第12話 散歩中は行軍中
次の日の朝は二日酔いだった。
そりゃ、経験したことない二日酔いでした。
ただ、人が戻り稼働していた救護室(保健室みたい)で頂いた薬を飲むと一気に吹き飛んだ。
みんな、お酒が強いなと思っていたが薬で直しながらほろ酔いを持続して飲んでいくらしい。
櫻井さんや昂暉さんは酔いが冷めてく感じが嫌で回復しないらしく、私も気づかず飲み続けて倒れる寸前だった。
何とか持ち直した私は例の【昂暉のトレーニングルーム】に新人三人で入り口に並ぶ。(どこで寝てるんだろう)
向こう側には6人の人が集団面接よろしくといった具合に並んでいた。
こっちから見て左から イオリさん 白衣の人(新渡戸さんというらしい) 昂暉さん 櫻井さん
少しぽっちゃりした体だが全体的な丸みが可愛らしさを演出する工藤さん 彼女は料理長として生活系のトップらしい
名前がわからないが高身長でがっちりした体つきのスポーツマン体系の男の人だ。 おそらく軍の責任者的な人だと思う。
「それじゃ、香川さん 木梨君 三石さん。一応三人共この軍に所属するということで、これからよろしく頼む」
意外なことに昂暉さんの第一声はまじめなもので頭まで下げて敬意を示した。
そして、木梨君と三石さんという名前を深く頭に刻んでおく
第一声は一番年下の(はず)三石さんが答える
「よろしくお願いします!」
色素の薄いふわふわした髪にピンクのワンピースがよく似合っている。癒し系か痛いぶりっ子かギリギリの線の見た目だったが、こういった場で率先して返事ができるのは好感が持てる。
「お願いします。」
私も続いて、軽い会釈に返事をすると、慌てて木梨君も頭を下げる。
「それで、急にいろんなことは覚えられないと思うので、この軍ルールを決めている人たちを紹介しておくよ。分からないことがあれば、ここにいる誰かに聞けばわかると思う。」
「右からイオリ、一応内のエースアタッカーね。ちょっと、こっちの世界の人と結婚していて細かい所がややこしいんだが、基本的には外交系を担当している。うちの軍の顔として動いてもらってる感じかな。訓練も担当するので戦闘に関してもイオリに聞くといい」
「よろしくね!本名は斎藤なんだけど、名乗ってないからイオリって呼んでね!」
「隣が新渡戸綾香だ。彼女はファーストコンタクターではないが古株で、うちの研究開発、参謀、諜報をやってもらっている。何かこちらにないもので必要なものがあれば可能な限りで新渡戸が再現してくれる。日本にいた時も学者だったらしく基本的には何でも知ってるから、とりあえず新渡戸に聞いてもいいよ。」
「私は忙しいの!基本的には昂輝が対応しなさいよ」
ささやかな抗議を無視して昂暉さんは続ける
「俺は元帥で、ここのまとめ役ね。」
短い紹介に、向こう側の全員が柔和な雰囲気になったのが分かる。私も、短い間だが昂暉さんの人となりが少しわかってきた。この人は、自分がトップだとか中心だと思われるのをあまりよく思っていない。だから、自分の紹介を最後にせず並び順でしたのだろう。辛辣な言葉も現実の厳しさを理解してもらいたく使っているようだし、軍隊ごっこや昨日の新歓も張り詰めすぎないようにしている措置だと思う。
この人は優しく、他人の気持ちを考えてる人だと思う。
絶対に、軍には染まりませんが。
「こっちが櫻井章で、最年長だ。生産系のチートスキルを持ってる。武器やアイテムなんか彼に聞いてくれ」
櫻井あきら。どんな漢字で書くのかな?国民的なアイドルと同姓同名で若い子の方がよく知っているらしく、隣の二人も体がピクっと反応したのが分かった。
気にしてるのか、余計な事を言いやがってという目で昂暉さんをにらみつける。
そんな、目線も我関せずで紹介を進めていく
「次が工藤敦子さんね。あっちゃんは料理好きで料理系担当だけどコックってわけじゃないから、作り方を聞いて自炊が基本なので、その辺はよろしくね。食品もたくさん配給してるし、レストラン開いてる人もいるから。メインは生活系で日常品の生産。量産系のチートを持っていて、それが大事なので優先してもらってる。、料理というか生活系全般って感じかな。兵器とかも作れるから、鍛冶系もお願いしてる。日用品のことはは彼女に聞いてください。」
「よろしくね。ちなみに私もセカンドね。」
うむ、あっちゃん可愛い
セカンドとは15年前に転移したメンバーを言うらしい。ここでは、工藤さんと新渡戸さんがセカンドになるらしい。
