第34話 お礼が言えた

相棒~~!!


私の相棒ことライフル【あじさい】(今回初めての実践投入】を昂暉さんに持っていかれ打ちひしがれていたが、とうとう昂暉さんの姿が見えなくなったので諦めて動き出す。


「いたぁ」


脇腹に鈍痛が走る。

恐らく骨が折れてるだろうか?


「はぁ、仕方ないか。」


そう思い、収納にあった回復ポーションを栄養ドリンクのように呷る。


「くぅ、まずい。もう一杯」


くだらない冗談を言ってもう一杯飲むのは、本当に一本じゃ足りなかったからだ。骨折した部分には痛みが残り、しびれで気づかなったが手首もやってたみたいだった。ちなみに耳鳴りも続いていた。


なんか戦闘でハイになってたが、かなりヤバイ状態だったみたいだ。痛みでそれに気づくこともないぐらいボロボロだったので、念のためもう一本飲んでおいた。


「瀕死の女の子を置いて一人でスタスタ行きやがって。」


この場にいない昂暉さんに対して恨み節をつぶやき、一度あたりを見回す。


「あぁ、そっか。ふふ金策、金策」


そう気づいたのだ。目の前の死体はエルダーグリズリーと呼ばれるS級モンスター、持って帰ればいいお金になるはず。本来なら、必要な部分だけ持って帰るのだが私の収納は三匹ぐらいなら余裕で入る。空なら1000匹だって入るだろう。


棚からぼた餅を喜びながら3匹を収納して、また、ふと気づく


「これ?銃弾かな?」


つぶれて跡形もない銃弾もあるのだがギリギリ形状を保ってるのもある。私はあたりを見回しながら可能な限り銃弾を回収する。


「あとで、櫻井さんに相談して使いまわせるか聞いてみよう。」


「お~い、平気か!?」


私がいつまでも道草を食ってるので、流石に心配して声をかけてきた。


「すみません!ちょっとクマにやられた所がひどくて休んでました。」


「な!すまん大丈夫か?今そっちに戻る」


「いえ、ポーション飲んだんで大丈夫ですよ。今行きますね」


相手の罪悪感に付け込み、ポーションを飲めば休む必要もない事実から目線を逸らさせ、その一瞬の隙に金策という悪意を闇の中に放り投げる。


軍に徴集?いえ、クマは私のものです。


討伐は昂暉さんだけどね。


私は忘れ物が無いかあたりを見回し、モンスタープールの光があった所を一瞥する。


「もう、ゲートは感じないか。。」


考えても、仕方ないので昂暉さんの所へ戻る。


「お待たせしました。」


「すまん、湧帆の事が気になって、香川さんも負傷してるのが気づかなかった。」


「まったく、陰謀にばかり敏感で女心に疎いダメ男ですね。罰としてライフルを返してください。」


「それはダメ」


ケチ!!


「まぁ、大丈夫そうだな。じゃぁ行こうか?」


そう、昂暉さんは珍しく柔和で優しそうな顔で私に声をかける。くそ、少しドキッとした。

昂暉さんが後ろを向き歩き出すと赤い長髪がポニーのしっぽのように揺れて心が一気に萎える。普通にしたらかっこいいのかな。。。


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そんな、こんなで2時間かけて下山したあとヘリに乗って赤坂へ帰還した。


まだ、湧帆さんは目が覚めない。


「石神さん、湧帆はどう?」


救護室で湧帆さんに診察をする軍医の石神さんにイオリさんが心配そうに尋ねる。



石神さんは、日本で医師免許を持っている本物のお医者さんで、研修医時代にこちらに飛ばされてきた。医者としての経験は浅いが、ユニークスキルの【深層の触診(ディープタッチ)】で触ることで相手の体調や魔法効果の状況などが詳細に分かるため、元の知識と合わせて優秀な異世界医療従事者だ。スキルによる強さとかも分かるようだが、我妻さんみたいにランク付けできるわけではなく、あくまで石神さんの感覚的に強い弱い、良い、悪いが判定できるものらしい。


新渡戸さんとは違い、医療用のきちんとした白衣を着こなし、それでいてガッチリとした体格はラガーマンのようだ。容姿でいえば、顔の輪郭が四角く、つぶらな瞳が印象的な人である。


