第22話 開戦の号令

あれから準備を終え、仮眠をとった私たちはとうとう戦争に介入することになる。

そして、朝日の昇りきらない冷たい風が吹きつける平原のど真ん中で陣を張る。


赤坂から降ろした矢倉にある高台から見下ろす形で戦場を見渡す。陣の後方には聖パルノガス軍の旗が掲げられ応対する前方にヴィルヘルム魔導国軍の旗がある。

危険を承知で戦闘区域の真ん中に陣を張っている形だ。赤坂は威圧的すぎるので陣を張るとすぐに後方に下がり戦闘に関わらないと意思表示をする。


昂暉さんたち首脳陣を筆頭に10人程度は、夜明け前にゼノグラン帝国軍の本体と合流し交渉に参加している。

ゼノグラン軍本陣は私たちの陣のさらに後方でヴィルヘルム軍に背を向けるように戦場の中心より端に配置し、一歩でも進めばパルノガス軍と戦闘行為が起きるギリギリに対峙する。もし、ヴィルヘルム魔導国が問答無用で突撃をかければゼノグラン帝国の背後を強襲しひとたまりもない。しかし、これも戦闘意思のないというパフォーマンスになる。

どちらにしても、強行軍でここに来たゼノグラン軍はパルノガス軍やヴィルヘルム軍の10分1程度の規模で本気を出されたら押しつぶされてしまうのが目に見えている。いざとなったらパルノガス軍を突き破ってでも即時撤退。その場合は私たちは殿になり結構ヤバイかもとのことだ。


朝日が本格的に上り平原の緑が青々として見えてきたころ、応対するヴィルヘルム軍から笛が響き軍勢がこちらに押し寄せる。その中でも、一部の部隊が突出してこちらに向かっているように見える。


「我妻さん!ヴィルヘルムに動きがあります。先行おそらく数は500」


八神さんのユニークスキルは望遠系で弓と銃の名手らしい、ここからでは豆みたいな部隊もかなり正確に把握ができるらしい。矢倉で陣があるとは言えこちらは40人、八神班長曰く10倍以上の数で真正面からやりあえば私たちもひとたまりもないのではなかと不安に思う。


「500?魔物隊でしょ?少なめだな。。。罠かな。。」


少なめなんだ。


「そうですね。マジックシールド用の魔導兵器も動いてるので幹部クラスも誰かしらいるとは思いますが。。」


「へぇ、一応交渉してくれるかな?全体第一次警戒態勢!そのまま待機、こっちから仕掛けるなよ!!」


そう、号令があると、全員ばたばたと準備に入る。即開戦とはいかないようだが、どうなるのだろうか。。。


ーーーーーー

ヴィルヘルムが動き始め、30分程度たったころ、軍の大部分は後方に待機し、先行した部隊が目の前に布陣した。500という数がこれほど威圧的だとは思わなかった。ほとんどは魔物の様相で繁殖力の低い魔族はこれらの使い魔と呼ばれる魔物を使役して部隊数を維持する。人とは違う形相のものが半数は居るとはいえ確実に自分たちと同じ姿形の人間がいることにやはり戦慄を覚える。


すると、拡声器を持った我妻さんが前に出る


「こちら東邦義勇軍、吾妻祐樹だ!こちらは現在パルノガスとの停戦および協定締結のための協議を進めている。準備が整い次第、ヴィルヘルム、パルノガスと共に使者を用意して交渉したいと考えている。出直ちに停戦して頂き貴軍指揮官と交渉したい!」


すると、魔導兵器と呼ばれた段ボール箱みたいな大型戦車から単身一人の人がでてきた。遠目で分かりずらいが、黒いローブを全身にまとい右腕には氷のような青く透き通った色の手甲を嵌めている。おそらく隻腕で左手側のローブは人の体を型取らずに不自然に風に舞う。赤茶の髪に赤い目で肌には血管のような筋が通り、その風貌はこの距離からでも争いを生業にしている雰囲気を醸し出す。


