第37話 エモーショナルスキルって中二病?
翌朝、予定通り首脳陣が集まり今後の方針を決めることになったので、いつもの昂暉トレーニングルームになぜか私も集合して話し合いが行われている。
まずは戦争の件に関して退屈な申し送り事項を再確認している。主に湧帆さんに向けての報告だろうが当の本人はどこ吹く風で、体の調子が気になるらしくクマの手をぶんぶん振り回してあまり真剣に聞いてるようには見えない。
「とまぁ、今回の戦争のあらましだ。大丈夫そうか湧帆?」
「大丈夫!分からなければ聞くよ!」
無責任だが単独で政治判断するような場面は少ないのかな?越境担当みたいだし。昂暉さんも特に咎めることなく話を進める。
「それじゃ、本題に入ろうか新渡戸から先にやった状況検証は聞いてる。香川さん、今度から皆の前でよろしくね。」
逆に私が咎められる。
「はい、すみませんでした。」
ホントは話すつもりなかったけど新渡戸さんと話してたら、かなり深堀りした考察が出来ちゃって、困った、困った。
「まぁ、いいや考察や状況の整理も必要だけど、まず行動方針を決める。しばらくは香川さんのスキル解析をベースに軍の行動方針を決めよう。」
「問題ないというか、それしかないわね。」
新渡戸さんが補足を入れるが、実際の所は戦争もひと段落したことだしやる事がないと昨日言っていた。
「で、香川さん便りになるけど実際問題どうすればいいと思う?」
丸投げ!!まぁ、私が決めるしかないよね。私しか分からないんだし…
「えぇっと、根本的な質問なんですがユニークスキルってレベルがあるんですか?」
「ないわね。スポーツ程度の習熟は見込めるみたいだけどレベルって概念はないわ。要するにユニークスキルは完結していてコモンスキルのように能力の拡張は行われないの。
ただ、エモーショナルスキルに関しては特別。指定された感情の吐露具合によって能力の強さが変わるからね。能力拡張の上限が分からないほど能力が上がっていくわ。」
ふむ、話だけ聞くとチートに聞こえるが、私はユニークスキルの使用すら簡単にできません。。
「ふむ、てことは【希望】を強くする訓練が必要なわけですか?」
「唯ちゃんには非現実的な訓練じゃない?」
「そりゃまぁ」
誰だってそうではないのか?
私の高校時代は演劇部に所属し、それなりに大きい部活動だったためOBの演出家の方に稽古を付けてもらっていた。
その中でも、感情開放なる訓練があり、【喜び!うれしい~!!怒り!うお~~!!悲しみ!うわーん!!】みたいなことを結構本気でやったりして、死ぬほど恥ずかしい思いをしたが役を獲得するためにそりゃ必死にやったつもりだ。おかげで、三年の時にはセリフの多いお姫様の護衛役に抜擢されたのだ。体が大きいからじゃないよね?
まぁ、そんな経緯から感情表現すること自体は苦手ではないはず。しかし、「希望をもって!」と字面でいわれても中々厳しいものがある。「将来の夢?(ヾノ・∀・`)ナイナイ!」で有名な香川唯が、「ワタシ、アイドルになりたいのぉ!」なんて夢を語りだしたら巷じゃ大事件だ。
「そもそも、希望ってなんですか?」
希望って何だろうか?ネットのない現状では【夢】や【願い】しか思いつく単語も無い。
「哲学的な質問だが、むしろ俺が聞きたいくらいだよ」
なぜか若干の悲壮感を込めて昂暉さんが答える。
「そうねぇ、希望の定義はともかく似てる言葉をだせば、夢、願望、念願、志望、要望、見込、光明、羨望・・」
よくまぁ、スラスラと出てくるな。新渡戸さんがそれこそ類義語辞典を朗読してるかのように単語を読み上げる。
「あ、欲望ってどう?」
「欲望ですか?欲望って希望と同じでしょうか?」
「あら、望むって書くじゃない」
「私なんて欲望の塊じゃないですか?睡眠欲、食欲、物欲、金銭欲…一通り兼ね揃えておりますが」
「「ははははは」」
イオリさん、笑うとこじゃないですよ?涙出てますよ?櫻井さん顔が下向いてますよ?カッコいいんですから凛々しく正面向いてください。
「なんか、【一人、七つの大罪】みたいな奴だな。」
「あら昂暉、良い所突くわね?リアルにそれじゃない?」
なんか、人を悪の権化みたいに言いやがって、私は不貞腐れ気味に答える。
「七つの大罪のように欲にまみれろと?」
「反対よ。唯ちゃんはホント変な子ね。いわゆる自己欲求を除く願いを叶える時のみ発動するんじゃない?誰かのために的な」
「うわぁ、私の価値感から一番遠い概念ですね。」
「それもどうかと思うけど…あっちゃんに預けて聖女様としての育成でもしてもらうか?」
「いや、無理無理、希望って誰かの期待答える希望の象徴って事ですか?いやぁ、ちょっと私には無理です。」
「私は良いわよ」
あっちゃんがウィンクしてくる。
「お許しください」
私は平謝りをする。あっちゃんはこの世界に来たときにパルノガス神国で保護をされ聖職者として訓練を1年ほど受けていた経緯が有ることは聞いていた。神官なんて柄じゃない、目の前の食事を分け与えるなんて…どちらかと言えば相手を踏みつけてでも自分で食べるタイプだ。パンが無いなら菓子でも食ってろ!
