る。」


「はぁ、そうですか。」


私はこの人が若干苦手だ。ちゃんと話したこともないのだが人とは違う独特の感性や他人を観察対象にしか見てない粘着質な目つきが少しコワイ。

さらに、彼女のユニークスキルは【ストレートアンサー(真実への一本道)】という東邦義勇軍の在り方ごと変えてしまった強烈なエモーショナルスキルで、これがまた彼女の不気味さに凄み持たせる。

スキルの特性は対象に対して好奇心(これが重要らしい)をもって調べようとすると、答えを確率で導き出すことができる。

しかも、このスキルのすごい所は継続使用が可能で、興奮するほど(?)回答が100パーセントに近くなるように世界に働き続きける。例えば、新渡戸さんのダンジョンについて知りたい気持ちが今回のダンジョンマスター確保の事件に繋がったのでは?と勘ぐってしまうほど強力なスキルらしい。名探偵は必ず殺人現場にいるってやつだ。


また、彼女はもともと常時興奮してる(ように見える)ほど明るく、知的好奇心の塊みたいな人間でこのスキルとの相性も良い、欠点を挙げるとしたら人の思考を読み解くことができないことなのだが、周辺の事実確認ができると人の感情もあたりが付くもので、全てを見透かす彼女の存在は世界中から嫌われてるそうだ。

なんでも、禁術の一つに幻惑魔法最高峰の【ライヤーアテンション】という嘘発見魔法があり、それに準ずるとかなり批判されてるそうだが、本人はどこ吹く風といった感じだ。


そういった飄々とした所も苦手なのかもしれない。


まぁ、このスキルのお陰で五大大国からは高度な政治的判断が必要な組織と認識されて義勇軍は今の大国から優遇された地位にある。

さらに、この地位はグランフロントにおける情報網の構築にも役立ち、【転移者の光】の情報がおおく義勇軍に報告されるようになったそうだ。


まぁ、他人には意味不明なスキルだし、私の感想としても不気味だ。おなじ日本人である私でもそうなのだから、世界的に忌み嫌われるのも分からないではない。


「ん?なんか私の顔についてる?」


「いえ、何でもないです。話の続きをしましょう。」


「そうね、昂暉の説明で補足するところは?」


「特にありません。」


昂暉さんが、私がした前回の話しを再度説明してる間、思考があっちこっち行っていたのを気づかれてしまった。これが、スキルなのか?そもそも新渡戸さんが鋭いのか?油断ならないところが不気味な部分だ。


「昂暉は実際どう思てるの?」


「ん?俺の私見は必要か?そもそも可能性があると思ったからお前を呼んだんだ。」


「そうね、じゃ先に私の考えを言うわね。唯ちゃんの仮説はかなり現実味があると思うの。ただ、ストレートアンサーは発動しないわ。」


「発動しない?珍しい表現だな。」


「そう、言葉通り発動しないの」


「どいうことですか?」


「まず、私のユニークスキルは直接は相手の思考が読めないのは知っているよね?」


「はい」


「でも、今私が【唯ちゃんは何で嫌そうな顔で私を見ていたの?】ってストレートアンサーに質問すると、答えは測定不能って出るの。」


粘着質だな、嫌な顔では見てないよ。たぶん


「別に嫌な顔では見ていないですが、なるほど。発動はするけど分からないと反応するってことですね。」


「そう?違ったかしら?まぁ、その話は置いておくわ。ただ、発動しない例は他に無くはないの。」


「なんですか?」


「日本への帰還について質問を投げかけた時ね。」


「へぇ、そうだったのか。。ユニークスキルが発動しない場合があるのか。」


昂暉さんも知らないことがあるんだな。


「いままで、そういうものだと気にしてなかったけど…今回の事で一つ重要なことが分かったわ。。スキルには不可侵領域があるって事。制限や制約とは別にね。反応しなかったワードは【異空間】とか【日本への帰還】。唯ちゃん的に言えば白い部屋かしら?これに類似するワード一通り試したけどダメだったわ。」


「そもそも、別に正しいワードがあって分からないのでは?」


「その可能性があるから、私も色々試してるけど経験上はあんまり意味ないの。私のイメージしてるものがワードとは関係なく反映されるから。。ワードを変えるのは念のため、イメージが変わるかも知れないしね。」


便利なスキルだな。


「まぁ、反応しないってことが重要だから、ワード話は置いておくわね。」


「反応しないか、無には理由があるってやつだな。」


「そうよ、【0】っていうの重要な理論なの。だって、結果が確定してるのは0と100だけだもの。」


なるほどなぁ、勉強になります。


「じゃ、やっぱりそこから導かれる答えは。」


「そうね、私がもともと提唱していた【グランフロントVR説】が最も優位に立つと思うわ。」


あれ、急に話が胡散臭くなったなぁ。。この世界がVRってことか?なんか、実感わかないなぁ。


「唯ちゃんはどう思う?例えば、この世界には日本と関連付けないと説明できないことが多いと思わない?」


「例えば言語ですか?」


「そう、翻訳魔法があるかもしれないけど、例えば種族名やスキル名すべてが日本的な言い回しなのがおかしいでしょ?変な外来語すらあるわ。」


「それは外国人の転移者がいれば違うワードに聞こえるかもしれませんね。」


「そうね。関連して、二つ目が土人に日本人しかいないって事。少なくても、この義勇軍に所属する人間のすべてが同じ漫画喫茶よりここに転移してるわ。」


なんか私の疑問はスルーされた気が、まぁいいか。


「それは、確かに違和感がありますね。じゃ、全員拉致監禁でVR研究のため強制的にグランフロントへゴーですか?100人いなくなったらさすがに騒ぎになると思いますが…」


