第42話 確保!!

それから5分ほどグローデンの討伐部位と売れる部分の解体作業を(主に男どもが)していると、キガンテスが私に向かい頭を下げて動き出す。


「付いて来いって事ですかね?」


「たぶんね。」


琴音ちゃんの疑問に確証はないが、ギガンテスがゲレイロの指示のもと動いているのは間違いないだろう。ゲレイロって伝心を覚えてないのかな?今後こういう事があるとすごい不便だな。

私達は一旦、湧帆さんに動き出す旨の連絡だけしてギガンテスの後を追う。


「あぁ、そうだ。ギガンテス君!可能ならゲレイロに指示を出して湧帆さんにもカーモンの道案内をお願いしてって!」


がぁぁぁ!!


ギガンテスは返事なのか叫び声なのか分からないが一応反応を見せてから、ずかずか、どしどし、音を鳴らして突き進む。


すごく不安…


「これ、目標に真っすぐ向かってるだけだよな。いきなり遭遇とかもありえそうだな」


八神さんが最もな意見をいう。


「不意打ちとか考えられるタイプのダンジョンマスターじゃないんですよゲレイロって…」


私が、すごく悲しい気持ちになりながらに事実を伝える。


「わかった。まぁ、うまくやるさ」

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がっぁぁぁぁ!!


それから10分も歩かずにギガンテスの咆哮でキングクローデンと遭遇をアピールする。いや、わざわざ引き付けなくても…


ぐおっぉぉぉ!!


キンググローデンもギガンテスの咆哮に対してうなり声をあげて応対する。

キンググローデンの見た目は6本足にたて髪のように固そうな毛が生えており、体長は他のオスより2倍近いサイズで一目で違いが分かるほど個性的だ。

というか、ライオンだな。牛の親分はライオン。


お互い威嚇合戦が終わるとギガンテスとキングクローデン大怪獣戦争を始める。人類が関わるべきではないダイナミックな殴り合いはもはや「プロレスやってるの?」って聞きたいくらいの防御無視の殴り合いだ。


しかし、黙ってみてる訳にもいかないので私達も動き出す。


「とりあえず、雑魚処理優先ですかね?」


「気を付けろよ、あんまり派手にやるとヘイトが変わるぞ。ギガンテスがせっかく引き付けてるんだ、うまく減らしていこう。たぶん、ギガンテスも長くは持たないぞ」


あれ!?あの咆哮ってわざとなの?本能の赴くままに吠えてると思った。いかん、いかん急がねば。


「木梨君フォローを!」


私はそういうと独りでグローデンの群れの後方に突撃する。木梨君も付いてきているようで後方に気配がある(多分分身)流石に気づいたグローデンの一部が私を迎撃しようと動き出すが、遅い!一頭目のグローデンに槍を突き付けるとそのまま奥に押し込んでいく、グローデン達の走る勢いが殺され陣形が瓦解する頃にはお得意の突進攻撃が不完全燃焼のまま沈黙する。


私の背後を取ろうとする個体には八神さんが容赦なく矢で攻撃していく。急所に当ててるようで全部一撃必殺なのがすごい。私はかく乱が目的なので群れの中が突撃槍を繰り返し相手の標的を絞らせない。


私が手傷を負わせた個体を木梨君が丁寧刈り取っていく、その姿は暗殺者のようで本気で動く木梨君のスピードが目に追えないレベルになっているのに驚愕する。


お前には絶対に負けないからな!次の模擬戦でコテンパンにしてやる。


私は新たな決意を胸に雑魚処理に奔走する。【たんぽぽアタック】で一掃することも可能だが、恐らくキングとやることになると残弾は多い方がいいだろう。だから、八神さんと木梨君に止めを任せる。


事実、膠着していたように思えたギガンテスとキンググローデンの大怪獣戦争は徐々にギガンテスの形勢不利が目立つ。パワーでは引けを取らないが、キングが足を使って回避行動をするだけでギガンテスは攻撃が当たらなくなる。タフ&パワーが売りのギガンテスも一方的にダメージを食らい続ければいつかは倒れる。


40頭はいた雑魚の個体が10頭位になったとき、ギガンテスがとうとう膝をつく。私はそのタイミングで雑魚処理を諦めて背後からキングに向かって【たんぽぽアタック】を敢行する。ギガンテスは倒させない!だってDM高いから!


