第32話 氷の山を登山する
がつがつ
履き慣れない靴を足元の氷に打ち付け登る。30度くらいの急こう配だが、スキルで保管された筋力ならば、なんとか登れる。
はぁ
白い息はそのまま凍り付くように口元にまとわりつき気持ち悪い。
もうかれこれ2時間はこの行為を繰り返えしだ。
あぁぁぁ
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三日前
2週間も続いた会談も無事に終わったようで3国の大軍と一部隊は仲良く解散。
話し合いは、殆どヴィルヘルム魔導国が独り勝ちで利益を持って帰る形で決着したらしい。うちとの悶着は双方痛み分けで賠償を含み何も無しという手打ちになったようだが、かなりパルノガスとの交渉がうまくいき、些細な事だとウハウハして帰ったらしい。
ヴィルヘルム兵を2000は溶かしたけど本当に向こうは良いのだろうか?まぁ、こっち的には人的被害が一応ないから手打ちは最善の落としどころなのだろうけど。
私が考えても仕方ないことなので記憶の片隅に置いておく。
ようやくホームであるゼノグラン帝国に戻ることになり、軍員はみんなは歓喜に舞った。私は異世界に来て約一か月が過ぎた程度の人間なのでホームなんてあるんだ?位にしか思えないが、赤坂は帰還を始めた…しかし
そんなとき事件がおきた。あの場で帰還探索のため出張していた義勇軍の初期メンバーである湧帆さんに連絡を入れたところ音信不通。異常事態が発生したということで急遽捜索隊が出されたのだ。
場面は戻って雪山
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「寒い!!」
私はいま極寒の山をピッケルをもって登山している。
「大声出すと疲れるぞ?」
「なんですか、ここは?」
「氷の山脈アイスガーデンって場所だね。」
「名前が安直です!やり直してください。」
「俺に言われても。。」
私、寒くてイライラしてます。
捜索隊のメンバーは私、昂暉さん、新渡戸さん、イオリさん、我妻さん、八神さんの6名で少数精鋭のベストメンバーに、なぜ私が居るかというと、たまたまモンスターの補充問題の検証を湧帆さんがしていたらしく丁度いいから捜索ついでに連れてこられた。
寒い
ツーマンセルで3組に別れて湧帆さんの捜索に入ることになったのだがメンバー分けは、イオリさん新渡戸さん、我妻さん八神さん、私と赤髪。なんで!?
「私はイオリさんとがいいです!」と打診したが、そもそも、伝心スキルで連絡が取れるのが新渡戸さんと我妻さんと昂暉さんだけのようで、その3人ならだれがいいと言われたので発言を引き下げた。本当は我妻さんが一番気が楽そうだけど、その3人で選ぶと角が立ちそうだし大差もない。
そして、寒い
「普通雪山って分かれて行動しないんじゃないですか?」
「そうだね。まぁ、異世界だし普通じゃないから。」
「昂暉さんは熱源は無いんですか?」
「俺、火魔法は覚えてないんだよね。」
使えない。
あえて言おう、イオリさんと一緒に行動したい理由は…
主に温度管理のためだ。
寒い
登山なんてほとんど無言だろうし誰とでもいいよ。それより、私に熱をください。
一応、昂暉さんのマジックシールドで生死にかかわるような致命的な冷えは避けてるようだが、相手が魔法ではなく自然の物理現象なので完璧には寒さを退けられない。
私の火魔法だと外気温に負けてすぐに消えてしまう。逆に環境によって魔法が使えないこともあることが知れて良かったと前向きに考える。
でも、寒い
「これって、あてもなく歩いてるんですよね?」
「いや、違うね。エルダーグリズリーってモンスターの巣に向かってるんだ。」
「え?目的地あるんですか?じゃ、スターゲイザーとかでもよいのでわ?」
「こんな、吹雪の中で飛行機は飛べないよ。」