「そうね、そこが難しいなと思ってる。他にも説明できないことはあるの。ただ、今回の事でやっぱり確定的なことがスキルに不可侵領域が存在するって事は誰か管理者がいるって事。」


「管理者ですかぁ。。」


「そうね、例えば我妻君のスキル不便だと思わない?」


「そうですか?鑑定なんて便利では?唯一無二って自慢してましたよ。」


「だって戦力分析がランク制で相対評価なのか絶対評価なのか分からないのよ?スキルの説明もないし。スキルってワードに対する鑑定は何も記載されないの」


「確かに、私のCランクは何に対してなのか不明ですね。」


「そもそも、イオリと昂暉が同じランクってのも腑に落ちないわ。単純な一対一でイオリに勝てる人なんて基本的にいないもの。」


「SSでしたっけ?」


「そうよ。ここから先は表記できませーんって言ってるようなものだわ。全部きちんと数値化すればいいじゃない。」


「なるほど。だから意図的に隠されてると?」


「ビンゴ!元居た世界のように物理法則に支配されているのでなく、誰かに管理されてる世界だから不可侵領域が存在するのだと思うわ」


「ふむ、おっしゃることは何となく分かりますが、「神様が居てそうしたの」って言われた方がピンときますね。」


「神様が居たっていいのよ。むしろ、神様が作ったことが重要よ。だって神様なんて殆ど人間じゃない。キリストだってブッタだって人よ。」


そういえば神様は人ですね。


「ただVRと言われてピンとこないのは。。。そうですね、例えば質感です。私の五感に違和感を感じれないってことです。御飯がおいしっくて、風が気持ち良くって、空に感動する。これが仮想空間と言われてもピンときません。」


「そう。唯ちゃんはグランフロントが好きなのね。」


お?話が脱線した?


「どう思う昂暉?」


「試したいって言ったのは新渡戸だろ。俺は香川さんなら問題ないと思うって言ったろ。」


「そうね。じゃ!ゆいちゃん、ここからはお願いごとです。今話した試すって言ったのは軍内部でも首脳陣だけの話がいくつかあるの。その話に関わるから唯ちゃんに話していいか少し会話したかったの。」


そうですか、テストですか。じゃ、VRは適当な嘘?


「なんか、話が急すぎてよく分からないんですが…」


「今言ったVR仮説って何パーセントぐらい可能性があると思う?」


「帰還についてだから反応が無いのでは?」


「そう、ストレートアンサーでわね。私の個人的な意見よ。多分80パーセント位正解だと思うの。」


「なんでそう思うのですか?」


「ファンタジーは人間の空想だからかしら?さっきも言ったけど管理者を神とするなら大抵人間だもの。それだけの推論。」


「答えにはなってないですね」


「これからの話を聞いたら戻れないけどどうする?」


「逃げる可能性はありますが、聞きます。」


ヤバければ全力で逃げる。


「ふふ、じゃ本題ね。帰還の方法は全くわからないけど、この世界の成り立ちを推測するためのプログラム(法則)を見つけたの。スキルや物理的なものではないわ。世界の秩序を安定させるための物ね。」


VR仮説は主力説なんだ。。。


「それは魔物の誕生秘話ね。」


「生殖ではないんですか?ゴブリンとか生殖するって」


「えぇ、生殖は可能よ。でも、補給もされてる。」


「なんで、そんなこと?」


「わからないわ。誰かが意図してるとしか思えないの。ダンジョンにモンスターを召還するモンスタープールっていうのがあるんだけど、それと同じ現象がこの世界の各地で起きてるの。確認できたのは3件だけどね」


「モンスタープール…」


あぁ、スライムを召喚する光かな?


「そう、あれはダンジョンマスターに人為的にモンスターを作るための装置、まぁ、これもプログラムね」


「誰かが、生態系が崩れないようにしている?・・・」


「よく気づくわね。おそらくね。」


「それは分かりましたが、仮説検証がこの軍の重要なファクターなのは理解してます。出来る限りはお手伝いしますが…」


「ありがとう!唯ちゃんにお願いしたいのはね。その自然発生したモンスタープールへ干渉をしてみてほしいの。」


「そういう事ですか…」


すべて理解ができた。軍が持ってる唯一の手がかりから可能性のある推論を検証するために私の能力が必要になるかもって事か。


「一つ、条件があります」


タダじゃ動きません。

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