第40話 グローデン再び

今、私達は予定通りのメンバーでスターゲイザーでダンジョンに向かって航行している。


昨日我妻さんとの激戦の末に気絶した私は翌朝まで眠りこけて、起きてみたら出発前で慌てて用意させられた。誰か起こしてよ。


そんな慌ただしい中に我妻さんが訪ねてきてた。準備中なのに!ノーメイクなのに!


そこで、ひどく怪我をさせてしまったこと、本気を出さないとヤバかったことに触れて謝罪された。

また我妻さん曰く、模擬戦でバーサクモードまで行ったら自分的には負けらしくライフルの代金は我妻さんが持つとのことだった。もらえるなら誰からでもいいや。あと、有効打は昂暉さん曰く6発とのことで金貨6枚を渡された。これは昂暉さんかららしい。

うそでしょ?もっと当たってたよね…命がけで金貨6枚…


しかし、金貨6枚の価値が分からないことに気づいて、そっと収納した。


「はぁ」


「どうしたの?祐樹さんにタイマンで勝ったのに不満そうだね。」


湧帆さんは自分も「付いて行けば良かった」っとさっきから不満をこぼしている。相当、模擬戦を見たかったみたいで、この話題しか振ってこない。さすがに、煩わしい。


「なんか、傷は治してもらっても瀕死になった精神的負担がすごいんですよ。」


「唯さんほんとにかっこよかったです。」


「ありがとう!」


琴音ちゃんの言葉に癒される。


「それにしても、祐樹さんのハルバートを受けるってすごいね。僕でもできないよ。」


「湧帆に無理なら誰も出来ないな。俺なんて香川さんがハルバートを受けそうになった瞬間に助けに行きそうになったし。」


あら、八神さんが嬉しいこと言ってくださる。


「まぁ正直、あんなに余韻でダメージ受けるとは思わなかったです。まともに受けたら死んでたんじゃないですか?我妻さん馬鹿なんですかね?」


「そこは死なない程度には調整してたと思うけど町田さんもいたし。」


「でも、私が収納でハルバートのお返ししたら、我妻さんが吹き飛んでるの見て私だったら木端微塵なんじゃないかって思いましたよ。」


「確かになぁ」


八神さんは遠い目をしているが、湧帆さんは訳を知っているのでニコニコしている。


まぁ、私も真実は知っている。さっき我妻さんの謝罪の中で、当たる瞬間に魔力分は威力を霧散化させる事が出来るらしく、物理ダメージだけで致命傷にはならないようにするつもりだったらしいが、私が制御を奪ったのでダメージが思ったよりも入ってしまい焦ったらしい。


もちろん、昂暉さんも知っていたので模擬戦最中は特に何も言ってなかったようだが。


むしろカオスオーダーは昂暉さんにしか止められないらしく【スキル制約】という特別な方法でマッチレスオーラ(比類なき魔闘術)に触れると【気絶する】制約を設定して、弱点を作ることでより強力にしているらしい。もちろん、暴走技なので保険に昂暉さんに止めてもらうための処置でもあるらしいが、これは一発でも殴られれば私は即死だったそうだ。それが謝罪の最大の理由だ。


私に負けるとは一ミリも思ってなかったようだが、私も良いところまで行くとは一ミリも思ってなかった。


ただ今回の模擬戦での収穫も多い、攻撃的には数、バリエーションが必要なのもわかったが、何より防御手段の向上が優先だ。

収納の仕様上、【所持者判定】が必要になってくる。遠距離で収納する場合は自分の持ち物でなくてはならない。


例えば、我妻さんが投げたハルバートを飛んでる最中に収納することは出来ない。なぜなら我妻さんが投げた運動エネルギーがあるので【我妻さんの物】判定されるようだ。しかし、私に当たった瞬間、ハルバートは私の【止める反作用のエネルギー】も内包し【私の物】判定されることが分かっている。


【所持者判定】は色々検証が必要でまだわかっていないが、遠距離系の攻撃に関しては一度受ける必要があることは間違いない。

今後も相手の武器や攻撃を収納で抑えていくことを考えると、どうしてもマジックシールドと新しく作った魔法盾の習得は必須になる。


「さぁ、この辺でいいのかな?」


「あ、間違いないとお思います!あの背の高い三本杉の根本らへんなんで!」


道案内を買ってでた木梨君が八神さんの運転をサポートする。それにしても、飛行機は楽ちんだ。私も後で飛行機の運転を教えてもらおう。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


