第21話 出撃前夜

太陽が天辺に上る前に私達一行は赤坂に追いつき、その物々しい雰囲気に驚いていた。


格納庫には大砲類が置かれ、空いてるスペースには(多分)ミサイルもゴロゴロ積まれていた。戦時中というには、作業している人の雰囲気はいささか文化祭のような様相だか、これらが兵器だと考えると随分と生々しく感じる。


「おぉ、戻ったか!」


「おまたせ、それなりに成果があるわよ」


残りの二日間は特訓どころではなかったがゴブリンの巣の収穫がよかったのでペイできたとイオリさんは判断しているらしい。


「さっそくだが、活動報告してもらえるか?明日には戦場に出てもらうことになりそうだから、こちらの状況説明もしたいしな」


そういうと、昂暉さんはいつものおちゃらけ感はなくテキパキと周りに指示を出し、自分の部屋に戻っていく。ふむ、能ある鷹は爪を隠すか



---

「でダンジョンはどうだった?」


「えぇっとね、ダンジョンはねぇ。。攻略はできたわ、一応ね。。。」


歯切れの悪いイオリさん


「へぇ、…すごいじゃない」


疑った目でイオリさんに声をかけるのは白衣の新渡戸さんだ。昂暉さんも疑りの目でみているのでいつもの事なのだろう。


「はい」


「ん?どうしたの香川さん?」


「私から報告していいですか?少しややこしい感じにはなってるので」


新渡戸さんと顔を見合わせる昂暉さんがこちらに向き直って告げる。


「もちろん、どうぞ」


「ちょ、ちょっと唯さん。お願いね。」


予想外の驚きが餌をねだる燕のような顔に変化し懇願する。「うまく、誤魔化してね」っと。


任してください!!


ーーーーー


そして、私は一つも包み隠さず昂暉さん達に報告すること15分。イオリさんはプラス15分お叱りを受けておりました。そうですよね?洞窟で壁に向かって爆発魔法とかありえないですよね!?言ってやってくだせぇ!


ばっちりチクった私に、恨めしそうな目で見るイオリさん。ホウレンソウ大事。


「しかし、ダンジョンマスターを手懐けたかぁ」


「やっぱりまずかったですか?概要しか知らなかったので出来そうなことで餌釣りして確保しちゃったんですが。」


「そんなことないわ!香川さん、とてもグッジョブよ!これで秘密裏にされていたダンジョン関係を丸裸にできるわ!」


「まぁ、実はダンジョンの細かいことはよく分からないんだよ。探索がむずかしいうえに組合のダンジョンマスターは守秘義務で教えてくれないし。同じくモールマンもわからないらしい。」


へぇ、だからゲレイロさんもよくわかってないのか。


「でも、秘密にするってことは何かあるって事よね?」


「かもね。まぁ、どっちにしても処遇を保留にして安全だけ確保してきたのは完璧な対応だと思うよ。帰り道に通るから、その時にもう一度訪問しよう。その時は自分も行くから。」


「よろしくお願いします。」


そんなこんなで、中間管理職のイオリさんを無視して、最高責任者と新卒がダンジョンについての方針を決める。


「ダンジョン♪ダンジョン♪」


ダンジョンの調査が相当に嬉しいらしく、何か書籍を開きだした新渡戸さんに昂暉さんが叱責する。


「おら、新渡戸!ダンジョンは後だって言ったろ。さぁ、余計なことで時間食っちまったが、これからが本題だ。」


ーーーーーーーーー

作戦内容を説明された私たちは、担当の現場に移動した。


「お!きたな」


そこにいたのは爽やかスポーツマンの我妻さんだ。刈り上げた髪は適度に立たせて清潔感があり、大きな体格から柔和で懐が深く感じる。ぱっとみ好印象なのに腹黒そうな人に分類しておく。。今回は私たちは我妻さんの率いる隊に所属して、ヴィルヘルム魔導国の足止めを任される40人規模の陽動部隊に編成された。


私たちの任務は聖パルノガス神国に他国の意向を伝え【戦闘行為を止めるよう通告している間】の時間稼ぎだ。消耗しないように小競り合いをしながら私達は戦う意思はないよ~って伝えるのが目的らしい。。


難しくない?小競り合いはするの?


私達、新人トリオは小隊長として八神淳少佐と村上幸夫大将がついて5人組で監視系の役割に付くことになった。


八神隊長はさらさらヘアの坊っちゃん刈りでちょうどよい長さに揃えられている。動くと時折左頬に傷痕が見えるのが印象的だ。目付きは鋭く、眼帯したらしたら似合いそうな目でワイルドなので30代ちょいワル親父に分類出来そうだ。。

村上さんは私と同い年くらいで短く刈り揃えた髪をワックスで立ち上げている。パーツをよく見ると、イケメンに見えなくもないが、姿勢や言動からそこはかとなく残念な感じが漂うので、大学デビューに分類した。


名前と顔を覚えるのに必死なんです、分類すると覚えやすいんですよ?


