第11話 国王はツルツルです。犯人は私ですけど


 クーデター決行の日まで二日間、宿で暇を持て余していた私は国王の部屋の場所を調べに行きます。いえ、国王の部屋だけではなくお城全体を調べておいた方が良いでしょう。

 しかし、これだけ調べてもエレンのお墓が見つからないとは……。姫様は嘘を言っているように思えませんが、一体どこにあるのでしょう。


 城の全体像を把握した私はあまりにも暇だったので国王の寝室に忍び込みます。

 国王は偉そうで立派な髭と髪の毛を持っていたので寝ている間に全て剃っておきます。

 これでツルツルの完成です。

 とはいえ、人間の男性は髭が一日で伸びてしまいます。毛が生えない様に念じておきましょう。

 すると、本当に二日間の間は毛が生えなかったようです。

 ツルツルでよかったです。


 しかし、立派な髪の毛と髭が無くなった国王の顔は明らかに違いますから、侵入したのがバレると思っていたのですが、どうやら周りの人間は国王に何も言えないのか誰も何も言いません。それどころか、国王自身も気付いていないようです。鈍い人です。

 まぁ、誰も何も言わないという事は、あの立派な髭と髪の毛は最初から必要がなかったのでしょう。



 そして、クーデター決行日になりました。

 レッグさんから迎えに行くと言われていたので私は宿屋で待ちます。

 それにしても、まだですかね? 早く国王を殺したいのですが……。そう思っていると、扉を叩く音が聞こえます。

 レッグさんですね。


「レティシアちゃん。迎えに来たぞ……。行く前に一つ聞いていいか?」

「はい?」

「お前……。国王に何かしたか?」

「はい。頭から上の毛を全て剃りましたよ? それが何か?」

「どうやってだ?」

「寝室に忍び込んで剃っただけですが?」

「な……!? は、はぁ……。まぁ、いい。行こうか」


 レッグさんは呆れた顔になっています。レッグさんも知っているという事は姫様もツルツルの顔を見て笑っていただけましたかね。


 レッグさんに連れられて城の姫様の部屋に行くと、姫様も疲れた顔をしています。どうしたんでしょう? クーデターを起こす前から、その顔では最後まで持ちませんよ。


「レティシアさん。おはよう……。お父様の寝室に忍び込んだのね?」

「え? あ、はい。暇でしたので」

「そう……。もしかして、暗殺しようと思ったら、いつでもできた?」

「はい。警備がザル過ぎましたので、暗殺は可能でしたよ。正直、もう少し楽しめると思ったんですけどね。さて、ツルツルの事はどうでも良いとして、姫様、私が二日前に言った事を覚えてますか?」

「えぇ。クーデターを起こす一時間前にレティシアさんが敵だけを殺し尽くすという事だったわね。私の味方には赤いハンカチを持たせてあるわ。それと、これが私の仲間の配置場所にと部屋になるわ」


 お城の見取り図ですか。

 はい。

 覚えましたよ。


「はい。ではこの配置以外にいる者にはみんな死んでもらいます。では、行ってきます」


 私は愛用の剣・・・・を右手に持ちます。

 この剣は、エレンとこの王都に遊びに来た時に買った安物の剣です。いえ、安物でも私にとっては宝物です。


 私は剣を右手に持ち、左手にナイフを持ちます。ナイフは、収納魔法に大量に入っています。お城にいる騎士は五百人ほど。このくらいなら、一時間もあれば殺しきれるでしょう。


「姫様。お城の中の敵はこれ以上増えますか? 増えてくれないと面白くないのですが……」


 私がそう言うと、姫様は苦笑します。


「これ以上増える事は無いわよ。軍部の殆どは私の味方だからね。貴族が大半の騎士はお父様に付いたみたいだけど。それに、お父様派の騎士は全員、城の警備に当たっているわ」

「はて? 随分と厳戒態勢ですね」

「誰かさんが国王の寝室に侵入したからね」

「あ、バレてたんですか?」


 それは意外です。気配は完全に殺して侵入してたんですが。


「流石にお父様の髭と髪の毛がツルツルになっていれば、馬鹿なお父様でも気付くわよ。今日でお父様とお別れなのに、あの顔は……。笑いを堪えるのに必死だったわよ……」


 姫様は思い出しように笑っています。

 ん? それは姫様が笑いを堪えていたからバレてしまったんじゃないですか? 


「姫様。約束通り一時間経ってからクーデターを起こしてください。あ、貴女達の血・・・・・は一滴も流させませんから安心してください」

「分かったわ。無理はしないでね」

「はい」


 私はその事だけを伝え、姫様の部屋から出ます。


 さて……。

 始めましょうか。



 しかしですねぇ……。

 ここのお城の騎士は侵入者がいたにもかかわらず警戒すらしないのですか? 全員が気が緩んでいる様に見えます。


 さて、目の前の弱そうな騎士さん。貴方が、最初の生贄です。



 それから約五十分かけて、姫様のお仲間以外の騎士を全て殺し尽くしました。

 あのお城の見取り図によると生き残っているのは国王の間にいる護衛騎士と国王だけです。

 騎士達からは様々な断末魔を聞かせて貰いました。一番面白かったのは、「勇者様がこんな事をお許しになるわけがない」ですかね。まぁ、最終的にはウジ虫も殺す予定ですけどね。

 

 私は国王の間の扉を蹴り砕きます。

 部屋の中には怯えきったツルツルと護衛騎士が二人立っていました。

 護衛騎士は私に向かい殺気を放っています。


「あのー。殺気を放っているのならかかってこないのですか?」


 私は護衛騎士に尋ねます。

 そう聞いても襲いかかってこないのは怠慢だと思いますよ。

 私はナイフをツルツルに投げつけます。まぁ、少しでも腕のある騎士なら始めるほどの速さで投げましたから、防げるでしょうね。

 護衛騎士はナイフを叩き落とします。


「よくできました。次は、少しだけ速く投げますよ」と、今度は護衛騎士に向かってナイフを投げつけます。とはいえ、この程度で死なれても困りますから、弾き落とせるギリギリの速度で投げつけます。

 そのうち疲れてきて弾き落とせなくなると思いますが、死なないようなところを狙っています。

 護衛騎士は必死に叩き落しています。今のところ一本も体に刺さっていません。

 

「凄い凄いです。外にいたゴミのような騎士とは違いますね。ちゃんと弾き落とせているじゃないですか」

「き、貴様!! なぜこんな事をする!?」

「え? 理由なんて簡単でしょう? 貴方がたを殺し尽くす為ですよ」


 私はナイフを投げるのをやめてツルツルに向かい殺気を放ちます。


「ひぃっ」

「はぁ……。国王というモノが、この程度の殺気で怯えないでください。情けない」


 護衛騎士は私の標的が国王に移ったと思ったのか襲いかかってきますが……。

 はぁ……。拍子抜けです。

 先ほども言いましたが、襲いかかってくるのならば殺すつもり・・・・・でかかってきてください。


 でないと……。


 何もできないまま、殺してしまいますよ。

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