第36話 ホワイトルームとクマさん

「多分、それは新渡戸さんが持ってきてくれた情報と関連してると考えています」


私はそう告げて新渡戸さんの足元には無造作に置かれたファイルに目を向ける。


石神さんのスキルが魔力酔いに発動しないことに何か思いついたのか部屋を出ていった新渡戸さんが医務室に戻ってるって事は何か話に収穫があったのだと思う。資料の中には恐らく軍のスキル情報が入ってるのだろう。

そんな事を考えていると、私の指示に新渡戸さんは湧帆さんにそのファイルを渡す。


「この資料は、スキルの訓練報告書?」


「そうよ。私としたことが今まで重要な事を見落としてたの。それはスキルの効果無しと非発動の違いよ。」


「非発動?」


「そう、湧帆のユニークスキル、【リキッドコントロール(液体操作)】って物体にかけるとどうなるの」


「え?石とかにってことですか?スキルがかかっても、無反応ですね。」


「それって、発動したけど効果が無いって事よね?」


「えぇ?たぶん?」


まぁ、意味が分からないよね。両方を体験してないと難しいし、発動しないは条件的にほとんど無いみたいだしなぁ。


「湧帆の寝てるときの話だけど石神さんって魔力酔いがうまく診断できないって言ってたの。」


「あぁ、そうだったっけ?」


「そうなの魔力酔いの時は【ディープタッチ】が発動しないの。」


湧帆さんは、うんうん頷くのが精いっぱいのようだ。


「ちなみに、私の【ストレートアンサー】で日本への帰還を質問しても発動しない。湧帆の思考を読もうとすると発動するけど不明って返ってくるのに。」


新渡戸さんのスキルの説明の方がピンときたようで湧帆さんの顔が明るくなる。


「なるほど!発動しないってそいう事か。例えば禁忌に触れてるとかそんな感じ?」


「禁忌ね。良い言い回しだわ。でも、禁忌かどうかは分からないけどスキルの効果が及ばない不可侵領域があるって事は確かね。」


ふむふむ。一応伝わったけど、日本を調べるのがいけないのか、スキルで日本を調べることが出来ないのかが分からないですもんね。禁忌だからって思いこむと視野がせまくなるし、なんか昔の宗教みたいね。


「今の話で少しピンときました。さっきの話で重要なことが漏れてました。」


「なに?」


「厳密にいえば僕はモンスタープールに触れたのは剣です。剣先で切るように触れたんです。特に意味はありませんが検証程度のつもりだったと思います。」


「その時にスキルを?」


「はい、僕は攻撃するときは必ずユニークスキルをセットで使います。表面に出た血液を抜くために。」


うぇ、急にグロい話を挟んだな。


「だから、無意識にモンスタープールを切ったときに使ったと思います。今思えば、確かにユニークスキルは発動しなかったように思います。」


「どう思う唯ちゃん?」


「新渡戸さんと同じ考えかは分からないですが、魔力もプログラムだと考えればホワイトルームから供給されてるものですよね?それ以外考えづらいし、魔物もそうみたいですから。なので魔力酔いは使い過ぎによるホワイトルームとの接続断絶とかどうでしょうか?」


私はもともと用意していた答えをさも今考えたかのように切り出す。


「十分な仮説ね。魔力の通ってないものにスキルは発動しない。」


「日本に魔力はありませんしね。恐らくですけど、グランフロントにあるもので魔力を帯びて無いものなんて厳密には無いのではないでしょうか?」


「そもそも、魔力って奴が曖昧よね。魔力=プログラムコードって考えると説明がつくのかしら。グランフロントがVRゲームならそれだけの事よね?筋は通るわ。」


もう前提がゲームになってしまったが、もうこの際その方向で考えよう。


「そうですね。でもユニークスキルは作られたものじゃない気がしますが、ランダム性というか考え無しというか。」


「コモンスキルとユニークスキルはそもそも性質が違うわね確かに。」


「グランフロントに対して影響力が強すぎますよね。2000人VS40人の戦争が成立するんです、VRゲームだとしたらバランスブレイカーもいいとこです。クレーム殺到ですよ。しかも、転移者にしか与えられていないのも不可思議ですね」


そうゲームみたいに使ったシステムならユニークスキルは異常だし、所持者同士でも格差ができる。もっと言えば才能っていうのが良くない、例えば携帯ゲームなら金を積めば強くなるが、ユニークスキルは後天的な取得が無い。だから、私が一生頑張っても今のイオリさんには届かないのだろう。


「そうね、神様の親切にしては顕現しない人すらいるしね。乱数だって言われた方が、まだしっくりくるわ。」


「乱数かぁ、僕の勝手なイメージですけどユニークスキルは人の個性に合ってるなぁって思うけど」


結構、その個性ってのも適当だと思っている。


「液体操作がですか?」


「こっちに来た時に、絵の具で色を作るのにはまってたんだ。当時6歳だったしね。」


かわいい!!!

いや、いや六歳!?さすがヤバいなぁ。というかこれだけでも拉致監禁はないな、流石にすぐばれるだろ。


「でも、バーナム効果っていうには少し関連性は強いわよね。」


「まぁ、ユニークスキルの成り立ちはこの際置いておきましょう。考えてもわかりませんし、重要なの神様が管理しきれてないスキルって事です。

その、ランダム性がゲートに干渉を許可したんじゃないかなって」


「要するに、ホワイトルームに対して直接ユニークスキルを利用したせいで転送されたって事?」


「多分ですが、転送バグが起こった感じではないでしょうか?」


「管理しきれてないプログラムだから、不測のエラーが起きるか」


「そうですね。まぁ仮説ですが。」


私、最近推論と仮説って言葉をよく使う気がする。こんなに頭使ったの初めてかもしれない。。。


「いえ、面白い考えだわ。念のため発動しなかった例も整理してみる。みんなごっちゃに考えてるから資料から各自に当たってみるわ。」


「よろしくお願いします。」


本当に新渡戸さんのバイタリティはすごい。こんな分厚いファイルを見直すのも嫌だわ。


「じゃ、僕の右腕はそのエラーの影響で動かなくなった。」


「はい、正確に言えばホワイトルームとの接続が切れたんじゃないかと」


「だから、魔法効かないというか発動しないってことか。そっかぁ残念だな。世界一の剣士を目指してたのに。」


やばい、何でも可愛く感じる!