ちなみポーションなど薬系にスキルが特化していて二日酔いの薬なども出してくれる。薬系のユニーク持ちはいないので、自分で頑張って作ってるそうだ。


軍で魔法に頼らない回復は石神さんだけで本当の意味で生命線なたる重要人物の一人だ。


「ん~命に別状はないけどね。意識が戻らない理由がわからないんだよなぁ。寝てるとおもうんだけど、起きる気配がない。」


「石神さんでも分からないのか、植物状態みたいな感じ?」


「いや、そこまでひどくないと思う。なんか、魔力酔いみたい感じがするよ。」


「あぁ、そういえば魔力酔いは触診できないって言ってたな」


「スキルが発動しない感じですか!?」


私はピンとくるものがあって会話に横槍を入れる。


「発動しない?あぁ、確かにそうだね。そんな感じだよ」


「香川さん、ナイスだわ。ちょっと私、資料を取りに一回戻るわね。」


そういうと、何か分かったのか新渡戸さんは救護室から出ていく。


「えぇと何の話?」


「いや、湧帆の事とは関係ないから、石神さんには後でまた説明するよ。」


「そうか。まぁそうは言っても話は終わりだがな。まともにスキルも発動しないし息して生きてること以外は分からないな。」


「私、触れてもいいですか」


「香川さん?えぇ、どうぞ」


私は、そっと右腕に触れてみる。異空間での事が悪さしているなら何か違和感を感じるかもしれないと思ったからだ。だが、何も感じない。


「香川さん、右腕の事に気づいてるの?」


そう、石神さんから告げられてハッとする!?私はあの時に右腕が欠けていた事が印象的で起きない理由があるとすれば、そこに原因があると考えただけだ。当然、別の可能性もあった。


「右手って?」


私の質問を取りなすように、石神さんが昂暉さんに投げかける


「昂暉、起きってみないと分からないが湧帆の右腕に力が入ってない。スキルは効かないんだが、普通に診断した感じだと、恐らく右手は動かないかも。」


「うそでしょ?」


イオリさんはこの部屋に来てからも、ずっと泣き出しそうな面持ちだ。


「そうか…直せないかな?」


「まぁ起きてみてからだな。あとで、町田を呼んで魔法でもやってみるさ」


町田さんは年下ズの先生で勉強を教えてるが、軍で一番強力なヒーラーでもある。


その時、私の目の前で事件が起こる。

私は湧帆さんの右手に恋人のように手を添え、心底に心配した表情で顔を見た状態で、湧帆さんが目を開き意識を取り戻した。


「あぁ、あれ?香川さんだっけ?」


いきなり起きないでよ!?長く眠っていたのに覚醒が早くないですか!?


「えっっとこれはですね!あのですね。あ、櫻井さんすみません。」


驚いて湧帆さんのからだから飛びのき後ろにいた櫻井さんに背中からダイブして、大混乱のなか、逆にイオリさんが湧帆さんに飛び込む。


「湧帆!!」


そういいながら、大号泣で湧帆さんを抱きしめる。イオリさんは湧帆さんの事を弟のように大事に思っていて今回の行方不明で一番心配して取り乱していたのはイオリさんだった。

いつもの、軽い調子もなくずっと強張った顔をしていたのだ。無事が確認できて緊張の糸が切れたのだろう。


「うぉ、イオリさん痛いんだけど」


「え!?どこかケガしてる?」


「いや、体勢的に」


「あぁ、ごめん」


イオリさんは体起こし安堵の表情と泣き顔が混ざりぐちゃぐちゃだ。ここにいる捜索隊のメンバーも湧帆さんが意識を取り戻したことに各自喜びの声を挙げている。


「湧帆、大丈夫そうか?」


昂暉さんも嬉しそうにだが心配の声をかける。


「なんか、うまく体が動かせないけど・・平気そうかな。」


「よし無事も確認できたし、いったん解散だ。少し湧帆には休んでもらって事情は後でな。」


石神さんが医師らしい言葉で場を治める。


「確かに、そうしよう。じゃ湧帆一旦戻るよ。」


「わかった。後で報告するよ」


そういって、私たちは部屋を退出しようとしたとき


「あ、香川さん!?だよね?」


「はい、はじめまして香川唯です。」


「はは、知ってる名前だよ。」


はにかんだ笑顔が子犬みたいで可愛い


「助けてくれたんだよね?ありがとう。」


「覚えてるんですか?」


意外だった異空間の事を知っているのは自分だけで私の夢物語のような話だったのだ。本当の意味で初めての異空間仲間に心が明るくなる。


「光に触れてからの事は覚えていないんだけど、なぜか、貴方の必死な表情だけが記憶にあるんだ。まともに会って話したことも無いのね。不思議だよ…だから、助けてくれたのかなって?」


「はい、私が助けました。」


私は少し誇張して自分手柄を主張する。


「はは、ありがとう」


「いえ、こちらこそ!私も…命を助けてくれてありがとう」


「そうだったね。。これで、僕たちは命の恩人同士だね。」


「そうですね。ふふふ」


そういって、私たちは笑いあった。


そう初めて交わした会話なのに、もう十数年も一緒にいるような自然な笑みだった。








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