第5話 最初の標的を決めました
私は町の炎が消えたのを確認してから、町の人間の生き残りを探します。
もし、生き残りがいれば一人も生かしておくつもりはありません。
私はこう言いました。
死にたくなかったら町を出ろと。
それを無視しているという事は死んでもいいという事でしょう。
あちこちで煙の上がる町を散策した後、誰もいなくなった外門を出て地図を広げます。
「さて、まずはどこの教会を破壊しましょうかねぇ……」
小さい頃に若気の至りでこの世界を滅ぼそう考えた事もあり各町の場所を調べていましたが、教会の事までは調べていませんでした。
さて、どこに教会はあるのでしょう?
調べた町々に教会があるんですかねぇ……。
その場合、近いところから順番に潰すのが良いのか、それとも王都の一番大きな教会を潰した方が良いのか迷います。
そういえば、聖地と呼ばれる国もありましたねぇ。そこは最後にしましょうか……。
移動に関しては、簡易転移魔法陣用の風呂敷を持ってきましたし、どこからでも行けるのですが……。
そうです。勇者の故郷も滅ぼしておきましょう。
しかし、私は勇者の故郷はおろか顔も名前もを知りません。
まぁ、それは教会の神官を拷問して吐かせれば良いのですが……。
ん?
私がしゃがみ込んで地図を見ていると一人の男性が近付いてきました。
「お嬢ちゃん。こんなところで座り込んでどうした?」
私は男性に視線を移します。
男性は、山賊のような大男で人相も山賊です。
あぁ、
まぁ、いいです。
いつものならば殺す前に話を聞いておきましょう。
「教会に行きたいんです。この地図を見てください」
山賊さんは素直に地図を見ます。隙だらけですよ。いつでも殺せますよ? まだまだ甘い、山賊さんですねぇ。
「で? お嬢ちゃんは何で教会に行きたいんだ? 教会ならばこの近くの町、テリトリオにもあっただろう?」
「その町の教会と神官は滅ぼしました。町も滅びました。それで他の町の教会も潰そうと思いまして。どこから潰すのが良いですかねぇ?」
「は?」
素直に本当の事を話しただけなんですが、山賊さんは目を見開いて驚いています。
そのまま目でも抉りましょうか?
「もう一回言ってくれるか?」
なぜもう一度言う必要があるんですかねぇ。まぁ、いいです。もう一度言ってあげます。
「潰すんですよ。私にとって必要のない、教会という場所と神官という生き物を全て殺し尽くすんです」
嘘も偽りも無く本音を話してあげます。
しかし、山賊さんは笑い出します。
失礼な人ですね。私はナイフを山賊さんの首筋に当てます。
「なぜ笑うんですか?」
「す、すまん……」
山賊さんは、青い顔をしながら、謝ってきます。あれ? 私を襲うつもりだったんではないのですか?
山賊さんに話を聞くと、この方は山賊さんではなく冒険者のレッグさんというそうです。ぼさぼさの髪の毛に髭で、大きな体に安っぽい服装。武器は大きな剣。どう見ても、山賊さんなんですが……。
私は見た目は幼いので心配になり声をかけてきたそうです。
「レティシアちゃんは、どうして教会に恨みを持っているんだ?」
私は親友の事を話します。
レッグさんは、腕を組んで私の話を聞いています。この人も、エレンを馬鹿にするんでしょうか?
「成る程なぁ……。勇者タロウのいい噂は聞かないが、まさか、聖女を手籠めにするとはなぁ。しかも、みんなが手の平を返すのはいい気はしないよなぁ……」
え? 意外でした。まさか、共感されるとは思ってもいませんでした。しかし、良い事を聞きました。勇者の名前はタロウというのですか。
「でもなぁ。教会を潰すのはどうかと思うぞ。教会に救われている者もいるのは事実だからな」
「そんな事、知ったこっちゃありません。私にとってエレン以外どうでもいいですから」
私は何か言いたげなレッグさんを無視して地図を見ます。
ん? まずは比較的近いここにしましょう。地図に印をつけて、用意してきた転移魔法陣を取り出します。
「待て待て待て待て!」
レッグさんが私を止めます。なんなんですかね。
「なんですか? 貴方も綺麗事を言うのですか? そんな事に興味はありませんし、聞く気もありませんよ」
しかし、そうではないとレッグさんは首を横に振ります。
レッグさんは地図を指差し、「ここを襲うのか!? ここの教会は孤児院を経営していて、ここを潰すと身寄りのない子供まで不幸になっちまう」と言われました。
そうですか……孤児院ですか。確かに罪もない子供が路頭に迷うのは余り良い気になりませんね。
「では、ここは最後にしましょう。しかし、困りましたね」
私は再び地図を広げます。
「ここはどうですか?」
レッグさんに聞いてみると、レッグさんは首を横に振ります。
「レティシアちゃん。どう説得しても、教会を襲う事を止めるつもりはないのか?」
「はい」
「即答かよ。はぁ……。止めても無駄というのなら、ここに行ってみろ」
レッグさんが指さしたのは、ファビエ王国の王都の教会でした。
「ここを最初ですか……。やはり、そちらの方が良いですか?」
「そうだな。ここには教皇がいるそうだ。教皇が聖女認定したと言われているから、まずはそいつを襲うのはどうだ?」
教皇ですか……。
教会で一番偉いと聞きましたが、聖地にはいないんですね。
それとも教皇は数人いるのでしょうか?
まぁ、良いです。それよりも……。
成る程。レッグさんの考えがわかりましたよ。
「教皇を殺すのは難しいと思わせて、私に諦めさせようという魂胆ですね」
私がそう言うと、レッグさんは目を逸らします。図星ですか……。
「別に死ぬのは怖くないんですよ? 死んだら死んだでエレンの元に行くだけです。諦めるという選択はありません」
私は、王都の教会に転移するために魔法陣を起動させます。ん? レッグさんも魔法陣の中にいます。
「どうしたんですか?」
「ついて行く」
はい? 何故ついてくるんでしょう。
「邪魔をしたら殺しますよ?」
「邪魔はしねぇ。俺も最近の教会には思う事があるからな。それに、レティシアちゃんという存在を知って、俺は城の方に用事がある」
「そうですか。お城で何をするのかは知りませんが、邪魔をしたら殺します」
「あぁ……」
私とレッグさんは王都へと転移しました。
このレッグさんと長い付き合いになるとは、この時は考えもしませんでした……。
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