第12話 姫様は良い匂いですね。


 護衛騎士達は私の腕を狙って斬りかかってきます。

 狙いがバレバレなうえ、遅すぎるんですよ。


 私は一人の護衛騎士の剣をすんでで避け、剣を持つ腕を掴み斬り上げます。

 腕を斬られた護衛騎士は痛みで一瞬だけ動きが止まります。

 駄目ですよ。

 戦闘中はどれだけ痛くても動きだけは止めてはいけません。

 動きを止めれば、こうやって首を落とされますよ。


 私の振るった剣で護衛騎士の首が飛び、鮮血が噴き出します。

 私は血がかからないように胴体を蹴り飛ばします。


 もう一人の護衛騎士は首の無い騎士を凝視しています。


「ひぃいいいいいい!!」


 護衛騎士が目の前で殺された事でツルツルは悲鳴を上げて玉座で震えています。逃げようとしないんですかね。

 まぁ、逃がしませんけど……。


「何を呆けているんですか? お仲間が殺されて放心しているんですか?」

「ま、待て。お前の目的は何だ?」


 護衛兵は声を震わせています。

 怖いのですか? まぁ、どうでも良いんですけど。


 む?

 人の声が聞こえます。どうやら、クーデターの時間が来たようですね。ここに来るのも時間の問題でしょう。

 その前に護衛騎士の質問に答えてあげましょう。


「私の目的は貴方達を皆殺しにする事です」

「ふ、ふざけるな!! 我々にはお前に殺される理由はない!?」


 理由がないですか……。

 まぁ、貴方達からすればそうなのかもしれませんね。


「でも、貴方達貴族はタロウの愚行を見逃していたんでしょう? それに恨みを持つ者が来るとは思わなかったのですか?」


 私はナイフを玉座に刺さるように投げつけ、ツルツルをこちらに向かせます。


「ひ、ひぃ」

「ツルツル。貴方にも聞きたい事があります。貴方が呼びだした勇者ウジ虫……いえ、正式名称はタロウでしたね。アレが勝手に選び出した聖女エレンが自ら命を絶ったというのに、エレンが教会などに乏しめられなければいけない理由は何ですか?」


 私が一番聞きたいのはここです。

 本来であれば愚行を起こしたウジ虫が非難されるはずですのに、どうして被害者のエレンがここまで乏しめられなければいけないのか。


「ま、まさか。あの小娘一人の為に、ここまでの事をしたというのか?」


 護衛騎士は信じられないと言った顔になった後、体を震わせます。怒りに震えているのでしょう。

 私は先に殺した護衛騎士の頭を生き残っている護衛騎士に蹴ります。


「そうですよ。貴方達が乏しめるエレンの命は首だけになった護衛騎士よりも遥かに重い。いえ、この護衛騎士など私にとってはゴミと変わりません」

「ふざけるな!! こいつは良い奴だった!! 家族思いの良い奴だったんだ!!」


 そうなんですか。

 家族思いの良い人だったんですね……。

 でも……。


「それがどうかしましたか? このゴミがどういう人間だったかどうかなんて興味もありません。敵になった以上はゴミと変わりません」

「な、なに!?」

「じゃあ、逆に聞きますが、貴方はエレンの何を知っていたんですか? 貴方が蔑んでいい少女だったんですか?」

「そ、それは……」

「自分達が殺されれば人となりを知れ……ですが、自分達が殺せばそれが正義と言いたいのですか? そんな事あり得ますか? それはあまりにも都合がよくありませんか?」


 私は剣を護衛騎士に突きつけます。

 護衛騎士は何も言えなくなったのか、握っていた剣を落とします。


「あれ? 抵抗しないのですか? 別に良いんですけど」


 全く抵抗しない護衛騎士の心臓を一突きします。

 護衛騎士は涙を流しながらその場に崩れ落ちます。

 まったく、何を勘違いしているんですかね。貴方達に涙を流す資格はありませんよ。

 私は護衛騎士を焼き尽くします。

 これで残るはツルツルだけです。


「ひ、ひぃ!?」

「安心してくださいね。まだ、殺しませんよ」


 私はツルツルの両手を玉座にナイフで固定します。


「ぎゃああああ!!」

「うるさいですよ」


 私は黙らせるために太ももを斬りつけます。


「ぎゃああ!!」


 あ、更にうるさくなってしまいました。どうしましょうか……。

 まぁ、いいです。ここで姫様を待ちましょう。


 暫くすると、姫様達が王の間へと入ってきました。


「レティシアさん。お父様をまだ殺してはいないのね」

「はい。最後の別れが必要かと思いまして」


 姫様は玉座に縫い付けられたツルツルを哀れんだ目で見ている様です。


「お、おい。ネリー、私を助けろ!!」


 ツルツルは必死になって姫様に助けを求めています。ですが、姫様は呆れた顔をしています。


「レッグさん。国を立て直すのにお金がいるからあまり贅沢はできないけど、玉座だけは買いなおさないといけないわねぇ。流石にアレには座りたくないわ……」

「ね、ネリー!? キサマは父親がこんな目に遭っているのになぜ私を助けん!? ま、まさか、この者を呼び込んだのはキサマか!?」


 ツルツルが必死に何かを言っていますが、姫様は無視をしています。


「ねぇ、レティシアさん。お父様は痛みを感じていないようだけど何かしたの?」

「はい。あまりにもうるさかったので痛覚を麻痺させていますよ」

「そう……。まぁ、話ができるのであれば問題はないわ。お父様、レティシアさんはもともとこの城……いえ、国を跡形もなく消し去る予定だったのよ。でも私が交渉して止めたの」


