第39話 VS我妻祐樹

ということで、隣の訓練場に移動し我妻さんと対峙する。


野次馬はほぼフルメンバー。女性陣もお茶でも飲んでればいいものを久しぶりのイベントにやいのやいの言ってる。お前ら絶対暇なだけだろ?


「昂暉さん、俺たちは香川さんと訓練してるけど我妻さん相手に何かできるとは思わないですよ?」


八神さんが、槍の訓練に勤しんでる私の日々から、昂暉さんに模擬戦の停止を何気なく進言する。


「いや、槍だけなら相手にならないよ。問題は収納の方だから。」


「わたし棄権したいです」


やる気満々の我妻さんと、私の実力を広めたい昂暉さんの思惑とは異なりやる気の出ない私。一方的な敗戦なんて誰がやる気出るんだ?。。


「おいおい、本気でやってくれよ。模擬戦の意味ないじゃんか」


「そう言われましても」


我妻さんの真っ当な抗議にも非体育会系の私には響かない。


「わかった!祐樹に一本入れたら金一封!勝ちでもしたら香川さん特別製のアサルトライフルの代金も持つよ」


ふふふ


にやつきが止まらない私


「よっしゃ!やってやんぞ我妻!目にもの見せてやる!!」


私は勢いをつけるためにあえて呼び捨てで敵の名もとい金ずるの名を呼ぶ


「なんて現金な…本当にカネが好きだな。」


好きですよ?


「昂暉さんも段々香川さんの扱いが分かってきたみたいですね。。。」


昂暉さんを煽てる八神さん。


「参考にすると破産するぞ」


「やめときます。。」


やる気が出てきた私は長槍を一本召喚して、いつものスタイルで我妻さんに対峙する。


「祐樹、フォレストウォールは使っておけよ。」


「え?そんな?」


ち!昂暉さんめ…意表突こうと思ってたのに余計な事を…フォレストウォールって体と装備の硬質化だっけ?まぁ、どうせ勝ちは狙ってない一本二本は入れて小銭稼ぎだ。つか金一封の相場決めてなかった。少し不安。


「それじゃ、はじめ」


とりあえず相手の様子を見るとフォレストウォールは使ってるようで緑色に発光している我妻さんは動かず私を見据えてる。まぁ、自分から動く必要はないよね。覚悟を決めた私は長槍突き出し突撃する。


「いけぇ~!」


スキルで補完された私の突進は簡単には避けれないスピードだが、当然我妻さんは右に一歩かわす形で私を見据えながら最小限の動きで避ける。でも、それがトラップだったりする。反撃してくればまだしも回避だけは悪手だ、私の突撃は注意を自分に向けるのが狙いだ。


「がぁ!」


我妻さんが、大きめに呻く。そう帰ってきてすぐに補充した【たんぽぽアタック】だ。事前にたんぽぽで発射した槍を収納に置いておいて攻撃に使う手段を我妻さんの背後で利用した。召喚の効果範囲の関係で近づく必要があったのだが、ちょうど視線が私に向いて注意が逸れたのがより効果的になる。

その結果、背後に召喚した飛槍がゼロ距離で我妻さんの右肩を襲う。普通なら右肩が吹き飛んでてもおかしくない威力なのに半歩前によろめくだけだ。


固すぎる。。


スキルのせいで刺さらなかった槍は回収し、注意を引くために突進した勢いで我妻さんの射程から離れて体制を整える。すると、すごーいなど外野から歓声が上がる。


「これ一本ですか?」


「一本だね。祐樹じゃなきゃ終わってるよ。祐樹、マジで本気出した方がいいぞ。俺のお金のためにも」


「つぅ、結構効いた。巨人の一撃並みだよ。何が起きたんだ?」


八神さんはすぐに察したらしく真剣な面持ちで見ている。外から見れば何したか丸見えだよね。

こっちは種明かしすると若干不利になるから、優位を保ったまま攻めることを選択する。


真正面から投げた長槍が勢いよく我妻さんを狙う。我妻さんは今度は避けずに受けることで事態を解明することを選択し、小盾を構え槍を見据える。

私は投げた槍を我妻さんに当たる直前に収納し姿を隠し、わざと視界に入るギリギリの右方向から再度出現させる。


「こっちか!」


槍の動きを変化するだけでも相当効果的なはずだが、我妻さんは難なく槍に反応し小盾を前に出して槍に近づく。

正しい動きだ。こっちが反応できれば防がれそうなタイミングで何度でも槍の出し入れできるのだから、追いかけなければキリがない。しかし私はわざとその槍をそのまま我妻さんにあて背後からまた【たんぽぽアタック】を発動する。我妻さんが前のめりだったせいもあり、今度は倒れる。


すぐに片膝をついて、まるで効いてないように立ち上がる。化け物ですか?


「なるほどバリスタの槍か?今の受けた飛槍は手投げだったからか大分威力が弱いね。俺が背中で受けてるのは違う種類の攻撃だ。なるほどね、これは厄介だ。」


この人も存外頭がいい、種がばれるのが早い。


「よし決めた!」


そういうと、我妻さんはハルバートを収納袋から出し本気モードで突っ込んでくる。バカなの!?本気出したら私が死んじゃうよ!?


