第7話 異世界の味はお袋の味

「じゃ、早速魔法の練習から始めてみようか?」


「い、いきなり魔法ですか?」


「スキル習得の仕方は説明したよね」


「構造を理解して、自分の力で再現する?でしたっけ」


スキルの取得方法はあいまいだ。確定的なスキルもあるが基本的にはどうしてそうなるかを理解し、それを再現すること。


この、【理解と再現】が重要らしい。そういう意味では、概念を理解してる火魔法は日本人ならほぼすべて、習得可能らしい。


ただ、レベルアップのスピードには個人差があり火魔法を必ずしもマスターできるかは不明らしい。(可能だとしても現実的ではない場合もある。)


ただ、火と水はどこにいても重要なので基本的には皆が習得する。


「はい、じゃこれ火おこしセット。やり方はわかる?」


「漫画で見たことがあります」


「はは、まぁ十分でしょう」


実際、火おこしに手間取ったといえば否である。

既に日本の技術が導入されているこの組織において鉄製の火打ち棒に燃えやすい乾燥草、薪、着火剤まで用意されているので多少なり不器用な人でも簡単に火を起こすことができる。


オイルライターでやると、ほとんど人はスキルが顕現しないらしい。油の燃焼では駄目なのでしょうか?


「あ、あつい。異世界に来ても汗だくだ」


灼熱と言わないでも、それなりの温暖の気候で焚火をすれば汗の一つもかいてくる。ところが、待てど暮らせ変化はない。


「あんまり、適性がないのかなぁ。じゃ、ご飯作ってみる?」


そういうとイオリさんは腰に付けた袋から何とかポケットのように手を突っ込んで魚の干物を取りだした。


「それは…?」


大き目こぶし程度の大きさしかない麻の袋からは想像もできない大きい干物を取り出し、四次元な何かを夢想する。私のキラキラ下目に気づいたのかイオリさんが答える。


「あぁ、これ?収納ポケットよ。そうねぇ。私のは大きい方だけどワンルームぐらいの質量なら荷物が自由に出し入れできるの。唯さんもそのうち、小さいのを持つことになると思うわ。」


なるほど、素晴らしい道具だ!まぁまぁ制限があるのはしょうがない。


腰のポケットから取り出した網を石で作った台にのせ干物を焼き始めてすぐの事だ。


体に沸き起こる流れを感じる。それは、血液が炭酸水になって湧き上がっているように体中をかけ昇り、細胞一つ一つに確認を取り応答する、そして【私は火が使える】とそう答える。


不思議なもので、呪文はいらなかった、気づいたら自分の右人差し指からライターで灯すくらいの炎が揺らめいていた。


頭でスキルを認識すると体が勝手に炎を生み出す方法を教えてくれる。とても、不思議な感覚で興奮し、高揚した。


もしいま、目の前に鏡があれば両手で顔を隠すほどの恥ずかしい顔をしているだろう。口角が下がらず、瞼が広がり、にやにやとした顔は悪だくみをする泥棒のような表情だ。


ただ、純粋に魔法少女になったこの瞬間に感動した。


「どう?不思議な感覚でしょ?私も初めて使えた時の感覚を今でも覚えてる」


声を掛けられ正気にもどる、イオリさんの優しい笑みを見上げる。


「そうですね。不思議です。」


「ふふ、じゃ、せっかくだし御飯にしましょうか!」


そうゆうと、執事セバスチャン並みの手際で

食卓と御飯が配膳される。


白いご飯にお味噌汁と焼きのり、木でできた見慣れた箸に皿に今自分が焼き上げた魚をのせて

食事を始める。


「いただきます。」


異世界で初めて食べた食事は、懐かしいおばぁちゃんの味だった。

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