第33話 希望のモンスタープール
数分後
「本当か?分かったすぐに行動方針を決める」
「香川さんもしかしたらやばいかも」
「どうしました?」
焦りからか声がでかくなる。
「どうも、他の二地点でも光りっぱなしみたい、すぐにでもエルダーグリズリーが召喚されたらモンスタープールが閉じちゃうかも」
「湧帆さんはこの中にいますかね?」
「いや、可能性が高いだけだね。」
意を決した私は、その可能性にかけて光に触れる。
「ちょっと、待‥‥」
----------------------------------------------------
あぁ、また白い世界だ。
今までと違い私を追ってくる白は居ない。
白い空間に見えるけど、たぶんこれは少し灰色なのかなと思考がどうでもいい方に動く
違う違う!湧帆さんを探さないと。意識しないと簡単に思考が崩れてしまう。自分のせいではなく、この空間にいると自分が溶かされるような気分になるのだ。
どこだ?
体は自由には動かないが、この空間のすべての場所に意識を向けることができる気がした。
あれはなんだ?白い光?ゲートかな。こっちはクマ?青白いクマが居る。こっちにもいる。
どこだ?どこだ?
また、クマだ。湧帆さん?いた!
クマの隣に居た人が聞いていた湧帆さんの外見に似ている。そして、右手が肩までバラバラと崩れている。
ヤバイ
分からないけど、ヤバイ気がする。
お願い助けて!湧帆さんを助けて!
そう願うと湧帆さんが隣のクマごと白い光が迫り体を包み発光する。これで解決したか判断のしようがないが、そのまま此処に居続ける恐怖が勝って脱出を試みる。湧帆さんに意識を集中して、元居たゲートに戻れと願う。
意識が急に最初の地点に戻った気がした。すると、いつものように私に白が襲うが、湧帆さんは居ない。
まって、お願い。湧帆さんも一緒にこのゲートに!
私は願う。神?いや違う、自分の能力に願う。助けてと。
私の視界はそのまま白で塗り潰される。
----------------------------------------
「おい!おい!香川さん!起きろ!大丈夫か?」
遠くに声がする。昂暉さん?
「はぁ!」
「起きた?大丈夫か!?香川さん!?」
私は、体を勢いよく起こして声の主を見る、赤髪の昂暉さんがいる。
寝起きのような頭のぼや付きを、大きく頭を振ることで覚醒させる。
「はぁはぁ、湧帆さんは?」
「湧帆?いや、香川さんが光を触った瞬間に気絶して倒れたから心配して?」
うそ、異空間に行っていない!?確かに湧帆さんを見たのに。。
ちがう?
そうか私は意識だけ向うに飛ばしたんだ。だから体が無かった動くわけないや。
じゃ、湧帆さんは?連れてこれなかった?
すると、モンスタープールから光が溢れ出す。
「ヤバイ、エルダーグリズリーか!?香川さんは交戦しないでね、まだ早いから」
「は、はい。」
湧帆さんを連れてこれなかったことに動揺した私は思考が停止する。そして、目の前に光からさっき異空間で見た青白いクマが3匹も現れる。
「く、3匹もまだ来るのか?」
だが、まだ光が収まらない。そして最後の光はエルダーグリズリー3匹の後ろに湧帆さんを召喚し消滅した。
「湧帆!!?やばい気絶してる?」
いくら、湧帆さんがエルダーグリズリーに勝てるといっても気絶してたら、そうはいかないだろう。魔法使わずに肌が固いわけじゃない。
だけど、私はなんとか湧帆さんをこっちに引きづり出せた安堵から涙が零れそうになる。
そんな思考の停止した私を無視して、一瞬で決断した昂暉さんが叫ぶ。
「比類なき魔闘術(マッチレスオーラ)」
昂暉さんの全身を一気に黒ずんだ光を纏うと同時に、飛び出した昂暉さんは熊を一匹殴り飛ばす。
さすがに一撃で死なないようで3匹に囲まれて戦闘を開始する。恐らく、3匹の中に入ったのはヘイトを集めるためで本来なら距離を開けて一匹づつ仕留めるのがセオリーなのだろうか?
わたしは動かず戦況を見つめる。
さらに、ここは昂暉さんのメインの武器である大剣を使うには少し狭そうだ。3メートルも高さのない鍾乳洞になっていて、そこいら中に岩が迫り立ち、つららのような天井がより障害物として邪魔をする。
2メートル程度の身長で思ったよりも小柄なクマの魔物であるエルダーグリズリーはとにかく早い。外から傍観してるのに、私の目では追いきれないほどだ。
しかし、昂暉さんは三匹同時に対して余裕をもって攻撃を当ててる。
あれ、私たちから気を逸らすようにしているのだろうか?
事実、昂暉さんの戦線がジリジリと移動して湧帆さんから離れていく。
そうか、湧帆さんを助けないと。
私はばれないように湧帆さんを確保しに動く、慎重に音を立てずにネズミの仮面を被った気になりながら。
し、し、し、忍び足
バキン!
見事に氷を踏み抜き音がする。
一匹がこちらを見て標的を変更する。
「ヤバイ逃げろ!」
昂暉さんが叫ぶが見る余裕はない
そもそも逃げれるか分からないし、私が逃げたら湧帆さんがヤバイのだ、意を決してクマに立ち向かうため槍を召喚する。
何も倒そうとしてるわけじゃない。昂暉さんが二匹を仕留めるまでの時間稼ぎだ。
私は間髪入れずに短距離バリスタ【たんぽぽ】召喚して放つ。
ずどん!
「よけた!?」
槍の投擲で考えられないスピードと威力のはずなのに、あっさりと避けられた。一瞬クマを見失うと、次に見つけた時は右隣りに接近して左手を振り下ろす。
がん
なんとか持っていた槍で受けたが反動に耐えられず5メートルほど吹き飛ぶ。
なんで、昂暉さんはこれ素手で受けてるの!?
両手がしびれ、体中が痛い。吹き飛ばされた距離を維持すべく私は体制を整えるが、それを超える速いスピードでクマが接近する。
「何度もやらせるか!」
私はそう叫ぶと中空に槍を召喚した。
これは今までの槍とは訳が違う、収納レベル4だから出来るとっておきだ。
中空に現れると同時に、槍は推進力をもってクマに向かう!さすがに突進していた方向から、向かってくる槍が急に現れれば避けることが出来ずに肩口に突き刺さる。
「どうだ!スピード自慢も意表突かれれば避けれないだろう!」
私はそう言いながら、足の止まったクマに収納ストックにあった特別製の槍4本を放つ。
そう、収納レベル4に上がったことで生鮮食品の永久保存を可能にした時間停止の恩恵だ。事前に【たんぽぽ】で発射した直後の槍を収納することで運動エネルギーを持ったまま異空間に保持ができ、その槍をいまここで召喚したのだ。要するにバリスタが無くても0距離で砲撃できる仕組みだ。
ただ、こんなヤバイ戦闘になるとは思ってなかったので5本しか用意してなくて、今ので打ち止め。結構なダメージになったがまだ動いてる。
他に私が持ってる遠距離武器は?
思考を巡らすのは一瞬で、私は刀剣のついた銃を一丁召喚した。
そう、格納庫から盗んだ銃だ。アサルトライフルという種類の連射できる自動小銃で【あじさい】と命名した。理由は花が同時に一杯咲くので、たくさんつながりで【あじさい】(花も銃も詳しくは知らない。)
しかも何でも銃本体より弾の方が特別製らしく魔法武器になっていて、数が必要なので超高価なものらしい。
沢山拾えてラッキー!
だけど、命には代えれない、弾はまた後で盗もうと決意して惜しげもなく引き金を引く。鍾乳洞にけたたましいほどの銃声が響き、私の聴覚が完全にマヒする。
だが、視線はそらさないでクマの生死を見届ける。
クマに射撃し続ける事十数秒。持っていた銃弾を全部を打ち尽くした。
クマは途中で倒れ動きを止めている。
「はぁはぁ、やったの?」
ぐぉ
「うそ?まだなの?」
立ち上がりはしないまでも頭をあげ、這いずりながら近寄るクマにさすがに腰が引ける。
ざん!
「お疲れ様!よくやったよ。香川さん、さすがだわ」
そういうと大剣で一撫でしてクマの首を落とした昂暉さんが笑いかける。向う側を見るとこの一分足らずで向うの二匹は切り倒されていた。
「いやぁ香川さんが動き出したときは焦ったわ。一匹そっち行っちゃうし、流石に助けれないかもと思ったよ。」
…
あれ?向こうの方が空間が広いのか?剣振るうために移動しただけか!?言ってくれよ、湧帆さんの確保なんて望んでないって!?
「まぁ、でもさすがに退けるとは思わなかったわ。エルダーグリズリーってS級だからね。Cランクの香川さんが勝つとは」
最後は腰が抜けてましたけどね。
「それにしても、アサルトライフルなんてよく持ってたね。。あれ、俺が買ってあげた見積もりにはなかったような。」
やべぇ、ばれる。
「えへ?」
「はぁ。・・・まぁ、今回も結果的には良かったのかな。でも、戻ってから話は聞かせろよ。」
ぶりっ子では誤魔化されませんでした。体格が邪魔しているのでしょうか?
ライフルは昂暉さんの収納袋にしまわれた。
「とりあえず、帰還しよう!湧帆の意識が戻らないと厳しいし。」
そう昂暉さんは言うと、湧帆さんを担いで出口に歩いていく。
私の【あじさい】~~~~!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます