第10話 収納スキルってチートなの?
あれから、時は経ち私は成長した。
(異世界に来て四日目が経過)
ゴブリンと対峙して硬直していた私はもういない。lv2になった槍スキルは好調で3匹までなら同時に相手ができる様になった。
火魔法の習得も三日かかったが(超遅い)lv2になり遠距離から先制でファイヤーアローが打てるようになり戦闘がより安定する。
ただ、一撃でゴブリンを貫通するような威力はない、精々松明を放り投げて、ひるませる程度のもんだ。
しかし、命のやり取りをする戦闘では一瞬の時間はとても重要だ。相手が一瞬ひるむファイヤーアローはかなり効果的な魔法で安全マージンになる理由がよくわかる。
ちなみに、呪文は
【穿て、炎の矢よ!】だ。
ファイヤーアローだからこのぐらいだろう。呪文を言ってる間にゴブリンが接近してきて焦ったのはご愛敬だ。
イオリさんは、なぜか苦笑いしていた。だって呪文は必要だと思うの。
そして今日も今日とて、スターゲイザーで森に横付けしてはせっせとゴブリン無双をしていると。
「ねぇ、唯さん」
「はい?」
ふいに話しかけられて素っ頓狂な声を上げる。
初日こそ三人いたが今ではイオリさんだけがついてくる。
なんでも、このエリアは【強いモンスターが平原に出て、弱いモンスターが森に隠れ住んでいる】棲み分けなっているらしいが、時折平原のモンスターが食料を求めて森に入ってくる。
そのモンスターとかち合わないようにイオリさんが護衛してくれてるのだ
ゴブリンが多いのはどこも同じで、臭く捕食対象にならないので無尽蔵に増えていくのが一般的らしい。
あの匂いって生存戦略だったのか。。
繁殖力も強く、どの生物とも交配できる。ゴブリン同士では低レベルのゴブリンしか生まれないが、他の種族と交配すると強いゴブリンが生まれるらしい。
その辺も、他の種族は平原の強者に食べられ適度に調整されているので、交配相手がおらず弱いゴブリンばっかが生息する森を作っている要因らしい。
「好きなものとか得意なものってなに?」
お見合いみたいな質問だ。ぱっと思いつかないので会話を続ける返答をする。
「えっと、なんのでしょうか?」
「いや、だから唯さんの好きなものよ。」
「そうね、唐突だったわね。例えば昂暉だったら戦争オタクなの。軍事だったからしら?どうでもいいわね。」
本当にどうでもいい
「でね、彼のユニークスキルはホークアイって呼ばれるスキルで戦場を盤面のように上空から見ることができるんだって。」
「いいんですか?そんな簡単にユニークスキルなんてばらして。」
「まぁ秘匿が必要な場合もあるけど、昂暉の場合は知名度を上げて敵対勢力を威圧しているところもあるからね。昂暉の能力は基本的にこの世界の人なら誰でも知っているの。」
「それに、知っていたらどうにか出来るスキルでもないしね。」
「まぁ、それはいいんだけど。多分それって、戦争ゲームとかだと重要な能力なんでしょ?空間把握能力っていうんだっけ?」
「なるほど、そうでしょうね。」
「だから、ユニークスキルってその人の個性なのよ。好きなものとか得意なものが、その人のスキルとして顕現しやすいの」
「あ、それでですね。私のユニークスキルって何だろうって事か」
「そうね。まぁ、好きや得意が一概にユニークってわけじゃないけど、コンプレックスの場合もあるし」
私のコンプレックス。。。ユニークスキルが【巨人化】なんてなったら、街で隠れ住むことにしよう。
「イオリさんのユニークスキルは何ですか?」
「わ?わたし!?まぁ、火の魔法を強くする感じかな?」
なぜ、動揺しているのだろう。でも、まんま火の魔法使いだ。紅焔の魔術師だっけ?二つ名いいな。
「魔法系は別だけど、実は戦闘系のユニークスキルだと、そろそろ顕現していることが多いの」
「生活系とか生産系だと自覚症状がある場合多くって、その辺もすぐに分かるのよ。」
「だって異世界なんだし、少ない中みんなで協力しあおうって組織だから自分の得意なものを生かそうとするじゃない?」
「なるほど」
すみません、社会人二年目ブラック企業の営業マンは特技が無ければ意思もありません。しいて言えば、従順に命令をこなせます。
「槍の適性があるからその方向のユニークスキルだと思ったんだけど…唯さんって、根性あるじゃない?だから、ユニークとは関係なく戦闘向きな性格なだけかなって」
そうでしょうか?
「普通、四日間も薬漬けでゴブリン討伐なんてできないし、もう200匹近いしね。」
「う、うそぉ」
だって、半強制的にやらせてたじゃない?
胡乱な目でイオリさんを見つめる。
「いや、拒否されればペースは考えるわよ。ただ、私や昂暉は唯さんみたいにやってたし。本人がいいなら大丈夫かと」
軍の犬、そう呼んでください。
むしろユニークスキルは【命令許順】なんてどうでしょうか?
