第20話 モグラさんと契約

「ちょいちょいイオリさん」


「ん?ど、どうしたの唯さん」


振り返ったイオリさんの表情は汗だくでイワシの群れでもいるのかのように目が泳いでる。想像以上に動転している。決心した私は交渉を変わる提案をする。


「私に、交渉をゆだねて頂けますか?」


「えぇ?私は構わないけど。」


なにその変わってくれるの!?的な目は、賠償責任は自分でお願いしますね。まぁ、好都合なのでそのまま進める。


「ゲレイロさん、私の名前は香川唯と言います。2・3質問させてください。」


「はい、なんでやんしょうか?」


急に出てきた交渉人に体を固くする。モグラさん。


「そもそも、ダンジョンマスターとして生きて行きたい訳ではないってことですよね?」


「そうやんすね。。。モール族として生まれたからには誰もが憧れる迷宮族になれたんでやんす。出来ればそれも良かったかもしれやせんが、人間向き不向きがあることたぁわかってやす。あっしには過ぎた職だと考えていやすね。」


「なるほど、もう一つミニチュアは作り続けたいですか?」


「もちろんでやんす!それだけが、生き甲斐で今でも空いた時間はミニチュアを作ってやす!」


それを、現実逃避と言わないだろうか?DM無くて暇なのかな。


「あれ?そもそもDMってなくても生きていけるの?」


「いや、まったくないわけじゃないんすよ。生き物って空気中にもいるらしんっす。だから、死なない程度にはDMを稼げてるやんす。±0くらいでやんすが。」


「なるほど、じゃ死にはしないんですね。。。」


「そうなんすが、一つ問題がありやして、たまに迷いこむ動物や虫をギガンテスに殺してもらってはちょこちょこDMを貯めてたでやんす。」


たぶん、過剰戦力だな。


「それで、一部屋しかないのが心許ないでやんすから、とりあえず一階層を広げる作業をしてたでやんす。なんか一階層はある一定まで、かなり安く広げることができるやんすから、それでギリギリまで広げてたんす。」


ふむ


「そしたら、ここがどこかも土地勘が無いやんすから適当に広げた先にゴブリンの巣がありやして…」


あぁ私たち、そこから来たわ。


「ゴブリンソーサラーやら、ゴブリンナイトやら結構デカめの巣でやんして一気になだれ込んできたでやんす。何とかギガンテスで撃退して、倒したDMで開いた穴をふさいだでやんす。ところが、あっしのDM貯金もそこで最後。たぶん、薄皮一枚の壁の向こうでゴブリンが虎視眈々とこのダンジョンをねらってるやんす。その恐怖で毎日、寝れなかったでやんす」


ゴブリンナイトしかいなかいんじゃなくて、こいつがゴブリンナイトだけにしたのか。報復に怒り狂って掘ってた感じかな?

それにしてもナイーブだな。結構厚い壁ができてたよ。まぁ昨日眠れなかったのは、私たちのせいだろうけど。


「対策を立てようにも、DMも尽きてるやんんす。仕方ないのでギガンテスに命令して落とし穴を作っておいたでやんす。あんなものにかかるとは思えないっすけど…」


よし、今日の晩御飯はモグラ鍋だ。覚悟しとけ!?


咄嗟に立ち上がりかけた私をイオリさんが半笑いで抑える。


「いけないわ、今は抑えて?ふふ」


悲しい


「あのゲレイロさん?先ほどから聞いてると管理画面でダンジョン内をチェックできたはずだけど、ダンジョン内の出来事は全然理解していないのね?」


怒髪天を衝く私を宥めながら、イオリさんが話題を変える。


「それもDMが必要でやんして、足りないんでやんす。わかるのは精々侵入者かユニークモンスターの数と大体位置が分かるくらいでやんして」


本当にダメダメだな。一度大きく深呼吸をして、過去の事は水に流そうと決め、話を続ける。


「わかりました!それでは、私達と契約致しましょう。」


「おお?急にどうされたんでやんすか下女のかた」


誰が下女だ?こらぁ!!


