第18話 凶悪な罠

「ふわぁ~!」


大きなあくびと、背伸びをして固まった体をほぐす。

イオリさんから借りた寝袋で寝たが、疲れていたせいもあって結構ぐっすり寝てしまった。ぱっとみコテージのような雰囲気も良かったかもしれない。


「おしっ」


おっさんみたいな掛け声で体起こすと、すでに椅子に座っていた琴音ちゃんとばっちり目が合う。


…なにこの気まずさ。


「あははは、もう起きてたの?よく寝れた?」


「はい、ねれました!ふぉ」


欠伸を噛みしめながら返事をする少女を愛おしく思う。恐らく、寝れなかったのだろう。安全地帯と言われても洞窟のような場所だ。急に不安になることもあるだろう。それが普通の神経で、よく見ると木梨君ももう起きているようで寝袋には姿は見えない。ぐすっり寝ているのは私とイオリさんだけだった。


「おはようございあっす」


そう、ふざけた挨拶しながら木梨君が戻ってきた。


「あれ、どこ行ってたの?」


「いや、用足してました。」


男は気楽でいいな。


「あ、もしかして琴音ちゃんも?」


「いえ、さっき木梨さんに見張ってもらって先に」


顔を真っ赤にしてうつむいている。そりょぁ思春期の女の子がトイレ番を年の近いお兄さんに頼むのは恥ずかしかろう。それでも、微妙な表情で机に座ってたか。まぁ、背に腹は代えられぬか。


「私!!」


ど、どうした急に?


「すぐにでも収納を覚えてお風呂とトイレを持ち歩ることに決めました!」


すごくよくわかる決意だ。まぁ、私はバリスタしか持ってこなかったけど。


「ふわぁ、みんな早いわね。。」


琴音ちゃんの声で起きたのか、ダメ中年のような様相でイオリさんも起きてきた。


「おはようございます。いおりさん。もしよかった素材だけ頂ければ、朝ご飯の用意いたしますよ!」


「あぁ、ホント?よろしく」


そういうとポケットから、さらに大き目の麻袋を出して、そのまま寝袋に戻る。なぜか、木梨君が顔を真っ赤にして顔を背けている。


おい小僧?普通のパジャマだからな?薄いし背中ががっつり空いてるけど、ネグリジェとかじゃねぇからな?


発情少年をほっておいて、私は用を足しに通路に出る。小はいいけど大は勇気がいるなぁ。途中でモンスター来たらマジでやばいしね。乙女的に。


イオリさん曰く、セーフティーゾーンの周辺通路も大体安全なんだとか。ただ、絶対ではないのでトイレに出るのもできれば見張り付きが良いとのことでした。


「私も、せめて衝立くらいは持ちあるこうかな。」


部屋に戻ると、すでにいい匂いが充満していた。インスタントだがお味噌汁とベーコンエッグ、さらにパンがあるらしい。ほとんど朝を食さない私には超健康的な朝食だ。匂いにつられたのかイオリさんも、もう起きているようでカーテンを出して中で身支度をしている。木梨君も準備を手伝っている。


何にもしないで朝を食した私は、片づけも手伝うことなく身支度をして出発の準備をした。(だって年下ズが大丈夫です座ってくださいって言うから。。)


「さぁ、じゃいっちょ探索してみましょうか?進み方はゴブリンの巣と同じ感じで、注意してほしいのは罠とかがあるから気を付けてね。一応、【トラップアラート】っていう魔道具があるから大丈夫だと思うけど、はい唯さん渡しておくね。」


あ、私が先頭ですもんね。さっきまであった朝食の妙な罪悪感はなくなった。


「ただ、その装置ね。魔力トラップに反応する魔道具なんだけど手作業での罠。。そうね例えば、手で掘った落とし穴とかは反応しないから気を付けてね。ゆっくりでいいから、慎重に進みましょうね。」


なるほど結構怖いな。


--------

五分後


「だ、大丈夫?唯さん。く、くふふふ」


心配するか笑うかどっちかにしてください。年下ズは相当面白いのか後ろに離れて笑いを堪えている。


そうです。私は、案の定手作り落とし穴に落ちました。DMが足りないダンジョンはモンスターに指示して作ることがあるらしい。


落とし穴のサイズは精々直径二メートルで深さは私の肩の高さ程度である。落ちてすぐモンスターの追撃があれば有効なくらいの深さだが、追撃はなぜかない。さらに、無駄に胸まで泥水(沼のように抜けなくなるようなものではなく、汚い水程度)が入っていて落ち勢いで髪までびっしょりだ。


くさい。これ、単なる嫌がらせだよね。。


よく見ればこのゾーンにあちらこちら掘った後のような形跡がある。慎重に進めば落ちなかっただろう。


まじ、悔しいです!!


--------

五分後


みんなには見張りについてもらい、カーテンセットを出してもらって全身を水洗いした。服も水で軽く洗ってイオリさんに乾かしてもらった。


あれなんで、みんな涙目なの?


気を取り直して私は言った

「お待たせしました。みんな落とし穴に気を付けて進みましょう」


爆笑


よほど穴に落ちた私は滑稽だったのか、ほんとヤバイ穴だったら死んでたんだよ!?

「ごめんごめん。」


「「すみません」」


能面のような顔で静寂を保った私に、みんなが謝りを入れたので先に進むことにする。


-------

さらに、15分進むと。モンスターはコボルトという犬型のゴブリンみたいなやつとスライムが数匹づつ出てきたが、それだけだった。一番の関門は落とし穴地帯のようだ。それは見事に私の心に深い傷跡を残した凶悪な罠だ。ちくしょう。


ただ、さすがにイオリさんも不思議に思ったらしくこう漏らし始めた。


「さすがにモンスターが少ないわね。というか、宝箱もなし、これはホントに新人ダンジョンマスターかもね」


そんなことが、現実味を帯びてきたころ石造りの階段を発見する


「このまま進んで大丈夫ですか?」


「うん問題ないと思うわ。」


そして、階段を下りた先で私たちは衝撃の場面に出くわす。


そう、土下座したモグラがいる。


「ど、どうか命だけはお許しくださいやせ!!」


私たちは事情も分からず顔を見合わせてしまう。


「えーと、あなたモールマンよね?ってことはダンジョンマスター」


「はは、あっしはダンジョンマスターだなんて名乗るにはぁチンケな行商人になりやす。訳あって望む望まず迷宮族になっちまい、ほとほと困り果ててた所に通りかかったはあなた方!あっしのダンジョン唯一無二の最強モンスターギガンテスを一焼きにして、数多の罠を横穴より突破しせりは高名な冒険者様!どうか、この迷宮族の一端ゲレイロに何卒チャンスを頂けますように」


命乞いのつもりなのか外郎売りみたいで面白い。しかもモグラ可愛いよモグラ。


「えぇーと、まず顔上げて話し合いをしましょうか?こちらにあなたの命を奪う意思はありません。」


「ほんとでございますか?!姐さん!」


そいうと、下げた頭を振り上げて私たちに顔向けるモグラ顔、つぶらな瞳が可愛いモグラ顔。


「って、土人~!?」


えぇ、そこから?


とりあえず、私の初ダンジョン攻略は10時間程度(内9時間半休憩)で踏破しました。


なんじゃそりゃ。










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