第31話 女性関係は痴情のもつれ

「全面的な協力を約束するうえで、一つお願いがあります」


「なにかしら?」


「また、金か?」


「あ!それも頂けるならください。むしろそれも条件に入れます。昇給も可です。」


よし、金策!金策!


「うぇ」


「あんた、馬鹿でしょ?」


勝手に条件を増やして、話を進める。


「それで、もう一つの条件ですが、首脳陣の秘密をすべて開示して下さい。できるかぎり全体に。。。即時かどうかは場合によりますが。」


「唯ちゃんに教えるのは問題ないわ。そのつもりだったし、必要があるから。全体にっていうのはどうして?」


「多分八神さんにも秘密を開示するんですよね。」


「そうだな、徐々にだが話してくよ。」


思ったよりも真剣な面持ちで昂暉さんが答える。


「そもそも、八神さんの昇格って組織の風通しを良くするためですよね?」


「そういう面もあるよ。」


なら、私の最近の不満は的外れではあるまい。


「ちょっと、今の派閥とまでは言わないですがグループ分けの感じが中学生みたいで気持ち悪いです。」


一瞬、きょとんとした間が開いた後にすぐに察した新渡戸さんが笑い声をあげる。


「あははは、分かるわぁ!いい例えね、確かに子供っぽいわ。それにしてもストレートねぇ。」


実のところ、飲み会の時点で感じたが首脳陣、女性陣、異世界楽しんでる男性陣、その他少数派という感じで、グループ分けがされていて、特に女性陣は【色恋沙汰】と【帰還への愚痴】が会話の主体で、真剣に異世界活動すると結構邪魔な存在だ。戦争中はさすがに必至だったが、訓練などはしないし率先して働きもしない。精々、行き遅れた家事手伝いみたいな連中が7~8名ほどいる。だから、馬鹿っぽくても率先して軍ごっこやってる男性陣の方が健全で役に立つ。


「やっぱり、そう思うよね?俺は、組織リーダーに向いてないんだよ。女性の扱いなんて分からないし、どうしたら健全な関係にできるだろうか?」


「さぁ?それ私の知った事ではないです。軍隊形式辞めればいいんじゃないですか?」


「それもいい案だけどね。対外的な関係から、いまさら義勇軍って立場は変えずらいのよね。だからって女性陣に軍隊のまねごとしろって言っても嫌なのも分かるわ。」


新渡戸さんも、嫌な気持ちは分かるんだ。


「あぁ、そうか。。。だから新渡戸さんは率先して軍ごっこに参加してるんですか?」


「ごっこ、ごっこ言わないでくれ、傷つく」


無視無視


「嫌って程でも無いのよ、女っぽく着飾る方が苦手。それに、首脳陣がやらないとみんなやらないでしょ。」


「じゃ、イオリさんせいですか?」


「いえ、昂暉のせいよ。」


明確な犯人がいるとは思ってなかったが名指しされたた当人を見ると、いつもの唯我独尊とはうって変わってバツの悪そうな顔で下を向いてしょんぼりする。なんか、自覚症状もあるようで。。私から見ると女性陣はイオリさんが甘やかしてるようにしか見えないのだが、そもそも昂暉さんがそれを良しとしてるのも意外だ。


「まぁ、詳細は新渡戸さんから、おいおい聞きますね。」


「あら、いいわね?飲みにでもいく?」


「あ!是非、洗いざらい聞きたいです!」


苦手苦手と言っても重要な情報源の確保は最優先だ。


「いいわよ~」


「勘弁してくれよ。。。俺がなんとも言えない雰囲気を作った自覚はあるんだが、どうしたらいいんだよ本当に。」


「まぁ、ぶっっちゃけ私はどうでもいいんですよ。上辺の女付き合いなんて慣れてますしね。ただ、琴音ちゃんをあの環境に置きたくないなって思います。夢も希望もない愚痴大会なんて、それこそ飲み屋でやってほしいですよ。」


交渉中に入ってからの一週間は、ほぼ日常に戻ったといっていいほど平和な状態で、生産系のスキル持ちだけが忙しそうにして、他のメンバーは暇そうだ。ある程度の役割はあるようだが、基本的には暇だ。現代日本で社会人をしていたなら不安になるほど仕事が無い。


