第38話 忘れ去られた過去

行動方針を決める会議はニッチもサッチも進まない。しばらく無言の時間が過ぎる。


「そういや、エモーショナルスキルぁ習熟するつったか?」


櫻井さんがなにか思いついたようで場に話題を提供する。


「実際はどうかしら?私はあんまりないけど、癖のあるスキルだから仕様を覚えるのが大変だったって意味なら習熟してるわね。」


新渡戸さんの答えを受け取りイオリさんも答える。


「私は普通に使い慣れてくと怒りの感情の配分ができるような気がするわ。なんていうか、ひたすらキレて、もっとキレて、たまに普通に使ったりで違いを覚えてく感じ?」


体育会系の感覚すぎて意味が分からない。スパルタだよ。


「要するに、火を出しまくったって事だろ?」


わかるの?


「え?まぁ平たく言えば、そうですね。」


「エモーショナルスキルじゃねぇが、俺もひたすら武器を作ってユニークスキルってこういうもんだって覚えた。とりあえず、そのホワイトルームへのアクセスを試みることが一番近道じゃねぇか?」


ふむ、要するに習うより慣れよの精神ですね。身もふたもない提案だ。


「えぇ、そうね。私もそう思ったんだけど、唯ちゃん自分でゲート出せないんでしょ?」


「はい!ずっと雪山でクマ狩りは絶対嫌です。」


新渡戸さん、にやつきながら言われても雪山だけは嫌です。それだけは、断固拒否!


「環境的にもモンスター的にも危険だから長期滞在はどっちにしても許可できないよ。」


珍しく昂暉さんが擁護する。


「モンスタープールがあればいいですけどねぇ…あ!!忘れてた!!」


私は、戦争にユニークスキルにとてんてこ舞いだったため重要な事を忘れていた。


「どうしたの唯ちゃん何かいい策思いついたの?」


「私のダンジョンに寄ってません!!」


これは決して話を脱線させたわけじゃなく、そもそもモンスタープールはダンジョン用語だ。ダンジョン産のモンスタープールでもゲート効果があるのではという基本的な推測を怠っていただけだ。

この場にいる全員がその事実を忘れていた。特に私、昂暉さん、イオリさんは戦犯だろうか。


「私は覚えてたけど今行っても何もできないじゃない。帰ってからダンジョン組合の帝国支部に問い合わせてからだと思ってたわ。」


「いや、すまん普通に忘れてた。俺も行くつもりだった。」


ダメ団長ですね。(人の事はいえない)


「でも、あそこにモンスタープールがあるんですよ。同じものか分からないですが今は一番可能性があるかも。」


最もらしい提案をしてみる。


「それもそうよね?そうと決まればUターンしてダンジョン探索ね!!」


朝日に照らされた水面のように新渡戸さんの目が急にキラキラし始める。


「新渡戸はダメだ。会議の一部始終を正確に把握してるのはお前だけだろ。すまんが、俺も赤坂で帝国に戻らないと報告があるから今からは寄れないな。」


「はぁ、やっぱり…」


あ、キラキラな水面に浮かぶ死んだ魚の目になった。

恐らくだが覚えていて伝えなかったのは、このタイミングで「ダンジョン!ダンジョン!」言い出したら新渡戸さんは一緒に行けないから黙っていたのだろう。流石に狡猾だが、いざ話題が出てしまえば仕事優先といった感じか。


「祐樹もこっちに来てほしいから、そうだな湧帆とイオリ、ついでに訓練もかねて香川さんのパーティーも一緒ダンジョンに戻ってもらおうかな。」


「ごめん昂暉、私はウォルフに帰国パーティーに呼ばれてるから付き合えないわ。」


ウォルフさんが、昂暉が送り出した先の王族の人か、どんな人か気になるが、一兵卒の私は会うことは無いのだろうな。


「そうなんだ。…まぁ交渉って香川さんだけでもいいのかな?」


いや、全然よくないだろ。湧帆さんはなんも知りませんって顔してるよ?というか、全然暇じゃないじゃん?この人たち社交を何だと思ってるんだろう?


「じゃぁ、俺が付いてくよ。俺は戻ってもやることないしな。」


「ほんとか?じゃ八神、すまんが頼のまれてくれ。」


「方針だけ決めてくれたら、後は現場で監視するよ。香川さんが暴走しないように…」


八神さんが保護者としてついてくオーラを出してるのを無視して一つの思い付きを昂暉さんにぶつける。


「では早速、昂暉さん!私一つお願いがあるんですが?」


「なに?」


私のキラキラフェイスに嫌の予感がしたようで警戒した何?だった。


「そんな嫌な顔しなくても貸してほしいだけですから!」


「はぁ、なにを?」


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そして、私、昂暉さん、我妻さん、八神さん、櫻井さんのメンバーで櫻井工房に移動する。他のメンバーは各自やることがあるらしいので解散した。あれ?湧帆さん付いてきてくれるんですよね?


「まず、ここには無いんですがスターゲイザーと車もありましたよね?両方かしてください。」


「いや、スターゲイザーは足に貸し出すつもりだったから構わないけど、車は?」


「保険ですね」


「保険ねぇ。まぁ、収納できるから一応持ってくか?って事」


「ご名答。」


本当は、行きはスターゲイザーだが、帰りは車の方が本命になると思っている。


「というか運転って出来るの?」


「いえ、できませんが。免許もありません…あれ!?もしかして私も運転していい感じですか?異世界的に?」


「いや、やめてくれ。八神頼む」


「了解…そのつもりでしたし。」


ふむ、運転はしてみたいがいいか、アッシーゲットですね。


すると工房に隣接されてる訓練場から野次馬男性陣がのぞいてる。


「あ、木梨君と琴音ちゃんもこっちおいで~遠征の話するから!」


訓練メンバーに交じってた年下ズを呼び寄せる。呼んだ意味はないんだけど、目についたから一応声をかけた。念のため昂暉さんにも確認を取る。


「勝手に呼んだけど大丈夫ですよね?」


「問題ないよ。」


「それで、櫻井さん私の武器ってどの程度できてますか?」


「あ?そういうことか。。バリスタは出来てる大型はもともと問題ないが弾つか錨か?それは2本しか用意してねぇ。しかも作るのに長谷部のスキル借りるから渡すの一本だな。」


長谷部って誰でしたっけ?生成系のもう一人だったかしら?