「聖女の話はともかく、エモーショナルスキルって少しコンプレックスというか本人のネガティブに関連する傾向はあると思うのよ。私も自分を入れて3人しか知らないけど、皆そうね。」
「私、新渡戸さんのスキルは知ってますがイオリさんのスキルはよく知らないんですが、どんなスキルなんですか?」
「私!?えぇーっとぉ。」
急に話を振られたイオリさんが挙動不審な行動をする。
「そういえば、あなた最近ユニークスキルの話したがらないわね?」
「だって、なんか年を重ねて冷静に考えると中2病みたいで超恥ずかしいのよ!!」
一体なんだろう、今聞かないと一生聞けない気がする。すると、昂暉さんが爛々とした目で答える。
「中二病だって、いいじゃないかイオリ!さぁ、手から炎を出しながらあの時のセリフを言うんだ。【あなたへの恨みが私を強くする】って最高のセリフじゃないか?」
どん
おぉ、ギャグパートか?昂暉さんが吹っ飛んでく。あ!鉄アレイに頭ぶつけた?痛そう…私はその光景を見届け無視を決める。
「でもイオリさん、私のスキル検証のためなので簡単にでもいいのでお聞かせくださいませんか?」
「うぅ、、わかったわ。」
この人は、女性からのお願いに弱い。ひたすらに弱い。三匹の子豚の藁の家すら壊せない狼くらいの弱さだ。
「私のスキルの名前はジ・フレイム オブ ヘイタード(怨嗟の炎)怒りや恨みが強くなればなるほど、火力を上げることが出来るの。」
おぅ、スキルがジから始まるの初めて見た。
「それで私の場合は、最初からスキルが強く発動しすぎて、火力上昇に歯止めができなくて…真っ先に、火の操作系スキルをマスターしたの。その代償に水魔法とかが使えないんだけどね。」
あ、だから水が出る球を持ってたんだ。私とは違い抑えることが出来ない力だったのか。制御ができないって意味では一緒かもしれない。
「何にそんなに怒ってたんですか?」
「えぇっとぉ。グランフロントそのものかしら…」
イオリさんだけではなく、場全体が暗くなるのを感じた。イオリさんはこの世界に来たのが心底嫌だったのだろう。その反動で得た力を使うのもより嫌だったのかもしれない。
「本人の口からは言いずらいと思うけど、俺ら最初にこの世界に来たときは皆もっと殺伐としていたんだ。生きることに必死だったし、全てを恨んでた。イオリはそんな転移者の代弁者としてずっと先頭に立ってきたんだ。」
いつの間にか、戻って着席した昂暉さんが二枚目顔で何か言ってるが、さっきの鉄アレイが脳裏に横切ってあんまり頭に入ってこない。
「そんな、先頭だなんて・・」
「今も、まだ恨んでるんですか?」
「恨んでるわよ。…でもグランフロントにではないかも、この世界の人たちも私達と同じ人間よ。必死に生きてるだけだもの…」
「じゃ、なんでスキルを使い続けられるのでしょうか?」
「憤ることなんて色々あるじゃない?」
そうだろうか?少なくても私は平原をマグマに変えたいと思ったことはない。
「まぁ、イオリの場合は女性特有のイラつきに起因してるから、あんまり参考にならないわよ。」
場が重くなって雰囲気を察して、綾香さんが冗談を言った。最近気づいたが意外な事に一番場の空気を読むのは新渡戸さんだ。読まないのはイオリさん。
「なぁ!人をヒステリックみたいに言わないでよ!綾香はどうなのよ。」
「私は知りたいだけ。知らないことがコンプレックスで知りたいだけ。」
余計、意味が分からなくなってきたよ。
「でもそう考えるとね。私は傲慢なの全てを知りたいなんて普通ありえる?そんなの無理よ。私だって理解はしてるんだけどね。分からないことが嫌なの。…まぁイオリは怒りねシンプルだけど、もう一人は天人だけど多分嫉妬の感情のキーワードなの。そう考えるとネガティブな感情に起因しているでしょ。」
