第41話 ギガンテス無双

危険が去ってからダンジョンに行くつもりだった私の思惑は湧帆さんによって破棄される。


「カーモン君、何があったの?」


「っきききき!きき!きききき!」


ウキウキいってて意味が分からないが説明しようとしてるのは伝わり、むしろカーモンがこちらの人語を理解してる知性の高さに驚きだ。


「なんか、ダンジョンがモンスターに襲われてるみたいで、たぶんグローデンの群れに守備網を突破されたみたいな感じかな?」


もっと驚愕だ、なんでわかるの?


「立花さん、カーモンの言葉が分かるんですか?」


琴音ちゃんの質問はいつもストレートで素晴らしい。


「ん~?詳細には分からないけど何となく分かるかな?あと、湧帆でいいよ。」


「気にするな、スキルでもなければ湧帆にしかできない曲芸だ。一部の魔物と意思疎通ができる野生児が湧帆のアイデンティティだよ」


八神さんが事態がひっ迫しているのを理解したため行動を急ぐように促す。それにしても、野生児って魔物と意思疎通ができるの?ジャングルの王者的な?


「いやぁ、そんな褒められても」


「とりあえず、急ぐぞ」


なぜか、照れてる湧帆さんは可愛いが、悠長に眺めることも叶わない。なぜなら指揮権を強奪した八神さんが、スタスタと森の奥に進んでしまったので、しぶしぶダンジョンに急ぐことにする。


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特に何も指示を出していなかったがダンジョン内の構造は出立した時のままらしく入ってすぐの落とし穴も記憶通りの物だった。


そもそもカーモンが、「ちゃんと、俺の後ろを歩けよ」と言わんだかり地面を蛇行して歩く。本来ならぴょんぴょん跳ねてけば早いだろうに私達に合わせて移動するほど賢い。

もう、人語が話せたら完璧だな。。


「それにしても、随分シンプルなダンジョンだね。」


湧帆さんがあたりを見回して、田舎の駅を見た時みたいな反応をする。


「すぐに着くのか?」


八神さんがカーモンに問いかける。そんな自然に魔物にしゃべると、違和感を感じる私が変みたいにじゃないですか…


「ききき!」


「すぐだって」


あぁ、通訳を当てにしてるのか。


「そもそも、重要な場所までは最短距離で動けば2時間で着きます。くまなく探索しても一日で終わるダンジョンですから。」


木梨君がはっきりとした言葉で情報を伝える。うむ、成長していて私は嬉しいよ。

実際のところ、木梨君は戦争以来かなり本気で訓練やこの世界の勉強をしていて、なんなら戦略・戦術講義まで受け本当によく頑張っている。やはり、守るものが出来ると男は違うというやつなのだろうか不思議だ。


どがん!


一切注意せず走っているとカーモンが落とし穴にはまる。


「えぇ!?大丈夫?」


木梨君が本気で焦ったように穴を覗くとカーモンが顔だし尻尾を振る。ついてこいという意思表示だろう。

そもそも、落とし穴にひっかるような種族ではないだろうと思うが、猿にも誠実に対応する木梨君は良い男なのかもしれない。限りなく馬鹿っぽいが。


「おい、香川さん!…何してる行くぞ?」


「はい。。」


そして、限りなく集中力を切らしてる私に八神さんが声をかけるので、しぶしぶ穴に飛び込む。そもそも、このメンバーで私が殿の意味もよくわからないよ…


ずごーん どぎゃーん


穴から飛び降りると、ギガンテスがグローデン相手に大暴れでそこら中に散らばっている。ざっと見た感じでは40匹は居たであろうグローデンは半分ほどが行動不能のようだ。


「これはキングがいるね。」


「あぁ、ダンジョンを襲う時点で間違いないけどな。」


なんか、私が想定していたよりヤバイ状況らしい。


「八神さん、どんな状況なんでしょうか?」


絶賛売り出し中の木梨君が質問する。お?いい質問だね。内申点がぐいぐい上がっていきそうだ。


「あぁ、グローデンって結構特殊な魔物でな、魔獣種では最高ランクに頭が良くて、ある一定を超えると簡単な文明を築くことがあるんだ。まぁ、ゴブリンとかと一緒だがね。ただ厄介なことにゴブリンよりはるかに強いことが問題だけどね。」


「それなんだけど、キングのいる集団にギガンテスが勝てるかな?」


湧帆さんの疑問に少し驚く。あれ、ギガンテスで処理できないレベル?