森についた一行は、ゴブリンしかいない森などもはやなんてこともなく突き進む。むしろ訓練も兼ねてほとんど琴音ちゃん一人で処理をする。


ひーひー言ってて可哀そうだが、なぜかやる気に満ち溢れてる。。。可愛い。


木梨君は相手の動きを鈍くさせる様に常に琴音ちゃんのサポートに入って遊撃している。もう、まるっきり姫と忍者のようで面白い。しかも、バニシエスから琴音ちゃんを守ったことで距離感が近づいたように見える。付き合うのも時間の問題か…私は寂しいよ。


その木梨君の方だが順調に訓練が進んでいるようで、殲滅力は低いがタイマン特化のスキル構成のため、模擬戦の勝率では団員をごぼう抜きして今ではリーダークラスの力を付けているらしい。村上君が早くも抜かれたと涙目で語っていた。


琴音ちゃんも勉強に回復に町田先生のもとでバリバリ成長しているようだが、もちろん攻撃力不足は解決していないので、いまも頑張って鈍器でゴブリンを殴っている訳だが。


「唯さんこの辺でしたっけ?」


やることが無く思考の迷宮に迷っていた私に木梨君が問いかける。


「へ?あぁ、そうだね。近くに行ったらカーモンが来そうなもんだけど。」


「確かにそうですねぇ。」


「地図ではこの辺みたいだがなぁ。森の中だと良くわからん。」


少し開けた場所に来たが森の感じはどこも似ていいて一直線には目的地に向かえない。

八神さんもお手上げのようで投げやりだ。遮蔽物が多いところは苦手なのだろうか?弓使いは森が好きなイメージ。(これは多分エルフのイメージ)


湧帆さんはさっきからマイペースにクマ手で草や花をめでてる。なんでも今はクマ手で繊細な作業をするのがブームらしい。


「湧帆さんは何してるんですか?」


「ん?よし」


私の問いかけに無視するように収めてあった刀を左手で抜く。クマ手はまだ使いこなせないらしいが、逆手でも剣が振るえる事に驚愕したものだ。


「なんか、来たよ。」


そういうと森の奥から大群の足音がする


どどどどどどどど


「ききー!!」


クローデンを引き連れた猿がこちらに突進してくる。

うわ、マジヤダわ。


「先頭のカースモンキーは恐らくダンジョンマスターの物なので倒さないで、後ろのクローデンを処理します。」


木梨君が真っ当な支持を投げかけるが、お猿さんをほっておいて逃げる手段は無いのかな?木に登れるし逃げれるでしょ。。

なんかグローデンが苦手だ。あれから一度、5匹の小規模な群れと訓練で対峙したがうまく動けなかった。初めて畏怖する存在として刷り込まれているらしく対峙するのにも嫌悪感がひどい。


前衛の私が躊躇していると、湧帆さんが察してくれて前に出る。ていうか、私以外にまともな前衛いなくない!?


「そりゃ」


そういうと刀を横なぎにすると、猿の足元50センチ下に剣閃が走り先頭集団のグローデン5体ほど真っ二つに切れた。その反動で、後続も足を止める。


「殲滅しちゃっていい?」


「お願いします。」


湧帆さんが訓練とダンジョン探索のどちらかを優先すればいいか判断しあぐねてるようで、これゴミ?捨てていいの?位のテンションで聞いてくるので、捨ててくださいと答える。


倒せないこともないけど、私達が主体でグローデンと対峙すると時間がかかり過ぎる。


すると、ものの3秒で群れのほとんどは真っ二つ、一番奥に離れていた個体だけ八神さんが弓で止めを刺す。


「すげぇ、幹部の方はやっぱりレベルが違いますね!!」


木梨君も、突っ込んだが切り結ぶ前に戦闘が終わってしまった。そのことに感動したようで、12歳で初めてゲームを買ってもらった少年のような目で幹部たちを褒め称える。


「いやぁ、それほどでもないよ~」


湧帆さんは褒められて嬉しいようだ。うん可愛い。

木梨君が純粋なこと言っても何も感じないのに何故だろうか?顔か?


「きき!」


鳴き声が聞こえる、どこに隠れてたのかダンジョンマスターのネームドモンスターでカースモンキーこと【カーモン】が私の肩に飛び乗り【きききき】と何か言ってる。慌てているようなのは辛うじて分かる。


「どうしたんでしょうか?ダンジョンに何かあったとかでしょうか」


「なにか、慌ててるようですね。」


年下ズが純粋かつ真っ当な意見を述べるが、私が裁定を下すことにする。


「うん!何言ってるか分からないし気にしてもしょうがないから、のんびり向かいましょう。さぁカーモン道案内よ!」


私はきききき叫んでるカーモンをグローデンが来た方向にポイ捨てして道案内を促す。


「それでいいのかよ…」


八神さん!いいんです!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る