また、腰が上がるのをイオリさんが肩を抑える。もちろん半笑いだ。


「ごめんなさい。彼女も義勇軍のメンバーで部下ではあるけど身分が下なわけでないの。」


「そ、そうなんでやんすか?失礼いたしやした唯様!あっしは大柄なんでボディガード兼任されてる下女方かと」


誰が巨女じゃ!?


私は迷うわず槍を出して構えるが、必死に私を止めるイオリさん。もちろん半笑いで、むしろ後ろの二人からも声がこぼれてる。笑い事じゃない!私の尊厳い関わることですから!


さすがに、私を怒らしたことに気づいたのか平謝りするモグラさんに少し愛嬌を感じ留飲を下げる。先に進まないので一方的に私が怒気を飲み込む。必ず、この分の代償はあとでせしめる。


ゲレイロは嫌い!モグラは好き!


「はぁ、で交渉なんですが、私たち義勇軍にダンジョンのプロデュースを任せてみませんか?」


「ぷ?プロデュース?」


一瞬、言葉の意味が通じていないのかと思ったが、そうではなくモグラさんは続ける。


「そう言いやしても、DMもないでやんすし、辺鄙な土地でやんす。なんも出来ないのではないでしょうか?」


あ、プロデュースできんの?って事ね。


「そうですね。いまのままでは難しいと思いますが、ゲレイロさんが協力頂ければ策はあります。ただ実はこちらも行軍中であり、すぐにここを発たなければなりません。なので、契約を結ぶといっても口約束程度にして詳細は諸々準備が終わってから、やり直すというのはいかがでしょうか?」


「わかりやした。助けて頂ければ契約も否応ないのですが、具体的にはどんな感じになりやしょうか?」


「そうですね。私も出来ることの成否が確実ではないので、よく調べてからでないと正確にはお伝え出来ないですが大筋でいえば村を作ります。それも、ミニチュア販売に特化した商店をメインにする村を作ります。」


「なんと!?あっしの商品がメインでやんすか?しかし、売れやすかね?」


「そうですね。そのままだと難しいですしここだと場所も悪いですよね。(ここどこだろう?)なので、移動も考えています。」


「移動?移動なんてできるんでやんしょうか?」


「確実ではないので、一旦下調べをさせてください。ただ、最悪この場所でもダンジョン運営は可能だと思っています。ここも行商ルートにはなってるんですよね?」


「はぁ、一応は」


「それで、どうしますか?」


「断った場合はどうなりやすでしょうか?」


「それは簡単です。ここにダンジョンがあることを組合に報告しますので、救助がくるまで耐えて頂ければいいと思います!」


「そんな?モンスターもコボルトとスライムしかおりやせんし、いつゴブリンが攻めてくるか・・・」


ゴブリンはもういません。不思議そうな顔でイオリさんが私を見てるが無視します。「もういないですよ」とか言わないでくださいね。


「もし契約いただけるのならば、ある程度DMを回復したうえで安全を確保してからここを出立します。」


「わかりやした。まともなダンジョンマスターも希望がありやせん。ならせめてミニチュア作って暮らせるならそれが幸せというものでしょうか。。ぜひよろしくお願いします。」


そういって、私はイオリさんからもらった魔法の契約書に「ダンジョン運営の経営権とそれに付随する権利の譲渡」という鬼のような文言書いてサインと母音をもらう。へっへへ、これでこっちのもんだ。まぁ、悪いようにはしないよモグラさん。


「ありがとうございました。それではまずはDMの回復ですね。」


ヤバい契約をしたんじゃないかと今になって顔が青ざめるモグラさん。


もう手遅れよ。


口約束と言いながら先に全権かっさらう私の手際の良さでを恨みなさい。落とし穴、下女、巨女。。。ふふふ、こんなもんで許さんぞ。


そこからは、大方予想していたDM回復方法が正しいかモグラさんに確認しながら作業をすすめる。

具体的にはポップモンスターをイオリさんの高火力魔法で焼くという作業だ。実は、ギガンテスに使った魔法も部分的にDMとして還元していたのだが、まずはギガンテスの復活に使用したいので貯めておく。