「我妻かぁ!?話にならんな元帥どうした?」


隊の一部にどよめきが走る。


「氷結のカールトンか、また大物が来たな。というか相変わらず無茶苦茶だ。」


八神さんが小声で漏らす。どうやら、先行部隊に編成されるような人ではないようだ。


「カールトン将軍か!?すまない昂暉元帥はただいま交渉中だ!そちらのトップはカールトン将軍で間違いないか!?」


そう我妻さんが大声で応対する。へぇ、将軍ね。軍のトップクラスじゃんね。


「いや、私は今回は分隊長扱いだな。総指揮はラピスに任せてる。しかし、私とて交渉の場に送られた使者だ!元帥どころかイオリ・グランバードもおらんでは話にならないではないか?」


なにか、不穏な話の持ってきかただ。


「ち、嫌な奴だな。居ないの分かってるだろ。」

村上君が愚痴をこぼす。


「それは、すまない。数刻待っていただければパルノガスの使者と共にラピス殿のところへ協定交渉にこちらから向かう予定だ!一度、引いて時間をくれないか?」


「話にならんな!吾妻!おまえのような使いパシリの発言に信ぴょう性などない!それどころか今回の被害国である我がヴィルヘルム魔導国を後回しにする不敬!許されることではないと思わないか?和平交渉の段取りだとしても、先にこちらに使者がいてもいいものだがな?まさか、矢倉に立て籠った貴様が使者と言うまいな?我妻よ?」


我妻さんが数瞬返事が遅れる。


「いやぁdふぁ」


我妻さんの声をかき消すようにカールトンが大声で叫ぶ


「言葉もないか我妻よ!思い上がった異世界人を、この氷結のカールトンが直々折檻してくれる!全員戦闘態勢!」


カールトンの周りには大きな青い波動のようなものが現れ、同時にヴィルヘルム軍が前進を始める。


「っち!マジックシールド最大出力!」


その号令と共に氷の矢が矢倉に向かって突き刺さりあたりの平原を凍らせる。氷は矢倉には直撃しないものの爆音とともに強い振動に揺れあたりが冷たい風で立ち込める。


「ち!難癖付けて、はじめやがった!?無茶苦茶な」


「うぉ!!!」


ヴィルヘルム軍が大声を上げ怒号となる。おそらく、最初からあの魔法は防がれるの前提で士気向上のためなのだろう。さらに、その派手な魔法でこちらの軍が委縮しているのが伝わる。戦争が始まってしまった恐怖に手が震える。


「うおりゃ~!」


我妻さんが雄たけびと共に魔力をもったハルバートのような槍を投擲する、着弾と共に敵軍最前列が十数名吹き飛ぶが進行が鈍る気配がない!


「反撃する!!遠距離部隊!!」


「おお!!」そういうと20名ほどの高台に配置された部隊が魔法、矢、鉛玉、大砲と思い思いの武器を放ち始める。

遠距離からの猛攻にヴィルヘルム軍の進行が鈍ったように感じる。


「八神!三留!上は任せる。俺は降りて敵の接近を防ぐ!八神は何かあれば逐一報告」


「「了解!!」」


そういうと、吾妻さんは矢倉から飛び降りたと同時八神さんが叫ぶ


「敵魔導兵器進行開始!突っ込んできて物理的に矢倉を潰すつもりか!?」


「まずいな、一回止めれるかやってみる!」


そう我妻さんは叫びかえすと、一人で敵軍に突っ込んでいく。すごーい

数分して接敵した我妻さんが敵兵をアニメのように吹き飛ばしていくが、数百に囲まれて思うように進めていない。


「ちっやばいかな。三留も撤退を視野に入れて!念のため赤坂にも報告を!」


「わかってる」


副指揮官同士のやり取りを聞き村上君が説明を乞う。


「どういう状況ですか?」


私も聞きたい。開戦直後の震えは止まり自分になにが出来るかを考え始めるくらいには、冷静だった。


「難癖もいいとこだが、想定外に大規模侵攻をかけてきて分が悪い。

本気でつぶすつもりだろう。

こういった戦争では、はっきり言ってマジックシールド潰して殲滅魔法を打てた方が勝ちだ。向こうのカールトンはイオリさんが居ないことを確認している。自陣防衛の要であるマジックシールド拡張用の魔導兵器を潰してでもこっちの矢倉を壊せば勝てると踏んだみたいだ。