プロ野球選手を目指す少年のような事を言う湧帆さんにときめきながらも、自分の推測をひとつ先に進める。

恐らくだが、魔力の接続が本当に切れてるだけなら繋げれば良いはず。


「あ、そういえば試してみたいことがあるんですがいいですか?」


「なに?」


「今考えを整理していて思いついたんですが、もし本当に右手がホワイトルームとの切断を意味してるなら私の能力で何とか出来るかなって。」


「唯ちゃんのユニークスキルで再接続するって事?」


「はい、さっきもやってみたんですがユニークスキルが発動してなかったんで、もう一度頑張ってみます。」


「希望って、なんか唯ちゃんのイメージから少し遠いわよね。」


うるさいよ。自覚症状ありますから!結構しんどいんですよ?本当に宗教従事者や聖女様を尊敬します。でもお祈りとは違うかな?


「はは、このスキルはホントに全然発動しないんですよ。まぁ死にはしません!多分だけど…」


「大丈夫かな。。少し不安になってきたよ僕」


そう言って、目をつぶる湧帆君が可愛いので、きゅんとした気持ちをそのまま【右手が治ってほしい】願いにぶつける。

【ホープフルスペース】が発動したのを感じ安堵し湧帆さんとホワイトルームのつながりを探ってみる。やはり右手が異常で無反応なことで、他の部分との違いが際立つ。

よく観察すると、右手から一本の線のような光の糸が中空に繋がっている。その先にある何かを呼び込む。


すると、湧帆さんの右手にゲートと同じ光が発する。


「ちょっちょっと本当に大丈夫なの?」


新渡戸さんが慌てて不安を口にするが、私はスキルに集中して言葉を発することが出来ない。湧帆さんも何か感じているのか無反応だ。

すると、数秒後に光が収まる。


「ナニコレ?」


新渡戸さんの片言のような変な言い回しに意識を取り戻し右手を見てみる。


うん。ふさふさ



「って、えええ!!なにこれ!?」


私の叫び声で半分意識を失っていた湧帆さんが覚醒し、発した第一声。


「あれぇ、動くなぁ。」


私の目の前にある右手は熊の手だ。青白い毛がふさふさとしたエルダーグリズリーの手がぐーぱーぐーぱと動きを確かめる。

自分がやった所業なのにあまりの光景に尋ねてしまう。


「えぇっと、なんですかそれ。」


「いやぁ、僕が聞きたいよ。あははは。」


そりゃそうだ、笑ってるのがせめてもの救い。


「普通に気持ち悪いわ。」


「綾香さん、さすがにひどいよ。。」


でも、私も少し引いてる。

ただ、状況を作り出した本人としては知らぬ存ぜぬは貫き通せないので自分の考えを述べる。


「ごめんなさい忘れたんだけど。ホワイトルームで、一応湧帆さんが生きてるように祈ったんです。そしたら、近くのクマさんと合体して光りだして生命力補給だと思ったんですが…」


よく考えらたら関係ないわけないな。


「より気持ち悪いわね」


湧帆さんがどんよりしてる。。。可哀そうなのが、また可愛い。


「要するに、人の手がだめだからとりあえず近くのクマ使って右手を修復したって事?」


新渡戸さんの残酷な一言に私はシンプルに弁明する


「本当に意図はしてません!ごめんなさい」


「あはははは!まぁ大丈夫だよ!意外と快適に動くし元の腕より力ありそう。」


まぁ、クマの手だもんね。


「あなた、すごいわね。よくクマの手になって笑ってられるわね。」


「いやいや、本当に大丈夫!結構気に入っちゃった。しかも見て!」


そういうとクマの腕がさっきよりも、ずっと抑えられた発光で人の手に戻ると


どさん


と力なくベットに落ちる。恐らく人の手は形態としては存在してるけど動かないのだろう。


「ほら戻る。部分変化のスキルを得たよ!多分レオンと同じ奴。」


「うわ、とうとう湧帆も化け物ね。」


失礼発言を続ける新渡戸さんだが表情は明るい、どんな形であれ湧帆さんの手が動いたことが嬉しいようだ。

この人も存外素直じゃない。


「やっぱり人の手は動かなそうですか?」


「うん、でも魔力が通えばいいって事は体内の魔力操作で治るかもしれないよね?クマの手あるから基本的には困らなそうだし何とかしてみるよ。」


そう超前向き発言をすると、クマの手に戻した湧帆さんはワキワキしながら感触を確かめる。


「私も、スキルの習熟を急ぎますね。何か解決するかもしれませんし。」


「ありがとう!」


そういつもの子犬スマイルで熊の手を挙げる。

ふむ、湧帆さんならクマの手でも様になるな、これは【子犬熊人間】という新しい種の誕生だろう。


とんとん


不意に入り口からノックの音がする。


「はい?」


「湧帆ー?起きてる?」


湧帆さんがノックに反応すると、返ってきた声はイオリさんだろう。


ガチャリと恐る恐る開くドアからイオリさんの顔がのぞく


「湧帆、大丈夫?って抜け駆け!?」


デジャブ。








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