「まぁ、【ひまわり】は今回はお留守番ですかね」


「あと、魔法槍だが出発は明日か?防具も含めて今日中に仕上がる。」


流石は、櫻井さん素晴らしい御方です!


「あれ、早くないですか?俺のハルバートの修理もまだなのに」


目ざとい我妻さんが順番を気にする。


「金がすぐには集まらないだろうと思って、軽はずみに優先的に作る約束しちまってな。わりぃが祐樹は少し待っててくれ。」


「なんか、みんなが香川さんのペースにはまってる気がするよ。」


そうでしょうか?


「了解です!それじゃ、他には細かいもの諸々も用意してもらって」


「あ!思い出したアサルトだ。」


どきん


私も【あじさい】忘れてた。


「アサルトってライフルですか?」


「そうそう、香川さん支給品がめてるでしょ?」


「え?そうなの?どおりで矢倉の在庫が少ないと思ったよ。」


我妻さんがまめな事を言う。くそ、異世界なのに日本人みたいにこまごましやがって…


私は、観念してネズミの仮面をかぶり膝をつきその場に正座する。


「あれ、何やってるんですか?」


悪いタイミングで木梨君と琴音ちゃんが合流する。くそ、読んだのは私ですが。。大人の潔さを解くとみるがいいよ。


「あぁ、取り調べかな?」


「俺にゃ、お奉行ごっこが始まるように見えるわ」


櫻井さんの的確な突っ込みに合わせて口上を始める


「ワタシぁ!怪盗ねずみ小僧も捕まってしまっちゃしょうがない。こちとら、プライド高き盗人よ。効かれたことには嘘偽りなく話してごらんいれやしょう。」


「いや、そういうのいいから物を出して」


昂暉さんが、ノリの悪いことを言うので、あきらめて頭を下げると同時に盗品を私の背後にずらっと召喚する。


「多いな!!」


八神さんがさすがにおののく。


「やっぱり、おかしいと思ったんだよ格納庫なんかにいたから、思い耽って矢倉を眺めるタイプじゃないでしょ。」


昂暉さんがこういう時だけ鋭いことを言う。正解です。無言で頭を下げる。


「でもまぁ支給品だ。嬢ちゃんにも持つ権利はあるわな」


櫻井おじさま!!


「いや、櫻井さんでもこれ三割くらいは持っててるよ流石に限度ってものが…」


我妻さんの鋭い指摘に思う。あれ?2割のつもりだったけど、数え間違いしちゃった♪


「ふぅ」


裁判長・中田昂暉がため息をつく


「問題あるか昂暉?」


櫻井さんが昂暉さんに判決を促す。


「いや、ありません。」


「そりゃそうだな。」


あれ?意外な話の進行に思わず顔を上げる。ねずみの仮面かぶってるけど…そのほかに我妻さんと八神さんは驚いた顔して年下ズ「なんで呼ばれたの?」的な顔をしてる。ごめんなさい


「もともと長槍などの支給は考えてたから大丈夫。それにエルダーグリズリーを単騎でねじ伏せたんだ。正直、燃費は悪いけど、装備を揃えればすでに戦闘力なら八神、三留、東に続く強さだよ。」


「そんなにかよ?」


祐樹さんが懐疑的に質問する。


「俺はエルダーグリズリーとの戦いを直で見たからね。祐樹は一回模擬戦闘をやってみるといいよ。戦闘の方法が俺の理解通りなら簡単じゃないよ。」


「まじで?」


「正直、うちの隊に余剰戦力なんて無いんだ。戦えるなら香川さんには率先して戦闘参加をお願いしたい。そのための出費ならしばらくは隊の方で持ってもいいよ。もちろん、消耗品だけだけどね。ただ、アサルトライフルの弾すごい高価で長谷部のコピーで作らざる負えないんだ。あっちゃんの量産スキルだとクオリティが足らなくて魔導弾にならないから数万発単位で必要なのに一日数百しか作れない現状で簡単には支給できない。」


あじさいの価値の高さに驚愕しつつ、少し球を残しておけばよかったと後悔する。


「ただ、銃スキルは持ってるの?」


「あ、実はエルダーグリズリー打ってる最中にゲットしました。」


「まじかよ?」


我妻さんが驚愕してる。意外と取得が難しいのかも知れない。


「よし決めた。球数に制限をかけるけど月千発は支給する。その代わりキリキリ働いてくれ!」


意外な事に太っ腹発言で幕を閉じる。正直、これだけ期待されると逆に嫌な感じである。年下ズがよく分からないなり「香川さんすげー」とか「流石、おねぇ様」とか言ってる。琴音ちゃん裏で私の事おねぇ様扱いしてるの?


「よし、決めた。」


我妻さんが私の前に立つ。桜吹雪の入れ墨が入った方でも見せてくれるのかと思ったが予想よりも悪い内容。


「俺と一本やろう!それで俺の意見は決めるよ。」


いや最悪の方法ですよ、それ。


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