さらにオーバーキルでモンスターを倒すとDM還元率が高いことが判明したのでこのダンジョンにいる雑魚をすべて一掃する。むしろ、罪悪感からかイオリさんは一人で率先して作業する。もう一点わかった事、一定の火力を超えるとダンジョンでは吸収できなくなり、ダンジョン自体が破壊されることが分かった。その際に壊れたダンジョン部分には修理が必要でマグマだまりも直すのにDMが必要だった。イオリさんやべぇよ。


一時間に一度ポップしなおすモンスターをひたすらイオリさんに掃討してもらい、私はモグラさんと今後の計画の相談。


ギガンテスの復活には大量のDMがかかりそうだが防衛の要なので早急に復活させる。(召喚するより安いし)イオリさん掃討作戦一日分(12時間分 笑)で復活できるようだ。そして、次の優先はダンジョンの修復と入り口に落とし穴を作ることだ。


作戦としてはこうだ。私たちが近くの森にでてゴブリンなどをダンジョンに誘導する。低級の落とし穴なので別の場所へ移動する程度の罠だが、その先には入り口をギガンテスに守らせた簡易牢屋を作る。これで、基本的には脱出できず牢屋のなかで暮らすことになり、DMの継続収入も期待できる計画だ。もし、脱出を図ろうにも一本道にはギガンテスがいるので、ゴブリンナイト数匹いても通れないだろうとイオリさんからお墨付き。


そうこうしてるうちに二日が過ぎ、ゴブリン貯金の仕組みができた。

私達で追い立てたゴブリンが10体、ホブが5体、ゴブリンソルジャーが一体を牢屋の中に捕まえた。


「上位種が見つかったのは運が良かったわね。」


「やっぱり強い方がDMも多かったですしね。」


効率だけでいえば、イオリさんはダンジョン内に一時間いるだけで2000DMくらいの収入が認められた。(ちなみに私達は2だった。)それを知ったゲレイロは目がドル箱になっていたのだが、それくらい私たちが侵入したときに確認しなさいよとも思う。


「よかったわね。外に行き来できるネームドモンスターも召喚出来て。」


「そうでやんすね、カーモンは可愛いでやんす」


少し高いがネームドモンスターというのを作るとダンジョンの外と接触も可能になるので作った。ゴブリンの餌の補給に動物を狩りする必要があるからだ。まぁ追い立てて落とし穴にポイだけど。どうせ、レベルが低いうちは活動範囲も制限されるので、近隣の雑魚相手なら強いモンスターではなく、知能があり命令遂行能力の高いカーズモンキーという猿のモンスターを召喚した。


爪としっぽ針で毒を付与して逃げるだけのモンスターだが素早いので倒すのは難しいうえに、毒に犯された相手にキーキー挑発するので今回は適任だ。挑発が呪いのようなのでカーズモンキーらしい。


ゴブリンと同格だが、上位種から逃げれる可能性があるのが決め手だ。


カーモンは個体名らしい、なにその名前。


これで、しばらくゲレイロを放置できるめどが立ったので私たちは赤坂に戻ることにする。


「それじゃ、私たちは行くわね。」


「そうでやすか。。。若干不安ではありやすね。。」


ゴブリンは森に出た際にイオリさんに巣を燃やしてもらったことにした。まぁ似たようなものだ。


「大丈夫よ、よほどのことが無い限りギガンテスには勝てないんだし。人もほとんど来ないでしょう。1~2か月で戻れるはずだから、それまで無駄遣いしないでDMを貯めておいてね。」


「承知しやした唯様。それでは、行ってらしゃいやせ!」


そういって頭を下げるモグラさん


こうして、私はダンジョンマスターを一匹手懐けた。








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