第25話 スキルを紙面で見てみよう
「あれ?…あぁそうか」
目を覚ました私は体を起こして周りを見回す。私の部屋だと安心するのに時間がかかる程度にしか慣れていない部屋だ。
自分の記憶をさかのぼると、木梨君と戦場を駆けずり回って最後にイオリさんに助けてもらったところで記憶が無い。
私だって、幼気な少女だ。死を感じながら、槍をふるい魔物を人をと次々に殺していったのだ安心から緊張の糸が解けて気絶してもおかしくない。
そう思い返すと、今になって少し罪悪感がある。生きるためとはいえ、同じ言葉をしゃべり、家族や友人がいて、私と似たようなバックボーンを持つ人間を自分手で殺めたのだ。
それも、【私が生きるために】という理由で…
戦闘中は夢中で人と対峙していることに違和感を持たなかったが、冷静に振り返ると自分が殺人を犯したことに動揺がある。これが戦争なのかと初めての実感する。
だか、食肉だって似たようなものだ、弱肉強食だ、うまく呑み込もう。そう決意を新たにベットから立ち上がる。
トントントン
扉をノックする音に心臓が跳ねる。まるで、本当にそれでいいのか?人を殺してそんな簡単でいいのか?と尋ねれてるような気がした。また、罪悪感に蓋をしたコップからこぼれる様に溢れだした気分になる。
「起きてますか?」
ノックがあったのだ。当たり前のようにそこに人がいることをなぜか失念していた。冷静とは言えない。控えめなトーンでかけられる声の主は八神さんだろう。
「あ、はい!すみません少し待って下さい!」
「あ、起きたばかりかな?また出直すよ。」
「いえ、手間なのですぐ準備します。1~2分お待ちください。」
私は八神さんを待たせると手早く洗面台で顔洗う。先ほど感じた罪悪を洗い流すかのように強く顔をあらい、そして目線を上げる。鏡に映る自分の顔が過不足なく香川唯だと確認する。時間を空けると余計戻れなくなる気がした。
はぁ、ノーメイクだけどいいか。
「お待たせしました。」
誰かが着替えさせてくれたのだろうか見慣れない寝間着にノーメイクのまま、扉を開けて年上の男性である八神さんを迎え入れる。
「ごめんね、大丈夫?ただ、様子を見に来ただけなんだけど」
「いえ、起きたばかりですが体調的には問題なさそうです。」
さっき感じた一抹の不安を心の奥にギュッと押し込み、強がって見せる。
「そう、それはよかった。それじゃ、まず」
八神さんが、そういうと深呼吸をした。
?
「ばかやろう!!」
あまりの、急展開に付いていけず目が点になる私。
「戦力の報告と行動方針を決めるのは俺だ!勝手に判断して飛び出すなんて二度とするなよ!」
すごく真っ当に怒られました
「本当に、本当に生きていてよかった。」
そういうと、八神さんは顔をさげ私の肩にそっと手を置く。
心配をかけたのか。。気を落ちしていたせいもあり、普段なら「セクハラです!」の一言でも飛び出すところだが素直に反省する。私は、それほどの危険を犯したのだ。
「すみません、焦ってしまい。」
「いや、これは今後はそうして欲しいという俺からの願いだ。ただ結果論でいえば、あそこで無理に動いてくれて助かった。おかげで死者が0で済んだからね。」
「本当に感謝する。ありがとう。」
「いえ、私は自分のしたいようにしただけで…」
私の謙遜を食い潰すように八神さんが続ける。
「それでもだ、部下の死は上の責任なんだ。行動を決めてるのは俺だからな。言い訳になるが【バニシエス】はゲートの使い手でカールトンの副官なんだけど、あれだけのコマに特攻をさせるとは想像もしていなかった。」
ゲート…あの時空魔法を見た瞬間、直感的に理解した気がした。空間を司るとはどいうことか、だからあの時にゲートに干渉ができたのだろう。
「正直な話、君らが奥で暴れたおかげで援軍の圧が弱くなり東隊も生き延びたんだよ。我妻さんが合流する時間を作ってくれた。」
「もし君の能力を正確に理解していても、たぶん俺には君を木梨君の救出に向かわせる選択は出来なかった。だから、本当に感謝するしかない。君の判断に、勇気に。」
そういって、八神さんは再び頭を下げる。
最初に怒鳴ったのは本心でもあり照れ隠しでもあったのかもしれない。だって、八神さんもいい年に見えるのだから、私のような小娘に頭を下げるなんて勇気がいる。
それでもそうするのは、きっと私たちは異世界にいた時間が違うだけで、同じ日本人で戦争なんかとは無縁で、人の命を大切にしたいんだ。だから、自分のミスが生死直結することにものすごいプレッシャーがあるし、身近なものの命に対して責任感が強いに違いないんだろうと想像した。
