第19話 モグラさんと交渉中

易々とダンジョン攻略をしてしまった私たちは、どうやら困り果ててるダンジョンマスターの身の上話を聞くことになった。


「じゃ、まず自己紹介からね。見た目通り土人です。名はチェスター・イオリ・グランバードって言います。」


「ちぇちぇちぇちぇスター・jかsjdj;f」


言葉になってない。


「こ、これは、これは紅焔の魔術師様でしたか!!同じ椅子に座り、交渉など申し訳ございやせん!」


そういうとモグラさんは、また土下座とは言わず王の前に平伏するようなポーズになる。やっぱり、イオリさんは世界的に有名人らしい。モグラさんの反応をみて木梨君と琴音ちゃんは驚いている。


「いいのよゲレイロ。私は貴族の妻ではあるけれど、今は冒険者の身。これから、あなたと共に手を取り合うのであれば同じ机で交渉することにどれだけの喜びがありましょうか?だからどうか席にお座りくださいね。」


そういうと、モグラさんは顔上げ目を潤ませ(そう見える)感涙した面持ち(たぶん)で答える。というか、イオリさんも慣れてるな貴族みたい。


いや、貴族なのか


「私などに勿体なきお言葉!本来であれば私のよな下賤がお願いするなどもってのほか!それは理解しておりますが、紅焔の魔術師様いえ、イオリ・グランバード様の御助けを頂けなければ右も左も動けぬのも事情にございやす。もし、よろしければ私の願いを聞き届け頂いた暁には、わたくし不詳ゲレイロ、イオリ・グランバード様にお仕えするのも辞さない所存でありやす!」


ちょっとモグラさんの仰々しさが鬱陶しくなってきたな。よく、イオリさんは嫌な顔せず応対できるのは慣れてるのだろうか?


「わかったわ。ゲレイロ。出来ることと出来ないことがあるから、まずはあなたの事情をお聞かせ願える?」


「ははぁ」


といって頭をたれる。


「あ、内容は簡単でいいからね。あと、非公式の場だから、しゃべり方も粗相があっても注意しないから楽にね。簡潔によ?」


早くしゃべるよう矢継ぎ早に付け足した。イオリさんも鬱陶しかったんだな。ただ、大人の余裕があっただけか、ついイライラしてしまった。私も早くレディに成長したい。


「承知しやした。」


そういうと、モグラさんは椅子に座り直し、事の顛末を話し始めた。


「あっしはもともと行商人をしておりまして、こんなんを売り歩いておりやした。」


そういうと、収納バックから商品を取り出しテーブルに置く、それはオリエンタルな雰囲気でありながら豪華絢爛な装飾が施され、細部にこだわったお城のミニチュアだった。


「えぇ、すごーい」

「へぇ」

「あら、可愛いらしいわね。」


気の利いた感想も言えない木梨君は放っておいて、女性陣にはおおむね好感触だ。琴音ちゃんは特に目が爛々している。


「さらに、その前は王宮で装飾の職人をしておりました。その時に趣味で作っていたミニチュアなんです。」


「あら、宮勤めだったの?」


「はい、母国はカタルニアスになります。」


「え?本当に?すごいじゃないあなた」


カタルニアスは確か五大大国の一国で、そこの宮勤めだ。日本でいえば官僚のようなものだろうか。すごいよモグラさん高給取りだ。


「めっそうもございません。ただ手先が器用な盆暗です。」


でも、まぁ仰々しいのは宮仕えだからなのかな?職人肌って感じみたいだし。


「まぁ、そこで、平々凡々仕事をしていたのですが。。ある日、6歳になった第七皇子にこのミニチュアを目をかけて頂き大層喜んでいただきやした。その顔を見たあっしは嬉しくって、嬉しくって、これが生きがいだと悟ったのございやす。」


「それ以来、王の許可を頂き行商人に転職しやして、ミニチュアを子供のおもちゃにと売りあるく日々を過ごしてやした。」


この話、本当にいるのだろうか?不安になる。手短に!手短に!目で呪いを送ってみる。


「たしかに、モールマンが行商人って珍しいわね。」


「はい、そうなんで。あっしは、日々子供に喜んでもらいたくイメージしたミニチュアを【建造】し、それを再現する日々を過ごしてやした。」


あ、よかったつながった?なんでこんなに私は話に集中できないんだろうか?モグラ顔だからかな。


「細かい装飾は精度の高い【建造】が必要で来る日も来る日もつかっていると、とうとう覚えてしまったのです。」


あぁ、迷宮でしょ?多分それ迷宮でしょ?


「そう、モール族に伝わる最高の魔法【迷宮】を取得したのであります。」


ここって「行商用にミニチュアを作り続けたところ迷宮取得しまたー」でもいいのでないだろうか?まぁいいか


「そして、ここからが本題ですがぁ」


ですよね。


「それから、【迷宮】を覚えたはいいものどうしようかと?使い方もわかりやせんし、ダンジョンマスターになる自信もなく困っていやした。そんなある日事件が起きたでやんす。あっし、夜寝るときに寝言を言う癖があって、迷宮の事を考えすぎて、寝ながら詠唱しちまったみたいでやして。」


しょうもない!なんだ、そのしょうもない理由は!!


「あはは、寝ながら詠唱って器用ね?」


笑ってるよイオリさん思いっきり他人事の笑顔ですね。


「そうでやんすよ。むかしから小器用なとこがだけが取柄でしてぇ。」


いや、手先だろ器用なのは?寝言の詠唱は関係ないでしょうよ。はぁ、突っ込みどころが多くて疲れてきた。


「まぁ、なってしまったのなら状況をどうにかせにゃなりやせん。しかし、いざダンジョンマスターになった所で呆然としやした。あっし、ダンジョンってどうすればいいのかさっぱり知らんかったのでやんす。」


「さらに追い打ちで、体一つ頑張ってきたあっしには、いきなり目の前の球が「あなたの命ですよ?」って言われたぁところで不安になっちゃいやして。」


「不安で不安で、寝るにも寝れず、仕方ないので今作れるDMで最強のモンスターを召喚して防衛したでやんす。」


アウト!!それダメ奴だわ。


「そしたらダンジョンの生成に費用は足りないわ。当然DMも稼げないわで大混乱というわけなんすよ。」


「あら、それは大変ね。」


貴族ってこういう感じで庶民と接するのかな。無関心にもほどがあるよイオリさん。


「そうなんす。それで、唯一使えるのモンスターギガンテスはイオリ様の魔法で蒸発してしまいやして、今まさに向かってくる冒険者に成すすべなく頭を下げた次第です。出会ったのがイオリ様でなんと幸運だったか。」


本当に幸運でした。しかも、イオリさんの罪悪感に付け込むいい理由付きで、イオリさん、イオリさん聞いてますか?あなたのせいですって?


後ろから見て急に居なおしたイオリさんが声を大にする。


「わ、わかりました。あなたが、ここでダンジョン運営をうまくできればよいのですね?」


「え?いや、まぁそうでやんすね」


「そうですよね!なんとか、致しましょう!紅焔の魔術師であるこの私が!」


急に興味持ったとおもったら、根拠もなく勢いで安請け合いしてる。あぁ、目も泳いでる。


あぁ、ダメだ介入しよう…

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