 確かにアレは交渉です。


「もし、そのままレティシアさんを放置していれば、国民にも被害が出ていた可能性だってあるわ。私は、貴方の命と国民の命を天秤にかけただけよ」

「ふ、ふざけるな!! 私は国王だぞ!? 国民などどうでも良い。私を助けろ!!」


 清々しいほど屑ですね。

 このツルツルの発言にレッグさんも呆れています。


「あんたは国王だったから今まで言わなかったがな……、あんたはもう国民からも見捨てられているんだよ。大体、タロウの愚行を止めなかったあんたに誰がついていくんだよ」

「ふざけるな!! この国にいる以上は私に付いてくるのが義務だ!! 国民の命と私の命のどちらが重いかなど考える必要もないわ!!」

「本当に清々しいほどの屑だな。流石はタロウの被害者を無理矢理犯罪者に仕立て上げるだけはある」

「レッグさん。その話は私は知りません。どういう事ですか?」

「あぁ。コイツはタロウの被害を訴えて来た人達をことごとく処刑したんだよ。そのせいでタロウの被害を受けた人達は何も言えなくなったんだ」

「それは酷いですね」


 私はツルツルを睨みます。


「た、タロウは勇者だ!! それくらいしなければこの国に繋ぎとめられんだろうが!! そのくらいも分からんのか!?」


 繋ぎとめる?

 まさかと思いますが、そんなくだらない事の為にエレンは酷い目に遭った上に死後乏しめられているのですか?

 もう殺しましょうか……。


「レティシアちゃん。まだ駄目だ。もう少し殺気を押さえてくれ」


 ……。

 チッ。

 私は仕方なく殺気を押さえます。


「レティシアさん」


 姫様は私をそっと抱きしめます。ふむ。良い匂いがしますね。


「もう少しだけ、話をさせて。もう少しだけ……」


 私は黙って頷きます。


「さて、お父様には最後に聞きたい事があるわ。魔王を討伐するのに勇者の力が必要なのはわかるけど、彼はいつになったら魔王を倒してくれるの? もう、彼を召喚して数年経つけど、魔王を倒さないから魔獣の被害は一向に減らないわ」


 ん? 

 姫様は不思議な事を言いませんでしたか?

 魔王を倒せば魔獣の被害が減るんですか? 私はレッグさんに聞いてみます。


 レッグさんが教えてくれましたが、勇者の召喚に至った理由は魔獣の被害が増えた事が原因だそうです。

 ウジ虫を召喚した理由は分かりました、しかし腑に落ちません。


 確かに魔族の中には、魔獣を使役する者もいると聞きますが、魔獣は所詮は獣でしかありません。だから、魔王を倒したところで、魔獣の被害が減るとは思えません。


「レッグさん。魔王を倒せば魔獣は減るのですか?」

「え? そうじゃないのか?」

「一応聞きますがファビエの王を殺せばファビエ国民、ファビエにいる獣は消えますか?」

「いや、消えるはずがない。ま、まさか!?」

「そうです。確認をしていないからそうだとは断定できませんが、魔王を倒したからといって魔獣が消えるとも限らないんでは?」


 私がそう言うとレッグさんと姫様の顔が驚愕に染まります。


「もし、レティシアちゃんの言っている事が正しければ、タロウを召喚した意味が無いんじゃないのか? しかし、魔王軍も攻めてきているのは事実だ……」


 まぁ、魔王を倒してしまえば魔王軍の被害は減りますね。

 そう考えればウジ虫の召喚……は間違いですね。

 勇者としてはあまりに下衆すぎますからね。


「レティシアさん。もういいわ。これ以上話をしてもしょうがないから……」


 それだけ言って姫様は王の間を出ようとします。そして、ドアノブを持ちツルツルに最後の一言を放ちました。


「貴方の影武者には貴方の代わりに国民の前で死んでもらいます。貴方は聖女エレンの……レティシアさんの復讐をその身で受けてください。さようなら。馬鹿で愚かなお父様……」


 姫様は一度も振り返る事もなく部屋を出ました。


「レッグさんはいかないんですか?」

「え?」

「ちゃんと姫様を支えてください」

「あ、あぁ」


 レッグさんも慌てて姫様の後を追います。


 この部屋には私とツルツルだけが残りました。


「ふぅ……。そろそろ麻痺の効果も消えるでしょう。さぁ、続きを始めましょう」

「き、キサマ……。や、止めろ!?」


 私は死に難い場所を何度も刺します。


 数分後、ツルツルはナイフによりトゲトゲになっていました。いや、刃の部分は体に刺さっているのでとげとげではありませんね。

 そういえば、二十五本も刺しましたからすっかり静かになりましたね。

 死にましたか?

 いえ、、心音は聞こえますのでまだ生きているのでしょう。


「さて、そろそろ終わりにしましょう」


 私はツルツルを玉座ごと縦に真っ二つに斬ります。そして、炎魔法で骨も残さず焼き尽くしました。

 影武者を国王にするのですから、何も残すわけにはいきませんからね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る