正直、正解だよ。

カールトンはこっちとの交戦経験が豊富でね、戦力をよく把握している。こっちの殲滅力は低くないけど、カールトンが相手だと普通に撃ち負ける。せめて赤坂があれば。。。」


「対応策は?」

新人ズを無視した格好で説明を続けていた八神さんに私から質問を重ねる。


「香川さん?そうだね。一般的には物理攻撃で相手の術者や装置を壊すのが一般的だよ。ただ、うちの物理の最大戦力は湧帆と昂暉で、いま現場にはいない。我妻さんは白兵戦では最強に近いけど殲滅力は高くないんだよね。多分近寄れない。さらに、遠距離物理スキル持ちも交渉に参加してる。」


「え!宮永さんたちも!?ほんとだいない!何でですか!?」

村上君が泣き出しそうな声で叫ぶ。女々しいな。とはいえ、木梨君と琴音ちゃんは正確に状況を受け入れられず青い顔をして震えている。これが普通の反応だから、村上君はまだ頭が働く分、場馴れしている。そして、恐慌になるのが分かっているから八神さんは村上君だけに話していたのだ。


「だから、マジックシールド潰しだっていったろ。本当は今一番やばいのは神国との交渉場だ。そこで戦闘が起きる可能性がある。その場合、帝国のお偉いさん方を守るのも、うちらの仕事だ。神国のマジックシールドは5大国で一番強力で威力、数ともに豊富だ。少しでも戦闘になったときに、状況を打破するためにも遠距離物理持ちはあっちに行ってる。」


「我妻は無視しろ矢倉を落とせば片がつく!」


そういうと、敵兵が我妻さんを無視してすり抜けていく、我妻さんもまずいと感じたのか後退しながらの殲滅に切り替える。こちらの弾幕で歩兵は簡単には近づけないようにはなっているが攻め手がなく状況は悪化したように思う。


「っち嫌な手を、三留さん我妻さんが戻ったら撤退に入ります!」


「了解した!」


「一つ試してもいいですか?」


時間がない。私はそういうと、八神さんの肯定を待たずに空いたスペースにバリスタを召喚した。大きな振動で矢倉が揺れる。そうゴブリン退治で大活躍した槍投げ用バリスタ一号【たんぽぽ】(昨日命名した)ではなく5倍は大きいやり投げ用バリスタ2号【ひまわり】だ。


昂暉さんも、もう少し状況を説明してくれればいいのに。。。


「赤坂の撃退砲?いや少し違う?というか香川さん収納魔法で?」


「そうです!レベル3になりました!}


目の前の大きな物体に驚愕の表情を隠せない八神さん。そう私はダンジョンの収益化を図る一方で薬漬けで収納のレベルを3まで上げていたのだ。やはり、私の収納は特別製ですでに16帖くらいのリビングスペースに高さ5メートルほどを確保している。


そこで昂暉さんの提案で、櫻井さんから赤坂に設置してる砲撃機を改造して極大やり投げバリスタ兵器を用意してもらった。すると、軽い足取りで我妻さんが戻ってくる。


「八神戻った!撤退かな?って、あ」


戻ってきた我妻さんが目の前のものを見て迂闊なこという


「忘れてた。。。」


「我妻さん!!」

八神さんが怒りの講義を我妻さんに挙げるが、すぐに意識を変える。


「とりあえず迎撃する!香川さん操作は出来るの?」


「昂暉さんからは八神さんに頼めと」


「了解した。」


そういうと八神さんは【ひまわり】の操縦席に乗り込み、工事現場の乗り物の様なレバーを動かして狙いをつける。私は動く砲台(槍収めるところ)に無視して飛び乗る。


結構動きが激しいです!おちる~。


なんとか、しがみついた私が砲台に槍を収納で設置する。もう槍というにはデカすぎて大型船の錨の様な形状の槍が現れる。スキル発動するのだろうか?一抹の不安を抑えて魔力を籠める。


「発射!」


私の掛け声とともに錨が飛び出していく。飛槍スキルの発動した感触がある成功だ。飛び出した錨が相手木造魔導兵器の前方車輪に当たり動きを止める。


「よし当たった!照準を調整する何発撃てる?」


「10連はいけます!」


「連射かよ、すげぇな。」


我妻さんは他人事のように言うが今は無視。まぁ普通これだけの物理兵器だと玉には鎖つけて撃ったら回収なんてこともある。。だが、私は収納で充填できるので連続で撃てる。


だから、ひたすら打つ。


そのまま3発撃ったところで相手の魔導兵器は完全に沈黙した。


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