そりゃ、そうだ。寒くて思考が単調です。
「ちょっと慌ただしくて概要を説明できてなかったね。エルダーグリズリーって結構強い魔物なんだけど、個体数が圧倒的に少ない魔物でこの地域には10~20体ほど生息してるんだ。」
「そんなの倒したら絶滅しちゃうじゃないですか。」
「そうなんだよね。エルダーグリズリーが落とす魔石(魔物の心臓らしい)がかなり貴重で装備品を作るために俺たちが乱獲したんだ。」
「最低ですね。」
「まぁ、その当時は個体数もわかってなくて乱獲の意識はなったよ。その時は、この山に居た15体くらいしかいなかったみたい。で、その時に初めてモンスターの発生を確認した。」
「なるほど、この山の個体数が正確に分かるのは一回絶滅させたのですね?」
「そう、ここでは二回ほど全滅させて二回ともエルダーグリズリーがすぐに召喚されてる。最後の一匹を倒すと自動で補充されるみたい。」
へぇ、そりゃプログラムに見えるわ。
「出てきた奴すぐ倒さなかったんですか?」
「いや、やったけどダメだった。エルダーグリズリーは3地点で同時に召喚されてるみたい。検証不足で、まだ仮説な部分が多くてね」
「それで、三つに分かれて行動してるんですね。」
「そう。湧帆には戦争中にこちらの魔物召喚について検証をお願いしてたから、その3地点か道中のどこかにいるはずなんだ。。」
「じゃ、湧帆さんはエルダーグリズリーにやられたんですか?」
「それはないと思う。20体同時に出てきても湧帆が勝てるよ。それぐらいあいつは強い。だから、戦闘以外の不測の事態にあったんじゃないかな」
「例えば何ですか?」
「モンスタープールに飲み込まれるとかどう?」
なるほど、それで私の出番か。
「湧帆さんにはちゃんと生きててもらわないと困りますね。」
「なんで?会ったことも無いのに?」
「命の恩人ですから、お礼も言ってません。」
「そりゃそうだね。さぁ、あとひと息だ。視界が悪いけど多分後15分くらい。」
「あぁ!!15分なんて、もう歩きたくな~い!」
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不満を言っても仕方がないので黙々と歩くこと15分。昂暉さん予言した時間通りに洞穴が見える。
「あれですか?」
「そうだね。」
「あの中、暖かいですかね?」
「風が無ければ火は使えるんじゃない。」
私は、滑落防止に昂暉さんと繋がったロープを外し、天敵に見つかったウサギの如き信じられないスピードで走り洞穴に入る。この事柄を今後【脱兎のごとく】慣用句辞典の欄に付け足したいくらい見事な加速力だった。
「滑落したらどうすんだ!あぶねぇな」
そりゃ、そうだけど。。。そもそもそんな所に連れてくんなよ。ちょっと私にスパルタすぎじゃない?
昂暉さんのもっともな意見を聞き流し、私は持っていたランタンを召喚して火をつける。
「あったかーい。」
「よかったな。人命救助だから急ぐぞ。」
「はいさー」
暖が取れてひとまず機嫌がよくなった私は軽い足取りで奥に向かうと、今度はそれほど歩かず1~2分で光源に辿り着く。
「俺たちがビンゴかな。。」
「へぇ、煌煌と光ってますね。触ったらどっかに飛ばされそう。」
「無事だといいけどな。ともかく全員に連絡する。動きが無いか確認しといてくれ。」
「あいあいさー」
そう、やる気のない返事をした私は、表面とは裏腹に内心ではかなり焦っていた。連絡が無くなってから丸2日は経つ、食事は平気みたいだが普通に考えれば2日も戻らないとかなり危険な状態じゃないかと考えられる。
もし、助けられなければ…そう考えて不安になる。
「おい、命の恩人。礼くらい受けとってくれ。」
今のところ、私はそう小声でつぶやくことしかできない。
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