第6話 草食動物さん、眠くなってきたよ
スターゲイザー(五人のり戦闘機)にのって移動要塞【赤坂】を飛び出した私たちは空のランデブーを楽しむ。日本ではテレビの中だけの別世界のような大自然の眺望が見える。丘の上にいたときは気づかなかったが大平原の近くに大森林がありその向こうには小さく見える山脈がより森の壮大さを強調する。平原と森の境界線が大河のように蛇行して地平線の向こうまで続き果てが見えない。
しかし、後ろを向けば圧倒的な威圧感を放つ違和感がある移動要塞赤坂だ。その容貌は要塞というよりはスチームパンクが似合いそうな街だ。六本木ヒルズの周辺をすっぽり抜き取ったようなビル群のような塔が不規則に立ちならび、足元には街頭のようなものが紫色の鈍い光放つ。歯車やパイプで装飾された黒色ベースの外壁も相まって赤坂だけが夜のようだ。さらに、上部の街に対し地面部分には戦車のようなキャタピラローラーが横に何列にもわたり今も回転している。陽気な大自然と淫靡な要塞のコントラストが異世界の光景を強調する。
そして、目的地に着いたのかスターゲイザーは森の端に着陸する。赤坂はそのまま平原と森の境界線を沿うように進んでいった。
----------------
「さぁついたわ!じゃ、少し森に行こうかしら、昂暉たちはどうするの」
「俺は少し体を動かしてくるよ!」
「やめなさいよ。五月蠅いだけじゃない」
「いや、俺はやる唯さんにいい所見せないと」
「馴れ馴れしく下の名前で呼ばないでください!」
「ひどい!?」
何となく拒否したくなる人だ。
「レオンはどうするの?」
「俺は香川とイオリに観察することにする」
観察ってちょっと怖いな、食べるつもりですか?
「はいはい、じゃ俺は平原で掃除してから合流するよ。見ててね香川さん。」
律儀に苗字呼びに直した昂暉さんは平原に向かって歩き始める、特に気にする様子もなくすぐに相手に合わせるところからも昂暉さんの人柄がにじみ出る。なんで、唯我独尊みたいな恰好してるのだろうか?ふと、そこで別のことに気づく、昂暉さんの目的としているであろう道先には見覚えのある集団があった。
「あ、草食動物?」
私は、うかつにもそのワードを口から漏らしてしまった。
「え、草食動物?あれが。っはははははは」
く、しっまった。
「あれは【クローデン】っていう六本足でウシ型の魔物になるの討伐ランクはCで集団の場合はAになるわね。」
「討伐ランクですか?」
「そう、冒険者組合が出してるモンスターの強さの基準ね。まぁ相性とかもあるから目安だけど。私と昂暉は冒険者じゃないからランクはないけど一応SS相当ってことになってるわ。」
へぇ、すごい。あれ、私は?
「あれ、私はどのくらいになります?」
「え?冒険者の初めはFから始めて試験もあるから、スキルもない唯さんはF以下ね。あえて言えば町民かしらはははは」
「あの、私あいつらの視認できる距離に2時間いたんですが?」
「ほぉそりゃ運がよかったな、かなり好戦的な魔物だからな、腹でもいっぱいだったんだろう。腹減ったら仮に行く予定の予備食って所か」
ぬぼっとしていたレオンさんが答える。
やばいやばい、異世界やばいじゃん。紙一重で死ぬところだった。
「それに、おまえの大声で敵認定して目が真っ赤になってたから、あのままなら死んでたな。湧帆の剣と俺の足がなければ本当に死んでいたな運がよかったよ。」
衝撃の事実に顔を真っ青にしているの私をみてイオリさんがさらに忠言する。
「まぁ、これから慎重に行動してくださいね」
全力で肯定の意を示す首肯で頭をガクガクさせる。初めて背筋が凍るっていうのを体験した本当の意味で死が身を掠めていったのだ。
「レオンさん、二度目ですが本当にありがとうございました。ようやく、私がどういう状況だったか理解しました。」
「気にするな、居候なりに仕事をしたまでだ。まぁ拾った命だ大事に使え。」
「そうねぇ、まぁこんな平原に放り出されるのも運がないけどね」
拾った命か…この世界では命は消耗品なのだろう。曖昧な首肯した私は哲学的思にいを巡らす。やっぱり、イオリさんも日本人の感覚からは離れているように感じる。当然だ。20年間も異世界にいて37歳ってことは日本より異世界の方が長いんだ日本の感覚なんて忘れていく。
さっきは、雄大な自然に喜び、異世界の要塞に畏怖した。はっきり言って異世界を楽しみ始めていたがここで生活すること死との距離にまた不安がこみ上げる。はやく強くならなければ。浅い哲学という指摘は受け付けません!!
「まぁ、これから、ぷぷ草食動物にも勝てるように、はは、特訓しましょ!」
侮蔑の笑いが挟まってますよイオリさん?
「何言ってる?あれは腹が減ってれば共食いするほど獰猛な肉食だぞ。この平原なら天敵もいないかもな。」
「はははは、草食に見えないわよね、あははは」
おぁ、もう私の常識は今ここに捨て去ろう。。。
爆笑しながら森に歩き出すイオリさんに付いて行こうとした時、後方から轟音が鳴り響く。主に雄たけびが
「うらぁ~!!!」
「ぐも~!!ぐも~!ぐも~!」
に死の淵を垣間見えさせた草食動物改めクローデンさんが宙を舞う。
一匹…二匹…三匹四匹…五匹
はぁ眠くなりそうなので、もう見ません。
二度とクローデンさんとは出会わないよう祈りながら、私は振り返り森に入っていた。
追伸 昂暉さん筋肉きもい
保存しました
保存する2271文字
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます