第24話 私のユニークスキル
「また、ここか。」
私は記憶の片隅にあった白い空間にいた。あの時と同じように私向かってくる更なる白。
早く、早く。
そう願うと、さらに早く私の存在は白に塗りつぶされる。
ーーーーーーーーーー
ぱっと視界がクリアになり、目の前には傷だらけの木梨君がいる。
「木梨君!」
「唯さん!?なんで?」
よかった生きてる。しかし、360度全てを使い魔に囲まれ絶対絶命で、木梨君は片腕をだらんと垂らして動かないようだが、顔には生気があり「まだ動ける」と意思を感じる。おそらく、ユニークスキルを駆使して生きる事のみを優先したおかげで木梨君はある程度の時間稼ぎに成功してるのだ。
よくやった。あとは任せろ
「木梨君、こっちへ!」
そう叫ぶと私は収納からバリスタ一号【たんぽぽ】を召喚し、間髪入れずに装填してあった槍を発射する!矢倉方面に向けた一撃は私たちに退路作る。さらに開けた道がふさがらないように収納してあった手榴弾を投げ、遠くで起きた爆発の煙の中に駆け込む。木梨君もすぐに察して私の後を追う音がするが、私とて確認する余裕はない。もう一度、足を止め囲まれたらそこで終わりだ。
さっきはゲートの残滓で移動できたが瞬間移動ができる感触もない。分かることは私はユニークスキルが顕現し、その何かによって移動したということだけだ。それだけで今は確認のしようもない意識を切り替えて全力で戦場を離脱する。
「くそ!」
すぐ後ろで、片腕の使えない木梨君が接近を許し、うまく剥がせずスピードが落ちる。走ったまま後方に向かって槍を投擲する!
いたい!!
槍が木梨君の接敵した相手に命中したのを確認した瞬間に、焼けるような痛みが右足に響く、矢が刺さったのだ。本当は抜いちゃいけないのだろうが無理やり抜き、ポーションをかけて止血する。
しかし、痛みが残り走りがぎこちなくなると、大きく開けていた空間は次第に狭くなり退路がとうとう塞がれた。突破しようにも私も木梨君も手負いで見込みがない、前方の敵兵の背後から東隊の合流を期待したいが前方には今だ体長5メートルの巨人が暴れてる。
「やばいなぁ」
そうつぶやいた瞬間、体に力がみなぎる。そういえば経験したことなかったな。これが、琴音ちゃんのぬくもりだ。木梨君に視線を送ると軽くうなずく。
お互い傷はもう大丈夫なようだ。
「木梨君!突っ込むよ!」
「了解!」
私はそう叫ぶと退路に向かって飛槍で投擲したあと、槍を持ちかえて突撃をかける。一方に進むのが目的なので目の前の敵だけ殲滅して突き進むこと1分、いや30秒か?巨人の位置から、東隊と合流が見込める位置まで来たことを確認したところで事態が急転した。
「新顔か!?貴様らのどちらかがエリアヒール持ちだな!ここで殺してやる」
乱戦必死の戦場で私の後方から聞き覚えのある嫌な声がするカールトンだ。ヤバイ、これは死ねる。
「凍れ!!」
そう言うと半径100メートル位の範囲を味方ごと凍らせるていく。
私は、後方にギリギリ見えたカールトンに向かい槍を投げたが、地面から伸びた氷の壁に阻まれる。
あれ?体がしびれて動かなくなってきた。ヤバイ。離脱することも凍ることを拒否すらできず思考が鈍くなる。
どごぉぉぉ!
次の瞬間、爆音と共に感じたのは体を突き抜ける熱風だった。温かいなんて生易しいものではない、これも浴び続ければ簡単に死ぬ類のものだ。
「カールトォン!!」
見たこともない鬼の形相のイオリさんが目の前にいた。先ほど一瞬で凍り付いた戦場は大きな穴と焼け野原に代わり、私たちを追い立てていた敵兵のうち穴の周りにいたはずの兵が消滅していた。そう跡形もなくだ、蒸発でもしたのだろう。
「やってくれたわね!!」
そういうと、ゴブリンの洞窟でみたものよりも圧倒的な魔法の力を籠め、解き放つ。
私は直前にマジックシールドがかけられてるいる感覚があったにも拘わらず、痛みすら感じるほどの熱風に顔を背ける。
次に顔を上げ目にした光景に驚愕する。先ほどの焼け野原はもうなく、私の視界にあるすべての大地が深く抉れ【マグマ溜まり】ができていた。しかしその中心に、氷結の二つ名が似合わない燃えた服を着たカールトンが立っていた。それは火を司る死神のようだ。
私の見立てでは奥行はわからないが、横は一キロくらいの空間すべてが焼失していたのだ。あったはずの兵の死体も、巨人も、魔導兵器の残骸も、カールトンを残して消えていた。
「イオリ、そこまでだ!」
そういうと、昂暉さんが私の横を通り過ぎる。イオリさんが振り向き戦闘態勢ではあるものの少し顔には安堵の表情が見える。
「カールトン将軍!待たせてすまない!交渉の準備ができたので、兵を引いてもらうぞ。」
そう昂暉さんのセリフに、少し間が開いてカールトンが反応した。
「ふふふふふ、化け物が…元帥殿!交渉の旨を了承した!だが、こちら側の隊に引く兵など残ってないがな。対岸の兵はきちんと生きて返せよ!」
そういうと、カールトンはマグマだまりの一部を凍らせて後方に引いていく。カールトンが言ったようにイオリさんの後方にいた東隊と接敵していた兵と巨人族一人を除くと生き残った敵兵など見当たらなかった。後で聞いたことだが、戦闘中に後方から兵を補充していたのでヴィルヘルム軍側も2000近くには膨れていたようだが、イオリさんによって一掃された。
「ごめんなさい。唯さん、木梨君、ケガはない?平気?」
先ほどの鬼のような形相とは打って変わり、柔和で泣きそうな顔に戻ったイオリさんは謝罪する。
「この組織に居れば安全だなんて言って…守ってあげられず、本当にごめんなさい。」
立ち上がる気力かないほど体は脱力し、マグマから上がる熱にさらに体力を奪われながらも答える。
「いえ、約束通り助けていただきありがとうございます。」
「ありがとうございました。」
私に続き、すぐに木梨君もお礼を告げ、その反応にイオリさんは大粒の涙を流して嗚咽を漏らす。
「本当にすまんな、俺の作戦ミスだ。イオリ!反省は後だ!赤坂に戻り状況を整理するぞ!けが人も捕虜いるんだ。」
私達に軽く頭を下げた昂暉さんは混沌とした状況を終結させるため動き始める。
「はぁ、私生きてる!」
私はそう笑うように叫び、意識を手放した。
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