教会編 7話 新たな聖女を作るですか……。


「久しぶりだね。みんな」


 光の中から現れた少女は、私よりも少し年上くらいの短髪の少女で、大きなリボンを頭につけています。

 少女は四本の剣を背負い、小さな体にも関わらず、私達とは別次元の魔力を発しています。

 私が今まで出会った人の中で、一番強く、一番恐怖を感じた人物です。


「お久しぶりです。サクラ様」


 姫様が頭を下げましたので、私も頭を下げます。


「ネリーちゃん。君は女王陛下なんだから、私に頭を下げなくていいよ。こんなところを一般の人に見られたら大変だよ」

「ふふっ。神々の王であるサクラ様に頭を下げるのは当たり前の事ですよ。それで、今日はどういったご用件で?」

「うん。ちょっとレティシアちゃんの行動をのぞき見していたら、大量殺人を起こそうとしていたから、一応止めに来たんだよ」


 ふむ。

 堂々と覗き見と言われると、少し気分が悪くありませんが、まぁいいです。

 それよりも大量殺人とは何でしょう?


「はて? 私は意味もなく大量殺人を起こそうなんて思っていませんよ。教会の連中が腐っているから、滅ぼそうとしているだけです」


 まったく、これは正しい行為なんです。それを大量殺人とは失礼な人です。

 しかし、私の行動をのぞき見していたという事は……。


「私の行動を監視していたという事は、サクラさんがこの世界を管理する事になったのですか?」


 サクラさんは神様達の王様だそうで、異世界の女神だそうです。

 アブゾルがいなくなった今、この世界に神様はいません。

 

 もし、サクラさんがこの世界の神になってくれれば、この間の勧誘もなしという事になります。


「あははー。前にも言ったと思うけど、私は神々の王だから、この世界だけには留まれないんだよ。だからこそ、レティシアちゃんに神になってほしいんだけどね」

「嫌です」


 何度勧誘されても、嫌なものは嫌なのです。

 しかし、この話を初めて聞いた紫頭は、顔を青ざめさせて首を横に振っています。


「こ、こいつが神? 普通にダメだろ……。世界が滅んじまうよ……」


 神になどなる気はないですが、世界が滅びるとまで言われれば少しだけムッとします。後でお仕置きをしましょう。


「サクラさん。こちらも前に言いましたが、神になるつもりはありません」

「あはは。別に無理強いはしないよ。ただ、私が個人的に勧誘しているだけだよ。それよりも、今は大量殺人のお話だね」

「大量殺人? 何を言っているのですか?」

「いや、それはこっちのセリフだよ」


 サクラさんは呆れた顔をしています。なぜでしょう。


「あのねぇ。今、教会の人間を皆殺しにする、という話をしてたでしょう? これは大量殺人だよね?」

「はて? 私は必要のないものを排除しようとしているだけですよ。私が殺すのは、いまだに髭爺を崇拝しているような屑です。この国の神官であるリチャードさんのような人は殺しません」


 実はこの国には私が滅ぼした教会以外にももう一つ教会があります。

 そこの教会は神官さん一人で運営している教会で、孤児院を円滑に運営するために教会の名を使ってます。

 私は姫様のお使いで、リチャードさんの孤児院によく行くのですが、一度だけ髭爺を崇めないのか聞いた事があります。

 リチャードさんは私の問いに、「神に祈ったところで、子供達のお腹が膨れるわけがありません。しかし、今のこの孤児院は教会という建前の下成り立っています。だから、私が神に祈っておかないと、子供達が飢えてしまいます」と悲しそうな顔をしました。

 このリチャードさんの判断は正しいです。


 この国の教会にいた教皇は、金欲に塗れたクズでしたそし、神である髭爺は、自分の欲に忠実な下衆でした。

 昨日、お城に抗議に来た連中だって同じです。


 彼等の要求は私の身柄の拘束です。

 仮に、彼等に拘束されていたとしたら、私はどうなったでしょうか? おそらくですが、辱めを受けたうえで、殺されて晒されていたでしょう。


 少なくとも、あの枢機卿とやらの手紙からは、私を殺す事を、正義と言わんばかりの傲慢さが感じられました。


「サクラ様。今この国は、教会という脅威に晒されています。その原因はレティです。ですが、たった一人の少女を売ってまで、教会に頭を垂れるつもりはありません。レティにこの国を救われて、それなのに国のために売る。そんな事をこの国の誇り高い国民が許すと思えません」


 姫様がそう言ってくれるのは嬉しいですが、私が消えれば、全て丸く収まるのではないのか? とも思ってしまいます。


「レティ。自分がいなければいいという顔をしているわよ」


 姫様は凄いです。何故か、バレてしまいました。

 しかし、私がいなければ、この国が世界から敵視される事もないというのも、また事実です。


「サクラさん。私が大量殺人を行った場合、敵に回るのですか?」


 もし、そうだとすれば、命懸けで戦わなくてはいけません。サクラさんはそれほどの強さなんです。


「敵に? それはないよ。基本的に、神は国同士の争いには介入しない。でも、馬鹿正直に教会を潰す事よりも、もっとうまく教会を利用・・しないと……」

「どういう事ですか?」

「別に教会だからと言って、アブゾルを崇める必要はないんだよ。つまりはね……」


 なるほど。

 つまりは、別の神を用意しろと……。

 

「例えばだけど、レティシアちゃんが勇者・・を名乗り、神に選ばれた聖女を連れて世界各地を回る。いや、世界を回る事もない。魔王から会談の申し込みがあるんだよね? それを使って、魔王城に乗り込み魔王と和解。これで教会は黙らせられるよね?」


 ふむ。

 確かにそれならば、教会の人間を殺さなくてもいいのですが……。

 いえ、教会が簡単にそれを受け入れるかどうかですが……。


「レティシアちゃん。良い事を教えてあげるよ。別に教会がレティシアちゃんを受け入れる必要が無いんだよ」

「はて? しかし、教会を納得させなければ……」

「納得もさせる必要はないね。要は結果を出してしまえば、教会は何も言えなくなる。和平を結ぶ事が出来たにも拘らず、魔族を滅ぼせという教会を世界中の人間はどう思う? やっと終わる魔族との戦争を、神の意志という目に見えないもので再び引き起こそうとする教会を誰が信用するの? つまりは、こちらが教会を受け入れる必要が無いんだよ。あっちが受け入れるしかできないんだ」


 確かに、その方法ならば全てが丸く収まりそうなのです。


「もし、この茶番をする事で教会を止められれば、後は隣国だけに集中できるでしょ?」


 ふむ。

 さすがはサクラさん。

 マイザーの事も知っていたのですね。

 まぁ、マイザーの事もあちらの王を殺せば済むのですけどね……。


「もし、仮に教会を押さえられなくても、魔族との和解はこの国にとっても有益だと思うよ」


 えっと……。そうですかね?


「それは分かりました……。しかし、聖女を作るといいますが、どうやって作り出すのですか?」

「レティシアちゃんなら簡単だよ。魔力を分け与えればいい。でも、カチュアちゃんは止めた方が良いね。「なぜですか!?」いや、君は暴走しやすいからね。そうだねぇ……」


 サクラさんは目を閉じます。

 そして教会の方を指差し、目を開きます。


「この国の教会にレーニスという女の子がいる。その子を聖女にすればいいんだよ」


 私はサクラさんが口にした名を聞いて驚きました。

 レーニスちゃん……。

 孤児院で私に懐いてくれている女の子です。

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