イオリさんも昂暉さんも同じだろう。
そう思うと、さっき感じていた罪悪感がなんと陳腐な偽善なのだろうと思った。所詮私たちは平和ボケした日本人だ。生きてくために精一杯頑張るしかない、戦争なんてみんな嫌いで、でも守りたいものもあって、だから選んで頑張っているんだ。イオリさんが平原にあった命を無にしてまで選んだ命があるんだ。
そう考えると急に恥ずかしくなった私は、精一杯に茶化してみたくなった。
「ありがとうございます!やっぱりいい判断でした!じゃ、この功績で賞与が出ますかね?」
ふざけた口調の言葉に、想定した反応ではなかったのだろう、八神さんは一瞬ポカンとするとこういった。
「調子に乗んな!馬鹿野郎!」
一瞬崩れた表情の後、おどけたように怒鳴る八神さんの破顔一笑は、とても素敵で、この時のことは一生忘れないだろうと思った。
そのあと、しばらく八神さんは今の状況と、あの後の事と、今後の事を簡単に話し席を立つ。
「あぁ、そうだこれ」
そういうと、胸ポケットから一枚の紙を渡された。
「ユニークの顕現おめでとう。我妻さんから預かった。細かい内容は昂輝さん達が帰ってからゆっくり話そう。それじゃ、また後でね。」
「はい、また後で」
そう言うと八神さんは足早に退出する。
部屋を出ていく八神さんを目線で確認してから、私は手元にある紙に目を落とす
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名前 香川唯
性別 女
年齢 24
身長 174
体重 56
所属 東邦義勇軍246
種族 人種土人族
職業適性 サポーター
ユニークスキル ウィッシュフルスペース (願いを届ける空間)
スキル 収納lv4 槍lv3-飛槍lv1-突撃槍lv2 時空魔法lv1 水魔法lv1 火魔法lv2
相対的身体ランク D
相対的魔法ランク C
相対的戦闘ランク C
犯罪歴 なし
称号 なし
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これは我妻さんのユニークスキルでノウリッジディスクリプション(すべてを知る記述)という鑑定スキルらしい。
対象を視認した状態で鑑定したい事を意識すると自動書記してくれるらしく、紙に書かないといけないとか書いてる最中意識が飛ぶとか癖はあるが、この世界で唯一無二の最高精度の鑑定能力らしい。
それは良いが体重も載ってるぞ?ふざけんなよ。私の公式は身長172で体重は52だ。おぼえとけ!それ以外は認めないぞ。
いきなり前回見たときはなかった項目に気を取られてしまうが、気を取り直して確認する。ユニークスキルは見当もつかなかったが名前を見て色々合点がいく。まぁ、よく分からないユニークスキルの考察は早々諦めて、私的に一番うれしいのは収納がレベル4に上がったことだ。もはや、昂暉さんの知る限り唯一無二の収納レベル4保持者になった。ということは私の第2のユニークスキルと言っても過言ではない。
収納を発動させると私と感覚的に繋がった空間のサイズが分かる、大き目のリビングルームだった空間は体育館程度まで広がり、しかも時間を止めることができることが分かる。
まさかの生ものを保存出来ることに歓喜する。ダンジョンにいた時はどうしても干物や保存食が多く、米があるだけありがたいと思っていた。しかし、これで遠征中の食事が大幅に改善されることが決まり、なんなら作り置きすら可能になり表情のにやにやが止まらない。しかも、部屋の角に意識して槍を召喚し、また収納する。手元から5メートルも離れたところで収納に出し入れができた、これは便利度が格段に上がるのは想像に容易い。距離は後で要検証だな。チートスキルといって過言ではない成長を遂げた私の収納に小躍りしながら、スキル表に目を向ける。
重要なことは無視して自分の興味ばかりに意識を向けていたが、新しい項目に気づく。ランクが出てる?身体的ランクと魔法ランクと戦闘ランクか…基準は冒険者ランクみたいなものだろうか?というかこれだけ槍を頑張っても適性職はサポーターなのね。まぁ、収納lv4だしいいか、後でランクとか聞いてみよう。
収納が上がるならサポーター万歳です!
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