ファーストとセカンドの間にはもしかしたら転移者は居たかもとのことだが、このころは発見する方法が確立できていなかったらしく不明なことが多い、なんでも新渡戸さんの能力で転移者を保護できるようになったとか。昨日飲み会の席で聞いた。
「次が吾妻祐樹、職業がディフェンダーなので脳筋に見えるけど、商業、交易系は全部お願いしている。もともと、商社マンで数字に強いのと鑑定系のチートスキル持ってるからね。うちの大事な金策担当だよ。」
「よろしく。最初はいいけど、実は【赤坂】内でもゼノアグラン帝国ってところ同じ通貨を使ってる。インセンティブ系の給料制だから、早くひとり立ちして頑張ってね!」
「まぁ、ベーシックインカムを採用してるから、生活に困らせるようなことはしないけど、いい武器とか欲しかったら安くはするけどお金を用意してね。スキルがあっても材料費はかかるから」
インセンティブとは世知辛いな。隣の木梨君は給料だと喜んでるけど新人にインセンティブなんか与えられないんじゃないかしら。
「最後に、今は居ないけど立花湧帆。警備と探索担当だよ。軍以外の戦闘って感じかな。今も一人で別行動してもらってる。いるときは軍事訓練もやってくれるから」
まだ、顔を合わせていないがレオンさんと共に私の救出に汗を流してくれた命の恩人だそうだ。早く、謝りたい…
「以上が東邦義勇軍の管理者たちになります。」
「ただ基本的な方針は、自分が最終決定をくだしているけど、一応、全体の方向性を決めるときは民主主義的に議決をとるから特に若い二人は難しいかもしれないけど、よく考えて軍の在り方を見てくれると嬉しいな。」
「あの!質問いいですか」
ふわふわちゃんが率先してるな。
「なに?」
「わたし、まだ、15歳で、勉強とかもしたいんですが、できますでしょうか?」
えら!?最近の若い子はこんな感じなの?
と思ったら隣で木梨君は顔を背けてる。勉強は嫌だよね~仲間だ。
「あぁ、大丈夫だよ。昔は三石さんより小さい子とかもいて教えてあげてたから。高校卒業程度までなら町田さんっていう女の人が元塾講師だから教えてくれると思う。教材もあるしね。いま、十代は二人だけなんだ。だから、一緒に習うといいよ。」
「自分もですか!?」
「今年、大学受験の年だろ?最低限勉強した方がいいよ」
17歳ですね。覚えました。
「わ、わかりました。一年頑張ります。」
「まぁ、浪人しないでね?」
「お受験もあるんですか?」
なぜだろう、勉強の話題なってからイオリさんが顔をひきつってるように感じる。。。。
「よかった。。もし戻れても、勉強遅れてたら困りますもんね」
まじめー
しかし、この話題に首脳陣の面々は少し顔を曇らせる。当然だ、20年間の成果がないんだ。帰れないと思った方がいい。
彼女の希望を無下にはできないが、どこかで現実を直視させなければいけない。それが、大人の彼らの役目なのだろうか。
「でも、すぐ戦争に行くんですよね?」
「あぁ、とりあえず軍事教練を優先させてもらう。いいかな」
「もちろんです!」
と15歳とは思えないほど、しっかりした声で返事をする。
初いのである。
…
「戦争!!?」
素っ頓狂な声を出した私に全員が視線を集まる。
照れちゃう。
「あんたたち説明してないの?」
「いや、昂暉が言うもんだと思ってて」
「なんだよ、イオリが仲いいから先に伝えてる思ったから」
「香川さん、こいつら戦闘では優秀だけど内政は別の人間で回してるから、あんまり信用するなよ」
「櫻井さんひどい!人を馬鹿みたいにいって」
「つか、イオリと一緒にしないでよ。。。」
イオリさんが昂暉さんを睨みつけるが何も言えないらしい。
「まぁついでだし、もう一度おさらいも兼ねて今回の軍事行動を説明して昂暉」
「あい、わかった。ごめんね香川さん順序が逆になったけど、今戦地に向かう行軍中なんだ。規模的には最大規模の戦争だと思っている。5つつある大国のうち聖パルノガス神国といういわゆる宗教国家とヴィルヘルム魔導国と呼ばれる魔族に属する国の戦争に介入する。自分たちはゼノアグラン帝国の使者として仲裁を前提に戦闘行為を止めることになる。」
そ、そりゃそうですよね移動要塞がずっと散歩してるなぁって思ったけど
普通に考えれば行軍中だわ。軍だもん。
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