それだけ、赤坂はチートで自動化してるって事なのだが。。


男どもは、ファンタジーが好きな連中が多く、日中は訓練や戦術の話で費やす。かくゆう私もここで特訓している。

問題の女性陣は決まった時間に集合し、優雅にお茶会をしている。その時に、私と琴音ちゃんも誘われ参加するが、はっきり言って時間の無駄。一週間しかたってないのに同じ話に胸やけがしそうな位だ。


その会に琴音ちゃんが何を思うかは謎だか、現状では勉強に訓練にと一番忙しくしてる年下ズの二人にとって、退屈そうに退屈な退屈しのぎをするダメ人間の空気は害悪でしかない。


「あれかぁ。」


「琴音ちゃんのやりたい事をやってほしいと思います、例え異世界であっても。」


「随分、彼女に肩入れするのね?」


「生き方なんて其々ですが、流されるのは良いことだとは思いません。」


「あら唯ちゃんは、とっても芯があるのね?」


そんなわけない。流され続けて今の自分がある。

会ってまだ数週間なのに、私にとって琴音ちゃんは宝石のように眩しく、異世界なのに希望とやる気に満ち溢れた真っすぐな子だ。若さゆえかもしれない、でも「あの目を汚したくない」とそう思うくらいには私は彼女に入れ込んでいる。


「いえ、単なる後悔ですよ。」



「まぁ話はわかったが、何で情報開示が解決になるんだ?」


「解決?ならないと思いますよ。ただ、いい情報でも悪い情報でも少し刺激を与えないと働かないかなって?交渉待機中とはいえ戦時中で、あの緊張感のなさは現実が見えてませんよ。仕事を与えなきゃダメになるだけです、自由と怠惰をはき違えれば共生ではなく寄生ですよ。それに、日本に戻っても現場復帰できないと思います。」


「辛辣な意見ありがとう。確かに的確だよ。」


「どうするの昂暉?公にしない方がいいこともあるわよ実際」


「いや、善処するって回答ではだめか?おなじ問題意識は持ってるから、改善のためなら協力する。」


「協力じゃなくて先導してくださいね。私はやりませんよ。」


「当然ね。」


「はい、すみません…」


私はとりあえず言いたい事だけ言った。

はぁ、人間が50人も揃うふと碌な事にならないよ。


「まぁ、昂暉がちゃんとしてイオリと和解して動いてもらうしかないんじゃない?あの子たちを甘やかしたのはイオリなのは間違いないし。」


「それって、大枠はどんな感じなんですか?」


新渡戸さんに後で詳しく聞くとしても、概要だけでも気になるのが女の性で。。。そう、つまみ食いしたいのです。いや、愚痴と色恋沙汰が嫌いなわけじゃないんですよ?限度ってものがね。やりすぎは良くないんですよ。つまみ食いです。うんうん。


「政治的に仕方なかったとはいえ、好きな男に敵国の王家に嫁に渡されてキレちゃった感じですかね?昂暉さん?」


「それ、今関係ないだろ…はぁ、もう好きに言ってくれ。」


「ここで投げやりになるのが、また最低ですね。」


「すみません。」


なるほど、そういう感じか。さすが新渡戸さんワンフレーズで大枠が分かったわ。


「まぁ、でも彼女たちは唯ちゃんと違って結構この世界に来た時に塞ぎ込んでしまったの。やっと戦うことができて、戦争するだけで疲弊してるのに現実なんてなかなか向き合えないわ。」


適応できなかった人たちの組合なのか、野球部見学に来てるミーハー女子みたいで結構楽しんでるように見えたけどな。。。


「まぁ、私はこの組織の健全化が目的ではないので、彼女たちをどうこうしたいより、琴音ちゃんを保護したい気持ちが強いのでお任せします。情報開示も手段だと言いたかっただけです。」


言いたいことは言えたの条件は保留して話を進める


「それに、ここで生活することを真剣に考えないときっと後悔します。」



二人は黙ったままだが、私の言った言葉の真意を理解して肯定しているように感じた。

ちょっとした間を振り切り話を切り出す。


「では全面的に協力するとはいえ質問があります。私の勝手な想像ですが、帰還について大分答えが見えてきてるんじゃないですか?」


「唯ちゃん、その答えはノーよ。20年間何も進展してないわ。だから、今回あなたの仮説は藁にもすがるおもいで賭ける価値のあることなの。」


随分、切羽詰まってるな。



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