「うりゃ!」


すると、支給品の安物長槍(駆け出しが持つようなレベルの装備ではないらしい)がひん曲がって刺突の効果は得られない。


うそ!?硬すぎじゃない?


「キンググローデンは物理じゃダメージが与えずらいんだ!さすがに効いてる様だがバリスタじゃダメージが厳しいかもしれん!」


嘘でしょ!?一応ざっくりと移動中に説明は受けていたが、物理に強いと聞いても、我妻さんより硬いとは聞いてません!...だったら、雑魚処理に槍使ったのに、私のヘイトがキングに向かっていることを良いことに木梨君の打ち漏らした個体がこっちに駆け寄る。


「唯さん危ない!!」


琴音ちゃんの声がするが、節約の必要が無いならグローデンなんて一撃なのよ。私は背後の気配のする方を一瞥して頭に突き刺さるように槍を召喚させ貫通させる。振り向きざまに、櫻井さんの新作を装備する、魔法槍【つくし】と魔法盾【すいれん】だ。【つくし】はランスと呼ばれる突撃特化の槍でらせん状に模様の入った長い円錐タイプの武器になっている。切る能力を捨て、突撃時の刺突の威力をだけを重視したタイプで剛性が高いのが魅力的だ。【すいれん】は籠手タイプの小型盾で取り回しが良いのが特徴だ。私のスキルの性質上、大盾で相手の攻撃を抑え込むより、籠手でいなして遠距離攻撃は無力化が理想的な盾の使い方だ。


「おぉ、唯さんかっこいいっす!」


だろ?


残りの雑魚は八神さんが瞬殺するだろうことを期待して、私はキンググローデンに突撃する。


先ほどの、攻撃が効いてるのか迎撃に慎重な構えをとっている。当たる瞬間に回避を選んだキングが右方向に飛びのくが、動き出した方向を見てまた背後から【たんぽぽアタック】を使う背後からの衝撃に大きくバランスを崩し倒れこむキングに対してもう一度突撃をかける。


魔力操作のスキルがまだレベルが1でマジックシールドを作ることもできないが(レベル2から作れるらしい)、槍に魔力を帯びさせて突撃槍をセットで使えば威力だけなら【たんぽぽアタック】に匹敵する。


がん!


攻撃の避けれないと判断したキングは右足の爪で【つくし】を受ける様に迎撃したが、右足ごと体が吹っ飛んで近くの石壁にぶつかる。


正直、私もこんな威力だと思わなかったよ…怪力女みたいでなんか嫌だな…つか、槍って貫通じゃないの?魔法武器の効果って爆発系だな…


「ぐが~!!」


追撃をせずにキングの様子をうかがっていると急に立ち上がり発光始める。


「気を付けろ!キンググローデンの雷魔法だ!」


そういうと、いつの間にか雑魚処理を終えた八神さんが矢を放ってキングに追撃を入れると、私の左の足元に稲光のような光が走り地面が黒焦げになる。


いや、無理無理…


私の体にマジックシールドが張られた感じがする。


「俺のマジックシールドは昂暉さん達のより威力が弱いから即死しない程度だと思って!さっきも話したが、キンググローデンは雷を一回打つと、たて髪に蓄電する時間があるから、うまくタイミングを掴めよ!」


無茶言うよ。やっぱり、魔物の特性が頭に入ってる八神さんが指示出せばいいのに…


「わかりました」


戦闘中に愚痴ってもしょうがないのでキングに突撃をかける。私は鍔迫り合いにならないように攻撃したらそのまま攻撃範囲から離脱また、突撃。タイミングが合えば【たんぽぽアタック】でひるませるを繰り返す。


さらに、一撃必中だった八神さんの矢が外れだす。というか矢が地面に刺さって消えた?魔力って事か?よく見ると射線が私でも分かるぐらいスピードが落ちてる。物理矢だとダメージが無くて魔力矢だと威力はあるけど遅いのか…けん制以上には期待できないかも…


木梨君も頑張ってダメージを与えているが獣のスピードに追い付けずうまく攻撃が入れられない。


「唯さん、本体で行きます!」


「駄目よ!相手が早いんだから琴音ちゃんの防衛はマストよ!」


一瞬指示を出すため、よそ見した隙にキングの尻尾が私の腹部に直撃し、壁際まで吹き飛ばされる。とんでもない激痛に息ができなくなるが、すぐに状態が良くなる。よく見ると体に回復の白い光が上がっている。