「えぇ?エモーショナルスキルって私達だけの物じゃないんですか?」
いつもの脱線。この人たち新情報を適当にぶっこんで来るから困る。
「えぇ、ユニークスキルとして顕現するんじゃないの、エモーショナルスキルって天人の一部の人が高みに到達したときに得ることが出来るスキルみたい。それを、私達は転移された瞬間から所持してる。まぁ、ずるいわよね。」
それは意外だ。って事は天人がこの世界のトップの種族であるのも少し納得がいく。イオリさんを見てるだけでもエモーショナルスキルなんてヤバイもの。
「話を戻すが、要するにエモーショナルスキルが七つの大罪を元にした感情スキルだって言いたいのか?」
「さぁ?その可能性もあるけど唯ちゃんは逆な気がする。感情がポジティブだもの」
「どういうことですか?」
ネガティブな感情が起因してるんじゃなかったのか?
「グランフロントでの生活は楽しい?」
そう言われて一瞬迷った。恐らく以前にこの世界の自然が気持ちいいって話をしたときに「グランフロントが好きなのね」と言われたことがあった。今思えば、この人たちは元の世界に帰りたいし、この世界を憎んでるのかもしれない。だが、あえて自分の気持ちを素直に伝えることにする。
「…はい、日本にいるよりは、私は自由ですね。」
「ふふ、ポジティブでしょ?」
意味深に新渡戸さんが笑いかけてくるんがさっぱり分からない。ポジティブとかネガティブとか関係あるのか、ないのか…思考の迷路に入り込むと場をぶった切るように昂暉さんが答える。
「うーん、それじゃ実際どうすればいいかはさっぱり分からないな。」
「あんた、ホント無神経ね!」
合理的に話を進めようとする昂暉さんに向かって、なぜか綾香さんが怒鳴る。当の本人の私もよく分からないがあっちゃんが頷いてるので一緒に頷いておく。
「いや、すまん。よく分からんけど」
確かに
「はぁ、まぁいいわ。ともかく感情の制御なんてできないし、当面は誰かのためにスキルを使おうと考えてみればいいじゃない?エモーショナルスキルって段階的だから誰かのためって思えば発動位はするんじゃない?」
うぅ。。難しい。そうしかめっ面で考え込んでいると昂暉さんから別の方向からアプローチがある。
「そういえば、香川さんって【伝心】スキルって使えたっけ?」
【伝心】スキルとはスキル持ち同志で許可を得ると連絡が可能になるスキルでレベルによって出来ることも変わってくる。確か、lv1だとポケベル的な文字のやり取りだけですごい不便だが伝令などには必須なので貴重なスキルだと聞いたことがある。
まぁ、誰かと連絡を取りたいなんて社会に出たら思ない。催促の電話にうなされる毎日を思い出し若干吐き気がするのを我慢して答える。
「いえ、使おうと思ったことも無いです。」
「じゃ、元帥命令で伝心スキルを使って綾香とやり取りをしてみて」
なるほど、誰かのためなら命令でもいいの?ってことね。便利に扱われる気はないが検証としては必要だろう。
「団長命令ですね。分かりました。」
「いや、元帥…」
「わかりましたよ。団長」
閻魔様の前で地獄行きを宣告されたゾンビ見たな顔した昂暉さんを無視して、私は適当に綾香さんにメッセージを送ろうと念じる。
「あ、スキル覚えた。」
体中からじわじわきます。
「うそでしょ?こんな簡単に覚えるスキルじゃないのに」
「へぇ、うらやましい。。」
イオリさんが普通に感嘆のため息をつく。
「いや、すごいね。何となく時空魔法系だと思ってたけど、なんてメッセージ来たの?」
「【昂暉団長のパワハラに耐えられません】だって」
「ひどくない?」
私はこうして伝心スキルをゲットした。
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