第9話 槍ってロマン

「へぇ、武器は槍にしたのか?センスいいな」


聞き覚えのある男性の声に我に戻った私は、やっと身の回りの惨状を確認してぐったりする。


ゴブリンがめった刺しで死んでいて、借り物の服は返り血でべっとり濡れていた。


「スキル 獲得できました。。」


なんとか、声を発すると状況を確認する昂暉さんが続ける。


「へぇ、三体も倒してスキル獲得か優秀じゃないか」


「一匹めよ」


「え?」


「対峙したゴブリンは一匹め。奥のは私が参考に燃やしたの」


「ほんとだ、よく燃えてる」


わざとらしく背伸びをして遠くでこと切れているゴブリンを確認する。


「しかも銀槍じゃん、重いだろ」


「でしょうね。」


「どうした?」


「ん?正直驚いちゃって…私が見てきた中で一番戦闘センス?があるかも、運も良かったけど…なにより精神面が強いのかしら。」


「まぁ、メンタルが強いのは間違いないだろう」


そういうと、昂暉さんはレオンを一瞥した。そういえば、居たな。


放心状態で二人の会話が頭の上を素通りする。


ショックだった?


いや、確かに衝撃はあったし生物を殺したことへの罪悪感もある。だが、一番は妙に高揚感があった。戦闘に対して興奮しているのだろうか。


私はやばい奴だったのか?


初めて感じる妙な感覚を味わうように一人の世界に浸っていると、イオリさんは言い過ぎたとばかりにフォローを入れる


「まぁ、ずっこけて夢中で槍を突き刺してただけなんだけどね」


すると、この数分ずっと黙っていたレオンさんが補足する


「いや、スキルなしだ。技量がないのは当たり前だが、いきなり対峙した外敵に一度も目を離さず止めまで躊躇しなかったのは好感が持てる戦いだった。」


「牙旺族の女も最初は目をつぶったり、顔背けることが多い。」


「だが、香川はゴブリンを見据えていたから無様なりによけ、攻撃を当てられていた。」


レオンさんはいい人、レオンさんはいい人

大事なことなので二回言いました。


「ふーん、なるほどね。」

「まぁ、何してもおめでとう。これでGF(グランフロント)で生き残ってく第一歩を手に入れたわけだ。」


「第一歩ですか?」


「そう、俺らの基本能力なんて、元居た日本人とほとんど変わらない。スキルによって技量や運動能力の向上が認められるだけだ。」


「魔法スキルならlv2、武器スキルならlv1がゴブリンと戦う時の安全マージンになる。」


「この世界で一番繁栄している天人様の死亡率はゴブリンによる被害が一番多いそうだよ。」


「まぁ無事、異世界デビューできたってことだ。ついでに、これをやるよ」


そういうと黒い柄の槍を私の近くに放り投げる。

槍の穂先は所謂ダイヤモンド型ではなく長く短剣のようなものが付いている。


脱力感から見つめることがやっとな私がなんとか言葉返す


「足軽兵の武器みたいですね。」


「まさしく一兵卒のための武器だからな。うちの非戦闘系が戦争の補助に入るときに持つ武器だ。」


気乗りしないなりに手に持って驚く。

銀槍とは比べもにならないほど軽く柄の太さも丁度よい。さらに、適度なしなりと強度も感じる。


スキルを持っているせいか槍の特性がすぐにわかる。短剣型であることが、切ったり突いたりできることを簡単にしていて、明らかに今の自分には合っている武器だ。


「強化カーボン製の長槍だ。量産品だが、合理的な武器だよ。」


強化カーボン製…チートくさーい。


だが、量産品の良さは誰でも扱えること。

もしかしたら、銀槍は使いこなせたらすごいのかもしれないが凡庸性の意味では圧倒的にこちらの槍が優秀だろう。


「ただ、少し長いか」


そういうと、私の持っている長槍を奪い取った。

昂暉さんはおもむろに中空からナイフを取り出し、狙いを定めると次の瞬間には柄のお尻が短くなり分断された柄の部分は力を失ったコマのように地面を転がる


「ほれ、こんなもんだろう」


渡された長槍を持つとおもむろに振ってみる。

自分の体ではないように槍が振れる。遠心力がついてまっすぐな軌道の太刀筋で槍が振り下ろされ、そして止まる。体を捻って繰り出す突きは風を切る音がする。


この体は誰の体!?槍?槍のお陰なの?


「よし、いい感じだね。そしたら、今度は火魔法を使い続けながら、ゴブリンを探そう!」


イオリさん、何言ってるの?


結論から言うと、この後は魔物に遭遇するまで火魔法を松明のように使いつづけながら移動し、魔物は槍によって殲滅。

日が落ち始めたころにはゴブリン18体とスモールボアというイノシシ型の魔物を16体を倒した所で今日の戦闘訓練は終了した。


ちなみに、魔力が切れると猛烈な吐き気と倦怠感から動けなくなるのだが、そこにマジックポーションと呼ばれる希少な薬を投与され倦怠感が少し残るが魔法は使える状態に強制的に戻され、また魔法。息が切れてきたらフィジカルポーションという体調を整える薬を飲まされ、また倒す。しかし、精神的な疲労はぬぐえないまま4時間は訓練した。


強者の三人は適当に雑談しながら戦闘する私を見ているだけ、時折2体同時に出てきたゴブリンや強そうな別のモンスターを秒殺でイオリさんが燃やす程度しか戦闘には参加しない。なんでも、スキルの基本理念である【理解と再現】から自分で経験しないとレベルは上がらないらしい。


ゲームのようなパーティー制のパワーレベリングはできないので、ひたすら薬漬けにするのが効率的らしい。


今日の狩りの成果をFランク冒険者で例えると半月分の成果らしく、「この森、魔物が多くてレベリングにはいいねー」と気楽に話していた昂暉さんには殺意を覚えた。


スキル的には、最後のゴブリンを倒した際に、槍のスキルはlv2にあがった。「一日でlv2はすごいわー」と褒められ、どうも槍適性があるよだが、火魔法の方はlvが上がらなかった。

イオリさん曰く、この方法を使い一日で火魔法のレベル上がらないのは相当に適性がないらしい。(武器スキルlv1相当なので)薬漬けはlvが2に上がるまで続けるそうだ。


ポーションでタプタプなお腹とブラック軍隊のしごきによって疲労感がマックスな私は晩御飯を食べることも忘れて、泥のように眠るのだった。


早くチートしたい。





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