自己紹介もそこそこに現在、交戦用の矢倉(マジックシールドを展開しやすくするための物らしい。)を作る作業を急ピッチで行っていて私はその手伝いをしながら隊と交流を深めている。


「八神さん!ここはこれでOKですか」


「お、いいんじゃない?さすが村上君だね!」



「あのぉ、一つ疑問があるんですが?」


「なんだい香川さん?」


「この班の班長って八神さんなんですよね?」


「そうだね。僕が班長だよ?」


「村上さんは大将ですよね?」


どわ!!


その場にいた40人が爆笑する。村上さんは顔真っ赤にしてうつむいている。


「いや、この軍ってなんちゃって軍隊でしょ?その辺は大丈夫?」


「ごっこみたいだなぁとは思ってました。」


「まったくその通りだよ。だから、階級って全然意味なくてみんな大体上下関係気にして階級名乗ってるけど意味はないんだ。」


「あぁ、やっぱりそうなんですね。我妻さんとか階級無いですもんね。」


「そ、現実的に言えば軍の総大将が我妻さん。」


「あれ、昂暉さんが総大将じゃないんですか?」


私と同じ疑問を持っていたのか年下ズも、お土産人形のように頭を上下させる。すると、腹を抱えて笑っていた我妻さんがやってきて、当事者の村上さんもばつの悪そうな表情で矢倉から降りてきた。


「まぁ、どっちかっていうと新渡戸が軍師で昂暉は特攻隊長だよね。昂暉なんか最前線行くし。」


うそぉ。


「でも、単独で状況を打破できないから俺たちは徒党を組んでるだろ?だから、その集団戦闘を指揮してるのは俺になるのかな。しいていえば昂暉は総帥で俺が元帥かな。」


なるほど、戦場で舵取りするのは我妻さんなのか。


「で階級なんだけど、香川さんも大将を名乗りたい?」


「あ!それいいですね。おれだけ大将ってきついですよ」


村上さんは、自分の現状を打破すべく上司の言葉に便乗する。


「いえ、結構です。木梨君にどうぞ」


「え!?僕ですか。むむ無理ですよ!できません!」


名前だけだから【できる、できない】は関係ない気がするんだが、急に振られた木梨君は非常に動揺している。


「ははは、冗談冗談。もともとは、この隊に村上っていうファーストコンタクターが居たんだ。仲違いっていうか、すれ違いぐらいかな?今は冒険者として行動してる。」


そういえば、冒険者がいるっていってたな。


「それで、名前が同じだからって昂暉が面白がって大将に任命してね」


「役職だけなら我妻さんの次だからな。村上大将の出世街道は目を見張るよ。くく」


「もう、辞めてくださいよ八神さん」


結構な、いじられキャラだな。


「まぁ、こんな感じ。村上はこの五年間一番年下で、入ったのが最後だったから、君たちが入って一番喜んでるんだよ。」


「そうですよ!やっと木梨君っていう後継者が現れたんですから!おれも軍曹とかそれらしい階級に戻してくださいよ」


村上さん見どころありますね!彼はいじられキャラですよ?主に私に。


「か、勘弁して下さいよ!一兵卒からお願いします。。。」


あぁ、こうやって軍には染まるのですね。がんばれ木梨君!

ちょっとした歓談のまから話題をつなぐように村上さんが発言する。


「失礼ですが、香川さんはおいくつですか?」


おい、村上!本当に失礼だな。とは思いつつ村上さんの年齢も気になるので答える。


「今24ですよ。村上さんは?」


「村上君デリカシーなーい。」


近くの女性隊員(名前なんだっけ?)にやじられて、慌てる村上さん。普段の扱いが目に浮かぶようだ。


「あ、そ、そうですよね。失礼しました。自分は今年でこちらに来て5年で21歳になります!」


よし、年下だな。喜べ!私もいじってやろう。今にも、敬礼のしそうな勢いで答える村上君(君付けに降格)。ただ、想うこともある、彼も16歳でここに来たのだなということ、年下ズもそうだがファンタジーに憧れる年齢のうちにこちらに来るということは辛い事なのかはわからない。早々と異世界に順応してきた私ですら不安があるのに、親元を離れていない子供たちが異世界で戦争に駆り出される事には難しい気持ちになる。ただ、異世界で生きていくには戦う力が必要なのだ。。。昂暉さんたちも難しいことをしているなと、少し同情する気持ちも湧いてくる。


「村上君!」


「は、はい!」


先ほどとは違う少し芝居がかった言い方で名前を呼ぶと、村上君は少し姿勢を正す。


「レディに年齢を聞くような失礼をしたのだからわかってるわよね」


「えぇ!?何ですか?」


どっは


慌てふためく村上君に、周りから笑いが起こる。彼がこの軍のみんなの弟として愛されてるのがよくわかる。


「うそよ。ちゃんと部下としては指示を受けるわ。」


「部下としてですか?」


「そうね、レディの扱いは徹底して教えてあげるわ。」


「香川さん怖いっすよ。。。」


そうして生まれた笑いの渦は、明日の人殺しを共有する人たちで必死に薄めて隠すような不自然さ私は感じた。それを肯定するように一人で苦笑いをする吾妻さんがより印象的にしていたのだ。












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