第6話 教会というモノがそれほど必要ですか?

 

ファビエ王都に転移して来た私は、レッグさんと入り口である大門で別れる事にします。

 レッグさんは私について来ようとしていましたが、私と一緒にいると復讐に巻き込まれてしまいます。

 これは私からの優しさなのですが、レッグさんにはそれが分からないようです。


「なぁ。レティシアちゃん。本当に教会を襲うのか? 考え直さないか?」

「考え直しません」


 レッグさんは先程から何度も私を説得しています。

 山賊のような顔ですが、根は優しい人なんでしょうね。


「止めても無駄か……。それで、教会を潰した後はどうするんだ?」

「え? 次の町に行くつもりですよ」

「そうなのか? この国の国王は勇者タロウを召喚した人物だぞ?」

「はい?」

「お前が望むんなら、教会を潰した後に国王に会わせてやる」


 国王が諸悪の根源ですか。

 レッグさんは私に復讐の機会を与えてくれるのですね。

 しかし、この山賊さんはなぜ国王と……。


「レッグさん。ようやく私の復讐を認めてくれるのですね。話が分かる人は嫌いじゃ無いです。殺すのは止めてあげます」

「殺すつもりだったのかよ……」


 そうですね。私はエレン以外はどうでも良いんです。

 どのみち私の計画を知る者は殺すつもりでしたから……。


「お前が国王に復讐すると言うのなら、良い人・・・に会わせてやる。その人なら、お前の復讐の手助け……いや、復讐を正当なものに変えてくれるだろうよ」


 復讐を正当化?

 何を言っているのでしょうか?


「何を意味の分からない事を言っているんですか? まぁ、良いです。私は行きます」


 私が、教会に行こうとすると、レッグさんがこの期に及んでまだ止めようとしてきます。


「なんですか? これ以上邪魔をするのなら本当に黙らせますよ?」

「レティシアちゃん。二時間だけ待っていてくれないか?」


 二時間ですか。それだけの時間があれば王国軍を集める事も可能なのでしょう。

 まぁ、別にいいんですが、鬱陶しいと言えば鬱陶しいですね。


「嫌です。騙されるのが分かっていて待つのは嫌です」


 この世界で信用できるのは自分とエレンだけです。

 こんな山賊の言う事なんて信じる必要はありません。しかし、レッグさんはため息を吐きます。


「さっきも言っただろう? 俺も今の教会には思うところし、聖女を大事に思っていたお前の気持ちを尊重する。だから、教会を襲おうというのは止めやしない。ただ、今教会を襲えば教会に祈りに来ているだけの奴等も被害にあっちまう。二時間もあれば、関係者以外を遠ざける事が可能なんだ。レティシアちゃんは二時間だけ王都でも観光してきてくれ」


 観光ですか。

 確かに逃走経路を考えなきゃいけないですから、裏道などを探しておきましょう。


「そこまで言うなら信じましょう。もし準備ができたら大声で私を呼んでください。どこにいても聞こえます・・・・・から」


 レッグさんは私の言った意味を理解していないのか怪訝な顔をしていました。

 まぁ、信じなくてもいいですが、二時間以内に呼んで貰わなくて教皇が逃げたら……レッグさんを殺します。


「では。二時間だけですよ。二時間経っても連絡が無ければ、勝手に襲撃しますので。では」


 私はそう言って、レッグさんのと別れます。


 逃走経路は転移魔法陣を使えばいいので問題ありません。

 一応裏路地も確認しておきましょう。

 それにしても、ここからでも教会が見えるのですか。大きいですね。

 私が教会を見ているとおじさんが近寄ってきます。


「大きいだろう? 教会は王都の観光名所の一つさ」

「へぇ、観光名所なのですか。興味はないのですが、あの教会の何が凄いのですか? 教会、神様なんてただの気休めでしょう?」


 教会、神様に祈ってもお腹は膨れません。

 そう思ってそう言ったのですが、おじさんは呆れています。


「それは本気で言っているのか?」

「本気ですよ。教会が何をしてくれますか? お腹がすいたら、教会が食べさせてくれますか? 他人に酷い目に遭わされても教会は助けてくれませんよ」

「教会で祈る事で心は救われる。神様はいつも見守ってくださっているよ」


 なんですか。

 何を言うかと思えば精神論ですか。

 私は、これ以上話をしても無意味と判断したので、その場を去ろうとします……が、おじさんは私の腕を掴みます。


「なんですか? 離してください」


 殺してしまいそうになるじゃないですか。教会関係者以外は殺すつもりはないんですが……。


「待つんだ。君は一度教会に来た方が良い。私が連れて行ってあげよう」


 教会に来た方が良い? 二時間後に行きますよ。


「貴方は教会関係者ですか?」


 私がそう聞くとおじさんは笑顔になり頷きます。

 そうですか……。

 関係者・・・ですか……。


 私とおじさんは路地裏に来ます。どうやら教会にはここを通る方が良いようです。私にとっては都合・・が良いですね。ただ、教会から離れた気がしますよ。


「教会に行くにこんなに人の少ない所を通るのですか? 大通りの方が近い気がしますけど」


 私がそう聞くと、おじさんが振り返り気味の悪い顔をしています。


「大人しくしろ!」


 おじさんの顔が豹変します。

 あぁ、そういう事ですか。


「で? 路地裏に連れてきた理由は何ですか?」

「へへへ。お前は神に祈ってな。見た目は良いから高く売れるだろうな」


 へぇ……。人買いさんですか。教会というのは人買いまでしているのですか。


「そうですか……。教会関係者なんですよね?」


 おじさんは笑い出し、「そんなわけねぇだろう? 騙されたお前が……」と話し終わるまでに、私はおじさんの腹部を斬りつけます。


「いでぇえええええ」


 おじさんは血が噴き出ている腹部を両手で押さえています。蹲るおじさんの首裏を一突きします。


「嘘を吐くからいけないんですよ。しかし、おじさんのおかげで確信しましたね。教会、神は人が死んでも何もしてくれません」


 私は、ビクンビクンしているおじさんを置いて教会の方へと向かいます。


「……レティシアちゃん……」


 ふむ。

 私を呼ぶ声が聞こえました。レッグさんですね。


「レッグさんと別れて一時間くらいですか……。思ったよりも早く準備が出来たのか、それとも裏切られたのか……どちらか楽しみですねぇ……」


 私はそう呟き、レッグさんの元へと向かいました。

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