第4話 この町は必要ありません。
燃える教会。
町の人間も野次馬に集まっています。
私はそんな光景を一瞥して、領主であるエレンの家に向かいます。
あの優しいエレンが大好きだったご両親です。親のいない私と違い、きっとエレンの死を悲しむでしょう。私はそんな両親を前にどんな顔をすればいいのでしょう。
そんな事を考えていたら、エレンの家の前に到着してしまいました。
いつもは追い返されていたのですが、今日は意を決してエレンの家の扉を叩きます。すると、おばさんとおじさんが出てきました。なぜか怒りの形相です。
「おじさん、おばさん。教会の神官共から聞いたのですが、エレンが自ら命を絶ったそうです」
私がそう言うと、おばさんが叫びだします。
悲しみによる叫びだと思っていたのですが、おばさんの口からは耳を疑うような言葉が聞こえてきました。
「あのバカ娘!! 勇者様に抱いて貰える事がどんなに幸せな事か!! お前か!! お前がエレンを唆したのか!? クソ!! あんな娘……いや、あんな女、死んで当然だ!!」
え?
何を言っているんですか?
エレンが聖女に選ばれたときはあんなに喜んでいたのに? 勇者というモノはそんなに偉いものなのですか?
私は無意識におばさんの腕を握っていました。
「娘が……あの優しかったエレンが死んだのかもしれないんですよ? 可愛い娘じゃないんですか?」
「は、離せ……」
おばさんは、私から逃れようと暴れます。
「大人しくしてください。私は話をしに来たんです。で? エレンが死んだかもしれないという事に何か思う事は無いんですか?」
おじさんは重々しく口を開きます。この人の口からも信じられない言葉が聞こえてきます。
「エレンが聖女に選ばれたときは誇らしかった。元々できの悪い馬鹿な娘だったが、ようやく私達の役に立ったんだ。それがだ、今回の事で我が家の価値が下がってしまう。勇者様に求められたのならば素直に受ければいいのに、本当に役立たずな女だ!!」
おかしいですね……。
「教会から聞いた話では、聖女は純潔を失うと力をなくすと聞いていたのですが?」
「そんな筈はない!!」
ん? どうして、この人はそう言い切れるんでしょうか?
「アレは純潔ではない!! アレは私の
何を言っているんですか?
可愛い娘ではないのですか?
娘を道具の様に扱っていたのですか?
私はおじさんの股間を蹴り上げます。
「あなた!!」
何を心配しているのですか?
安心してください。貴女も生かしておくつもりはありませんから。
私は、懐に持っていたナイフをおばさんの喉元に投げつけます。
おばさんは喉にナイフが刺さり、声も出せずにその場に倒れます。放っておけば、エレンの元に行けるでしょう。
できれば、同じところには行ってほしくはありませんけど。
その光景を見ておじさんが青褪めています。
「な……。ま、待て!! 金なら払う!!」
お金?
それがあればエレンは生き返るのですか?
私はナイフをもう一本取り出し、ゆっくりとおじさんに近付いて行きます。
「や、止めろ!! 異常者め!!」
おじさんが大声を出すから、人が集まって来たじゃないですか。
まぁ、別にいいんですが……。
町の人達は私を睨みつけるように囲んでいます。
そういえば、この人達もエレンが聖女になったと他人事のようにはしゃいでいましたねぇ……。
殺しましょうか?
「しかし、一人で殺しきるのは面倒ですねぇ……」
私が復讐を望むのは……教会、王族、勇者……そしてこの町……。
そうです。
「みなさん、聞いて下さい。今から一時間以内にこの町を出てください。もし、一時間後に私の視界に入ったら、その時点で殺します」
町の人間は面倒なので生かしておいてあげるとして、
そうです。
町に火を放てば、逃げるのが速くなるかもしれません。
私はおじさんにとどめを刺してから、町に火を放とうと魔法の詠唱を始めます。
「何をやっている!? りょ、領主様!?」
私を止めてきたのは、町の警備隊の人達でした。
そういえば、この人達も笑ってエレンを送り出していましたねぇ……。
「お前は……。あのクソ女の糞をやっていたクソガキか!? 教会を燃やしたのはお前か!?」
何やら耳障りな言葉が聞こえましたが、この生き物は喧嘩でも売っているんでしょうか?
「私が教会を燃やしたという証拠でもお持ちですか? 何を根拠に私と決めつけているのですか?」
「クソ女が死んだという
「そうですか……。ですけどね……」
「がっ!?」
私はさっきからエレンの事をクソ女、クソ女と言っている警備隊の男の首を握り潰します。
「さっきから耳障りなんですよ。貴方達がエレンを聖女に祀り上げて、勝手に喜んでいただけでしょう? それにもかかわらずエレンを何だと思っているのですか?」
ちょっと首を握り潰しただけで死ぬとか、弱すぎます。
まぁ、この町は今日で燃えてこの世から消えてなくなるんです。
警備隊ももう
私は警備隊を一人ずつ丁寧に殺していきます。
一応、町を守っていたらしいですから苦しまない様に一撃で殺してあげます。
私が警備員を殺している姿を見ても町の人間達は悲鳴を上げたりするだけで逃げようとはしません。
仕方ありませんねぇ……。
私は警備隊の死体を持ち上げ、「もし一時間後に、私と目が合えばこうなりますよ」と死体を地面に叩きつけました。死体を乱暴に扱うのはあまり好きではありませんが、脅しておかないと真剣に取り合ってもらえませんからね。
「では、私は一度家に帰って準備をします。その間に逃げておいてくださいね」
さて、この町を焼き尽くした後は教会を襲撃しなければいけません。
私の身一つでソレは可能でしょうが、一応準備だけはしておきましょう。
私の家は、町外れにありますが……、燃えてますねぇ。どうやら、町の人が燃やしたみたいです。
燃えている家の前に立っている人達が私の家を燃やした犯人ですかね?
「ふふふ……。お前みたいなチビに俺達がビビるかよ!!」
はぁ?
何をかっこつけているんですか?
私はナイフを投げつけます。
「え?」
男は額にナイフが刺さり、その場で倒れて絶命します。
まぁ、
「な……!? こ、この人殺……ぎゃっ!?」
今度は右の男に刺さりましたねぇ。
どうでもいいですけど、人の家を燃やしたんですから死ぬ覚悟くらいしてください。
「た……助けてくれ……」
はぁ?
最後の一人は、股間を濡らしながら泣いて許しを乞うてています。
はて?
「なぜ助ける必要が? こうやって私に喧嘩を売ったのですから、死ぬ覚悟くらいはしているのでしょう? 今更なぜ許しを乞うのですか?」
まぁ、言い訳を聞かずに殺すんですけどね。
男の死体をその辺に転がし、私は燃え尽きた家を眺めていました。
「まぁ、建物はカモフラージュなので燃えても問題はありませんけどねぇ……」
私は、
本当の私の家は地下にあるんです。
まったく。
町の人間から嫌われている私が、地上でぬくぬくと過ごすわけがないでしょうに……。
私は自室で旅に出る準備を始めます。
移動の為の転移魔法陣……それと大量のナイフ……。
エレンと別の町に言って買った愛用の剣。
準備をしているうちに一時間が経ちました。
「さて……、そろそろ仕上げに行きますかね」
私は、準備したものを持って町に戻ります。
町は、誰もいないみたいで静かです。
ちゃんと逃げてくれて助かりました。
「じゃあ、この町とも今日でさようならです」
私は、炎魔法で町を焼き尽くし、教会を潰す為の旅に出ました。
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