怖すぎるので我妻さんの脛あたりに直径1mの石を召喚する。ちなみに落下途中で収納したので運動エネルギーもある。


「のわ」


当然、ただの岩なのでダメージにはならないが突進の阻害くらいにはなる。その間に射線か外れる様に動いて【たんぽぽアタック】を連打する。


我妻さんはほぼゼロ距離からの攻撃を迎えに行くようにハルバートを当てて私の槍を無効化する。背中を取られないように常に回転しながらで、外から見てると独りで暴れ馬ロデオをやってるようで面白い。


「おら!」


私がとりあえず、【たんぽぽアタック】をしまくってるとじれてハルバートを投げてきた。だから馬鹿なの!?あったたら死ぬってば!!私は持っていた長槍でハルバート受けた瞬間に収納するが勢いを殺しきれず吹き飛ぶ。エルダーグリズリーの攻撃を受けた時よりも手がしびれ体がきしむ。


私の収納スキルでハルバートが無くなったことは、驚愕だったようで我妻さんは驚いた表情だったが、すぐに切り替えて突進してくる。

流石に思うように体が動かないので近寄られたら終わりだ。私は収納にあった残りの槍を私を守る壁のように並べ発射する。


意表を付けないと簡単にかわされ移動の邪魔にもならないが、ここからが勝負だ通り過ぎた槍をもう一度召喚しなおして我妻さんに向ける。キリが無いことを悟った我妻さんは小盾を振り回し槍の勢いを殺していく。

さっきと同じように処理されては堪らない、こっちは残弾制限があるんだ。

今度は我妻さんの足元に手榴弾を召喚する。爆発のタイミングで召喚された手榴弾に対応が遅れバランスを崩し視界が塞がれ3本ほど槍が我妻さんを襲う。流石にダメージはあったはずだが、関係ないと振り切ってこちらへ向かう。


残りの岩と手榴弾を使いうまく時間を稼ぐも、そもそも私が動けないので簡単に接近をゆるす。


「よし」


私との距離が2メートルに近づき勝利を確信したのか表情が少し緩む。しかし、この一瞬を待っていた私は直径2メートルの大きな岩を我妻さんの視線の高さに召喚し、残る力を振り絞り駆け上るようにジャンプする。岩に突進するほど馬鹿な我妻さんではない同じタイミングジャンプして私を追う。


しかし、そこには最後の切り札が既に召喚されてる。収納には召喚の際に止まった時間が動き出すまでコンマ数秒のラグがある。召喚されたものが実態化するまでのラグだ。我妻さんクラスの相手と戦う時にはラグは数で誤魔化すのがいいのだが、一撃必中の場合は虚を突く必要がある。例えば【岩陰で召喚した武器を隠す】なんて作戦が有効だろう。


私は岩の上部に沿うように我妻さんのハルバートを召喚していた。私を吹き飛ばしていたとはいえ威力は十分に残っている。それは私に勝利を引き寄せるほどの火力の可能性がある気がした。


「なぁ!」


我妻さんの虚を突きハルバートは我妻さんに直撃し、今まで見たことも無い勢いで吹き飛ぶ。魔法武器の威力すげぇ。


派手に吹き転んだ吾妻を見て昂暉さんがつぶやく。


「あ、やべぇかな」


立つことも難しく滑り降りた先で岩を背もたれにして、我妻さんが吹き飛ぶ様子を見ようとする。

しかし、段々と意識が朦朧としていた私は何秒そうしていたか分からず、気付いた時には金色に光った我妻さんが目の前にいた。

オーラと言えばいいのか力があふれ出てるのが分かる。振り上げた手が私に向かって振り下ろされるが私は反応することすらできない。そもそも、体も動かない。


その金色の腕を黒い腕がインターセプトする。


「お終いだ!祐樹」


そういうとマッチレスオーラで黒く光った昂暉さんが我妻さんを殴り飛ばすと金色のオーラが霧散して我妻さんが倒れる。


「今のは一体?」


私が振り絞るように疑問を口にする。


「祐樹の切り札だな。戦地で孤立することも多いからある一定のダメージ量を超えるとバーサクモードの【カオスオーダー】っていうスキルを発動して、周囲を攻撃しまくる祐樹の奥の手だよ。」


何ですか、そのやべぇスキルは!!死にますよ!


しかし、冷静に周りを見ると静まり返っている。


「まぁ、模擬戦だからね。周りを見ればどっちが勝ったかは目に見えて分かるね。」


「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」


野次馬(主に男どもに歓声があがる)


「ほんと香川さんはすごいね。我妻さんをバーサクモードにしちゃうんなて、俺は出来たことないよ」


そういって、嬉しくない労いの言葉を八神さんがくれる。


「町田さん!回復お願い!」


昂暉さんがそういうと、すでにこっちに向かって走っていたタイトスカートに赤メガネの教師キャラが際立つ軍団最強ヒーラーが私に声をかける。


「唯ちゃん大丈夫?どこか痛くない?」


「いえ、全身が痛いです。」


私はそういうと意識を手放した。




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