「まじめな話、ユニークスキルが顕現しないとかなり厳しいのよ」
うむ、なんだろう私の個性…巨人ではありませんので。
「ん~でもコツコツレベル上げするのは苦ではないかも」
「どういうこと?」
「流れ作業というか、ゴブリンみたいに淡々と倒す感じは好きですね。」
「漫画アニメゲームは好きですがオタクってほどではない自覚はありますし、単純作業を没頭するというか」
「へぇ、ゴブリンを倒す感じ」
おっと、やべぇいきなり快楽殺人者みたいな発言してたわ
「あ、違いますよゲームの話ですよ!?」
うそです。ゴブリン殺すのも作業になってました。
「あとは、なんでしょう…あ、でも好きとは違いますが興味があるのは、それでしょうか?」
私はそういうとイオリさんの腰についた袋を指さした。
「え?これ?収納袋?」
「そうです。四次元的なポケットって憧れますよね~」
「あぁ、そういうこと。でもこれ有限だし、未来の便利道具もないわよ。」
一応冒険者ギルドに持っていくと小銭になるということで念のために、モンスターの討伐証明部位を集めていた袋を持ち上げた。
「まぁ、それはいいんですよ。でも、例えば、さっきからコツコツ集めてるゴブリンの耳も袋に入れてると匂うし、かさばるし…収納があれば…うお」
急に体全身をめぐるような感覚。スキルを取得したらしい。
「なんか、スキルを得ました…」
「え、いま?あれ、ゴブリンの耳は?」
急に手元にあった袋がなくなった。
そして、意識するとそれが自分の体のどこかにあることが分かる。体というか【体とつながった空間】と言えばいいか奇妙な感覚ではある。
「よいしょっと」
そうやっておばさん臭い声と共に手元にゴブリンの耳の入った袋が戻る。
「収納のスキル?」
「あれ、これってもしかしてユニークスキルですか?」
「いえ、違うわ。」
あれ、違うんだ。
「ユニークスキルは顕現すると、また違う感覚だと思うの」
「そうなんですか…」
「でも、実は収納のスキルってすごい取得が難しくて…結構レアなスキルよ」
来たー!苦節四日(短い)
とうとうレアスキルゲットです!
小躍りしそうな気持ちと顔のニヤ付きに抑えながら続ける。
「そうなんですか!?ユニークじゃないのは残念だけど…レアスキル!いい響きですね!?」
「え?あぁ、うんそうね。とりあえず昂暉の所に戻って聞いてみましょうか」
さえない顔のイオリさん。どうしたの?
お昼もとらずに早めに【赤坂】に戻った私に突き付けられるのは非常な事実だった。
「へぇ、収納ゲットしたんだ。便利だよね。」
そういうと昂暉さんは中空からペンを取り出す。
「あれ?そういえば昂暉さんのその魔法って収納ですか?」
「そうだよ、lv2だけどねー」
「れ、レアスキルなのでは?」
「ん?レアだよ。この軍では二人だけ、俺と櫻井っておっさんだけ」
「結構便利だから、みんな取得の練習はしてる。でも、この体と空間がつながってる感じが、できない人にはピンとこないらしくて理解が追い付かないみたい。」
「そ、そうですか。」
私も理解はしていないと思うけど。。
「実際に収納袋を使って練習するとできる様になるんだけど、イオリがさせたの?」
「いえ、見せただけだわ」
「へぇ、香川さんってやっぱり少し変だね。初めてパターンばかりだ。」
嬉しくない。
私は、それよりも収納スキルの重要性について恐る恐る尋ねる。
「でも、じゃぁすごいスキルってことですよね?」
「いや?どうだろ便利な程度だよ」
うそ?
「だって、俺lv2だけど、収納できるサイズって精々自分の体くらいの容量なんだよね。無尽蔵ってわけでも無いし時間も止まらないから食品も腐るし」
あれれ
「運送チートするならスターゲイザーに乗せた方が効率いいし。」
「そもそも、時空魔法にゲートっていうヤバい魔法があって、条件が厳しいけど瞬間移動もできるんだよね。確認できてる使用者は3人しかいないけど」
「でも、lvが上がれば状況も変わるのでは?」
「収納のレベルって上がりづらくて確認してる最高lvは3なんだ。5まではあると思うけど。。。あ、でも3になると急に重要度は上がるかな自分の周り1mくらいなら触れてなくても物の出し入れができるみたい。」
微妙。。
「まぁ、でも収納量的には畳一畳程度みたいだから使いようって感じかな。」
「ちなみにlv3の人はどのくらい、いらっしゃるので?」
「俺は一人しか知らない。商人やってるよ。」
なんか絶望的になってきたな。
「でも、荷物持ちに便利かな?食事とか討伐部位とか。イオリがその袋持つようになってから探索が圧倒的に効率的になったし。。あ、ちなみにイオリの収納袋はグランバード王家の家宝らしくて嫁いだ時に借りたもんだから。俺らのものってわけじゃないけどね。」
イオリさんが顔を背けている。
「香川さんはパーティ向きで凡庸性に優れる槍と収納が使えるってことはサポーターの職業に向いてるかもね!」
「さ、サポーター」
「そ、サポーター」
「まぁ、荷物持ち?」
こんにちわ、香川唯です。
魔法少女に憧れている時期もありました。
スキルに一喜一憂する私の職業はサポーターに決まりました。
異世界に来ても雑用です。
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