「きききき!きき!きっきききっき。」


「あれ、なんかカーモン君が僕らを呼びに来た時にはギガンテスは瀕死だったんだって?ダンジョンマスターが復活させたのかな?」


やばいじゃん!!私の金ずるが無くなるとこだった。早急に対処しなければ。事態の深刻さにやっと気づいた浅はかな私は指示をだす。


「カーモン、ゲレイロと連絡とれる?取れなければすぐにあなただけでも合流しなさい。どうせ、ギガンテスをネームドモンスターにしたとかそんな感じでしょ?それより、キングが居ませんよね?」


「あぁ、急にスイッチ入ったね。。。香川さん。。ここにはいないよ。」


八神さん、なに引いてるんですか?


「よし!キングの情報が欲しいの、カーモン分かった?分かったなら、ほら、行った!」


「きっつ!」


そうやって、一方的に指示をするとカーモンは駆け出す。いま、走り出す前に敬礼しなかった?気のせい気のせい。


「それで、俺らはどうするの?」


「あれ、私が指示出すんですか?」


「いや、俺が出してもいいけど香川さんの指揮も見たくなったし、ひどい部分があればこっちから指摘出すなり指揮を変わったりするよ。」


そんな、緊急事態に訓練みたいなことを。。。まぁいいや、好きにやろう。


「では、キングって湧帆さんなら楽勝ですか?」


「湧帆なら楽勝、俺ならギリギリかな。香川さんも我妻さん時と同じレベルでやれればギリギリ勝てるかも。」


「じゃ、エルダーグリズリーと同じS級ってことですか?」


「単体ならね。団体の場合はSSになるよ。湧帆はひとりでやれる?」


「ん~数によるけど洞窟だからたぶん平気かな。逃げ場のない平原とかだとヤバいかも。」


おいおい、クローデンまじでやばい奴だな!私の異世界ライフに幾度となく立ちふさがりやがって!


「では、とりあえずこの場を早急に治めましょう!」


ずどーん


「でも、ほとんど終わったかな?」


すると残りの20匹も私たちの井戸端会議の最中にギガンテスが一蹴してしまった。


「いやぁ、ギガンテスにしては相当つよいねぇ。」


「いまから力試ししそうな雰囲気だして、ダメですよ」


余計な会話をしていると力尽きたように膝をつくギガンテス。圧勝ってわけではなかったようだ。


「琴音ちゃん試しに回復してあげてダメでもいいから」


「はい!」


光が上がるが効果が薄いらしく息が整う程度で、動きは緩慢だ。


「ありがとう十分よ。湧帆さん単独で行動お願いできますか?」


「もちろん!見つけたらなぎ倒せばいいんでしょ?」


「はい、先に伝心で私に連絡をください。どうゆう状況でもすぐに合流します。可能であれば生け捕りも考えているので。」


「なるほど。DM稼ぎか。」


八神さんがすぐに察する。


「まぁ、S級を拘束なんてこのダンジョンで出来るか分からないですけどね。」


「了解、出来る限りやってみるよ。」


「はい、安全第一でお願いしますね。とりあえず、適当に走っててください!自分はゲレイロの連絡を待って4人と一匹で動きます。恐らくギガンテスはネームドモンスターならマスターと直接やり取りが可能だと思うので索敵できるはずです。なので、詳細が分かり次第連絡します。」


「はいよ!」


そういうと、出社前にゴミ捨てを頼まれた良き旦那のような返事をして駆け出して行った。


うむ、うっかり結婚生活を想像してしまった。

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