第11話 軍の皆さん宜しくお願い致します

収納スキル事件から二日後


夕食前には他の転移者を保護に向かった他の軍団員が戻ることになり、本日の訓練はお休みです。。


吉報としては、無事に二人の転移者を保護できたようだ。


よかった。よかった。

噂によると男の子と女の子だそうで、先に合流しているとのことでした。


イオリさんの話によると、訓練の一環でその二人とプラス一人で4人組でパーティーを組んでダンジョン攻略に行くそうです。


3人の新人組…


三人組って二人が仲良くって一人溢れるパターンあるよね。


こわい


まぁ悩んでも仕方がないので、収納スキルを早いことlv3にすべくあてがわれた部屋の枕や照明など手ごろな物を片っ端から出し入れしていると魔力酔いで倒れてしまった。


おはよう!


すぐに時間がたち、起きるころには到着の時刻になり、イオリさんが出向かえに誘ってくれた。


「いやー、緊張しますね。」


「まぁ、いきなり知り合いが50人増えるって怖いわよね」


「それなりに」


「でも、唯さんは明るいし物怖じしなそうだから平気よ」


なんで、年上の女の人って根拠もなくこうゆう事を言うんだろう。無駄に緊張してきた。


するとスターゲイザーが三台止まっている格納庫の扉が開いた。


吹き抜ける風と青い空を背景にオスプレイのような箱形のヘリコプターが1台見えてきた。誰の趣味かは一目瞭然だが、確かに便利なものだろうなと思う。


ヘリコプターの独特な音が近づくと、徐々に体を抑え込む空気が強くなり目を開けることすらできずに顔を背ける。


ほどなくして、耳につく音が軽く高音になったかと思うと、すっと体を包み込む空気が柔らかくなった。


遠くに見えたヘリコプターが眼前にそびえ、先ほどとは違う威圧感を放っている。


サイズでいえば大型の観光バスくらいで、想像したより見上げた側面に扉が付いていた。


「おまたせ~」


最初に目についた扉が開くと、軽い声の調子で出てきた白衣の女性を先頭に個性的で屈強な恰好の男たちがぞろぞろと出てきた。個々の顔を認識するよりも数の多さに圧倒される。


7人を一列として五列ほどに降りてきた人間が素早く並び始める


「気を付け!」


よく通る昂暉さんの声が響く


素早く列を作った集団がほぼ同じ動きで姿勢を直す。


「敬礼! なおれ」


声に合わせ、手を挙げ、手を下げ動く。


その動きは個別の人間ではなく、集団が一つの個体のように連動して動く。その様が、何かの海洋生物みたいに見えて気持ち悪い。


「休め!新規転移者2名の保護、まことにご苦労であった!」

「それでは、早速だが簡潔に 村上大将報告を!」

「は直ちに!」


正直きもーい


これを自分もやるのかと思うとぞっとすると、そう思っていると横からイオリさんに声を掛けられる


「行きましょう?」


そういうと、いつも事らしく完全無視をきめたイオリさんが列の後方に歩いていく、よく見るとその先には女性中心に20名程度が嫌そうな顔でその光景を見ている。


もう一度、列を見直し確認してみる。

軍隊ごっごに参加している女性は3名程度で動きも適当だ。白衣を着た人だけは完璧にこなしていたので、この光景は全員に必須な行動だと勘違いしていた。


「みんな、お疲れ様!」


「イオリさんお疲れ様です!」


「新しい子ですか?」


女子たちだ群がる。おそらく、私と年齢的に大差のないだろう女性たちによくある質問攻めをされる。


このかしましい空間も居心地の良いものでもないが目の前の軍隊ごっこに比べれば、別に大したことがない。


当然、一気に20人の人間の顔と名前を一致することはできないので気になった人だけ覚えていく。


------------

普段は各自で好きなメンバーと食事をとっているのだが本日は新人歓迎で宴会ノリのパーティーをすることになった。


そして、一杯の酒をもってみんな前で自己紹介をさせられる。社会人一年目のあの苦痛をもう一度と言わんばかりに囲まれている。その光景に異世界感はなく、精々転職した程度の心持ちだ。


男性にしても女性にしても一番多いのは自分と同じ20代中盤の年齢層できゃぴきゃぴしている。


実は昂暉さんやイオリさんのような良き中年らしき人は数えるほどしか散見できない。ただ、無言でじっくりと見回してしまったため無駄な緊張感の空気を作ってしった事を後悔する。


後ろに待つ、新人の年下コンビ(ごめん、名前忘れた)はこんな大勢の前での自己紹介の経験も少なく、宴会自体が異世界に感じてるような面持ちだ。当然、二人にも余計なプレッシャーがかかる。


イオリさんがフォローをしようと体勢を変えるのが見えた、恐らく「緊張しないで簡単でいいから?」的なことをいうのだろう。それは、この場において止めさす追い打ちになりかねない。


私は意を決して声を出す


「わたくし、」


変な節をつけた言い回しに場がきょとんとする。

声量には自信がある。やるならば、やりきらないといけない。


「生まれも育ちも世田谷千歳船橋。

帝釈天に産湯を授かり、姓は香川に 名は唯

人ー呼んでフーテンの唯ちゃんと発します。

…」


学生時代に所属した演劇部でよく見ていた人情映画の口上続ける。元いた会社の新人歓迎会で好評だった芸だ。


一瞬、滑ったかと思ったが、奥にいた60代のおじさんのヤジが飛ぶ


「よ、寅さん!がははは。」


そうすると、周りの人たちもネタの内容が分かったようで変な人を見た感じで笑いが起きる。


私の唯一の持ちネタ。

しかし、年齢層が絞られるのを忘れていた。会社で50、60のおじさんは当たり前だったが、この世代には刺さらなかったの明白で、たまたまいた一人が知っていたのが救いだっただけだ。後でお礼を言おう。


耳まで真っ赤にした私が一礼をしてそそくさと、その場から逃げだすと、口をパクパクしながら緊張がマックスになる男の子を横目で見据えて横切る。


ごめんよ、場を壊して。わたしも本当に苦手なの。


「にしても、久しぶりの246か」

空いてる席に向かい、そこいた昂暉さんがこう告げる


「何がですか?」


「あぁ、俺らファーストコンタクターって実は全員246号沿い出身でさ、最初は何か関係あるかと思ったけど結局は転移に使われた漫画喫茶が祖師谷にあったから、たまたまだったってことで結論がついてね。」


「軍の名前を付けるときに246なんてつけてな。バカみたいな話だ。」


そういうと、先ほど助けてくれた60代のおじさんが合いの手を入れる。ぱっと見でおそらく最年長の雰囲気がある人だ。


「お嬢ちゃん、面白いね。久々声出して笑ったよ。俺ぁ、同世代がいないからな。俺は櫻井って言って義勇軍の鍛冶や生産系を預かってる。なんかあれば声かけな。」


そして、私は櫻井さんと人情シリーズの話題で花を咲かせ


また、新人二人の名前を覚え忘れた。





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