第2話 異世界さんこんにちわ

「異世界さんこんにちわ。

私の名前は、香川唯と言います。

今困っていますが少しよろしでしょうか!?」

120dbはある声量での自己紹介だった。


なぜ、このようにトチ狂ったことを叫んでいると言えば、これが私なりに残された最後の手段だったからである。神様にお願いごとを言う途方もない手段だ。


ちょっとした小高い丘から見下ろす光景は、360°見渡す限りの平原で、目に映るものと言ったら適度に茂った芝草と牛のような謎の草食動物しか見当たない。


そして、この丘で目を覚ましてから、すでに2時間は経とうとしているが、一歩も動けずにいる。


この場所が異世界だと決めつけることにしたが、待てど暮らせど神様は現れず、ステータスウィンドウも開かなければ、手からは火も出ない。

もしやと思い、目から光線を放ってみるがアメリカ産ヒーローってわけでも無いようだった。


異世界でのチートスキルや生産系知識チートなどは胸躍るワードだ。何しても現代日本では、いたいけな少女でも、異世界では立派なレディとして大成する可能性に期待ができる。


しかしハードモードなのか?この場に留まっていても何も変化はない。


それでも、ここが異世界だと半分断定できるのはギリギリ目視できる謎の草食動物の存在だった


2時間ほど観察しても特に動きを見せずにたむろしているようだが、一匹はずっとこっちを見てる気がする。


コワイ


そんなこんなで、移動して襲われるのも


コワイ


他の未知なる生物に遭遇するのも


コワイ


いろいろ試したが自分が平凡であることが


コワイ


「く、くそげーか...移動も出来ないかも」


八方ふさがりの中、あきらめて草食動物(だといいな)がいる方向とは逆の坂に少し下ったところで用をたす。


女としての尊厳がなくなるのが


コワイ


これが、この二時間の出来事で時間の経過とともに恐怖心が膨れ上がり、奇行に走る理由だ。

大声を出すしか出来ない私がせめてもの祈りを神様に届ける。

しかし、神様は知ってか知らずかこの状況に変化をもたらす。


どんっ!


短いが大きな破裂音の後に謎の草食動物が走り出す。


そう、この丘を方角をめがけて…


「や、ヤバイ。どうしようか」


私は、慌てふためきながら、ヒールを片手に今いる丘を草食動物の進路とは直角になるように走って下り始める。


私だって、弱肉強食ぐらいは知っている。

おそらくだが、草食動物の向こうには肉食動物がいて追われているのだろう。(根拠はない)だから、自分は奴らの進路から、ずれるように逃げることで助かるかもしれない。


そう思って丘を転がりそうになりながら下りきった。そして、頂上見るように振り向いき後悔する。なぜ、振り向いてしまったのだろうか。それが、人間の性で興味というものだろう。


丘の頂上にはTレックスを想像させるフォルムの恐竜がいた。


逆光のため色は黒く見えたが、そのサイズは草食動物の3倍はあろう体躯に、二足歩行ができる大きな足と短めだが鋭い爪のある手、そして口には一匹の草食動物が鋭利な牙に挟まれ咥えられている。


一瞬で体が硬直するのがわかると、どんっと腰が地面にへばりついてしまった。


強力な磁石のように離れるはずのお尻と地面は

どんなに力を入れても引き合っている。


身震いがするような、鈍重な動きでレックスはこちらをみた。


せっかくの獲物がいるのだから、そちらに夢中になっていればいいものを黒いスーツにハイヒールを持ち歩く女性が珍しいのか、田舎の小僧のように上下に首を振りながら近寄ってくる


「ぅ、っぁ」


もう、声も出ない。


だだっだっだだだだ


今度は右から音がする10匹程度の謎の草食動物が私めがけて突進してくるが、視線を向けることがやっとで逃げだすこともできない。


すると先頭を走る草食動物が物理現象では考えにくい縦に一直線の切れ目で二つに分かれて倒れる。すると、他の草食動物は後方に振り返り進路を変える。


とりあえずの危険がなぜ回避されたのかは不明だ。しかし、それだけでは終わらない。草食動物の足音が遠ざかると。


どしんどしん。


今度は丘の上から音ががする。頭を振って山頂を見るようとするが、目の前に佇むレックスによって視線を山頂に戻すこと叶わない。


近くに来た本物の恐竜に対して私は目を離すことが出来ない。死の恐怖をこれほど身近に感じたことはなかったが、不思議と恐怖とは別な特別な感情に支配されている気がした。


するとレックスは、私の射程範囲に収めるとゆっくりとしかし、私が逃げれないぐらいのスピードで頭を下ろして大きな口を開けた。


これが、私の人生が終わった日だった。








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