「琴音ちゃんありがとう!」


「お願いします!」


琴音ちゃんは以前、人を回復するってことは結局何度も同じ痛みを受ける事を強いている事だと憂いていた。自分のスキルが無理に戦闘を促してるってことだろうか…でも、琴音ちゃんの回復で痛みはすぐ引くし、私は助かって嬉しいのよ!っと心中で賛辞を送り、また突撃をかける。


これだけ、動きの速い相手に私と木梨分身(能力八割程度らしい)では中々戦場の維持も難しい。八神さんがさっき「ギリギリ勝てる」って言っていた意味が分かった。相性の問題だ。

私も八神さんもどちらかというと物理攻撃タイプで高火力の魔法攻撃は保持していない。


「くるぞ!」


その時キングのたて髪が光る。見てから避けれるタイプの魔法ではないので左右に動きながら射線上に盾を構える。


ずごん


雷の強い音に耳がしびれ、盾を貫通したダメージで倒れる。すぐさま回復され痛みが治まるが眩暈がして体が動かせない。落雷があったときなどに、直撃でなくても体に電流が走り気絶することがあると聞いたことがある。まぁ、ゲームみたいにビリビリって麻痺したりはしないだろうなとは思う。


動きを止めた私に、是はチャンスとキングが向かってくる。しかし、間に木梨君が入りキングの一撃を受けるが、分身は霧散し絶体絶命は回避する。


「くらえ!!」


キングは八神さんが放った矢を嫌がり私への攻撃を中断するが、振り返って目標を八神さんに切り替える。


まずい、私が動けないと後衛に接近される。


危機的状況から無理に体を動かそうとするが吐き気が止まらない。その隙に、キングが八神さんに向かって突撃する。しかし、八神さんは弓を捨て収納袋から取り出したナイフと片手銃を持ち、ナイフで突撃をいなすと、背後に飛び上がり引き金を引く


バン!


魔力弾なのだろう、キングの皮膚を貫通して初めてと言っていい量の血しぶきが舞う。


そこから、八神さんが接近した状態でキンググローデンと優雅に交戦する。ガン・カタだっけ?映画で見たことがある、確かその時は二丁拳銃だった気がするが動き的にはそんな感じだ。ナイフと体術でいなしたりけん制して攻撃は拳銃に任せる。さっき木梨君が早いと思ったのが、八神さんはもっと早い。ウソのように完璧な動きでキンググローデンを翻弄する。


「すごい」


動けない私は、八神さんの戦闘を見る事しかできず感嘆のため息をつく。普通にかっこいいわ。


「木梨君変わって!弾が切れる」


「え!はい」


そういうと、木梨君の分身がキングに接近する。その一瞬で八神さんが攻撃射程から離れると拳銃のカートリッジを交換する。そのまま接近はせずに銃での遠距離攻撃に切り替えるが、木梨君分身では3分と持たずキングに負けて、また八神さんが接近戦を繰り返す。


なるほど、現状維持は出来るけど決め手には欠けるのか。結局私が接近して八神さんが遠距離から止めが正解か。


私はくらくらした頭を軽く振り、念のために即効性のある頭痛薬(二日酔い用)を飲む。


「ぐわ」


少し目を離したすきに、虚を突かれたのか?八神さんにキングのバックキックの攻撃が当たる。すぐさま木梨君がスイッチして戦線は保つが、重症らしくすぐには八神さんは立てない。


意を決して私は【たんぽぽアタック】を連発して相手に当てつつ接近する。だめだ。。万全じゃない体は木梨君と二人係でもキングに後れを取る。直撃を受ければ一気に回復が間に合わない可能性もあるのに思うように躱せないず、盾で受けることになる。


「くそ」


決め手に欠けるし、じり貧だが時間稼ぎも悪くないはず。そろそろ来てください!そう思うと、すぐに私の願いが届く。


目の前にいたライオン顔が左方向吹き飛んだ。


湧帆さんが私とキングの間に入るように飛び蹴りをしたのだ。いや、貴方は剣士なのでは?


「ごめんごめん、遠い所いて時間がかかったよ。」


「まったく、待ちましたよ湧帆さん!」


「じゃ、そこで休んでて」


そういうと湧帆さんは散歩に出かける軽い足取りでキンググローデンに歩み寄ると1分間圧倒したあと、水の魔法で拘束した。


おぉ、確保も出来るだ。。。すげぇ





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