第20話 魔獣族ですか。少しだけ強そうです。


 ブレインの精鋭は一人で呆然としています。私としては一人たりとも逃がすつもりは無いのですけどね。

 どうせ殺しますが、これからどうするか聞いておいてあげますか。


「さて、貴方一人になりましたがどうしますか? このまま貴方も殺されますか?」

「お、お前はなぜこんな非道な事をする?」


 魔族は青褪めた顔でそう聞いてきます。

 そういえば、ハヤイにも同じ事を言った記憶があります。


「これはハヤイにも言いましたが、この世界が私からエレン大事な人を奪ったからです。だから、私は全てに復讐をするんです。この世界に召喚されいい気になっているウジ虫も、それを召喚した国王も、勇者と対峙して人間を襲ってもいいと勘違いしている魔族も、そして裏で糸を引いている神も。私はここに誓いましょう。全てに復讐すると!」


 私は世界を敵に回します。

 このまま魔族を殺しきり、魔王を殺し、ウジ虫共を惨たらしく殺し、教会を滅ぼし、神を引きずり出して殺します。

 すべての復讐が終わった時、私は姫様の傍で大人しくなります。

 

「な、なんだと? 魔王様だけではなく、神アブゾルにまで背くというのか? 神を崇拝している人間がか? し、信じられん」

「別に貴方が信じようが信じまいがどうでもいいです。貴方はここで殺します」


 私は魔族を斬る為に剣を振り上げます。


「待て……」

「はい?」


 私を止めるのですか? しかもこの声……。


「お前は息をするように魔族・・を殺すのだな」


 魔族を殺す?

 あぁ、彼は何か勘違いしている様ですね。


「それは違いますよ」

「なに?」

「私が殺すのは魔族ではなく、私の敵です。それが魔族であれ人間であれ殺す事に変わりありません。それよりもその声、貴方がブレインですか?」


 私は声がした方を見ます。

 そこには、灰色の髪の毛の優男……しかし、ヒョロヒョロという訳ではなく、細く鍛えられているようです。

 弱そうには見えないですね。


「そうだ……。私が魔王四天王ブレインだ。こうして直接会うのは初めてだな」

「そうですね。貴方は強そうに見えます。筋肉やハヤイとは違いますね」

「そいつはどうも」


 ブレインは、魔族を逃がします。

 私が逃がすとでも?


「まぁ、待て。お前とは一度話がしたいと思っていた」

「はい?」

「私としてはお前が勇者を嫌っている理由を聞きたいな。人間にとって勇者とは崇拝対象なのだろう? お前達の英雄であり、魔王と戦う為の剣だ」


 崇拝対象ですか。

 あんな下衆をどう崇拝しろというのでしょうか。バカバカしい……。


「はぁ……。私にとって勇者はウジ虫でしかありません。殺す対象であり、崇拝対象ではないですよ。次、同じ事を言ったら殺しますよ」

「なに?」

「人間の間では、こんな作り話が人気です。勇者が現れ、魔王を倒し、その後、姫と結婚し王となりハッピーエンドです。私はこの話がおかしくておかしくて、いつも首を傾げていました。貴方はこれをおかしいと思いませんか?」

「どうおかしいんだ? 私は魔族だからお前達の作り話はよく分からんのだがな」

「そうですか? じゃあ、例え話をしましょう。勇者を倒す為にどこの馬の骨か分からない者を呼び出し・・・・、そいつが勇者を倒したとしましょう。そいつは前魔王に認められ魔王になったとたら、魔族の統治はどうなりますか? 安泰すると思いますか?」

「……なるほど。そういう事か……」


 ブレインは私が言った事を理解してくれたみたいです。思っている以上に馬鹿ではないという事ですね。

 敵として出会わなければ、仲間として勧誘しても良かったと思ってしまいますよ。

 そして……。


「準備は終わりましたか?」

「なに?」

「さきほどの精鋭を逃がし、私をとり囲む事ができましたか? と聞いているんですよ」


 私の周りには魔族が大量に配置されています。

 精鋭よりも強そうですね。これが、真の精鋭ですか?


「ははは。キサマが下らん講釈を垂れている間に完全に取り囲む事ができたぞ。まぁ、最初からバレていたようだが」

「そうですね。さて、次はどんなのが襲ってくるのですか?」


 ブレインが手を上げると、柱の影から全身毛皮で覆われた魔獣みたいな魔族が出てきます。他にもいろいろな魔物が混ざったような魔族……これは、人為的に作られましたか?


「へぇ……。同族を実験に使うとは……、随分とえげつない事をしますね。ここまで合成されていれば、二度と元に戻る事はできないと思いますよ」


 戦力としては優秀でしょうが、きっと寿命も短いでしょう。これでは使い捨てもいいところです。まぁ、魔族がどれほどの事をしていようとどうでもいいのですが……。


「こいつ等は、生まれながらにこの姿なのさ……。まぁ、お前には関係ない事だ。私の魔獣族達よ。奴を殺せ!」


 魔獣族ですか。

 しかし、気になる事を言っていましたね……。生まれながらにこの姿……ですか。


 魔獣族はハヤイに匹敵する速さで私に襲いかかってきます。

 私は魔獣族を斬りつけますが、斬り口は浅いです。これは……。


「ふむ。随分と硬いですね」

「魔獣族の毛皮は鋼鉄のように硬い。お前に勝てると思うなよ」


 鋼鉄ですか……。

 確かに厄介ですが、そもそも何を勘違いしているのか……。

 

 私がいつ、鉄を斬れないと言いましたか?


 私は魔獣族の胴体を斬り抜きます。


「ぎゃあ!!」

「なに!?」


 ほら、斬りましたよ。

 私は襲い来る魔獣族を次々と斬り捨てていきます。

 これにはブレインも驚いている様です。


 しかし、魔族というのは自分の命をどうとも思っていないのですね。逃げずに襲いかかって来ます。

 まぁ、逃げられても厄介なのですけど……。


 私は魔獣族を殺し尽くします。今、この場で立っているのは、私とブレインだけです。

 流石に少し疲れてしまいました。それに剣もボロボロです。


「ま、まさか。私の魔獣族が全滅だと……?」

「少しは面白かったですよ。さて、貴方は何もできない無能ですか?」


 私はブレインを挑発します。当然、これで終わりではないでしょう。


「いや。お前と対等に戦えると思っているさ」


 対等ですか?

 ブレインは黒い剣を取り出します。あの剣からは禍々しい何かを感じますね。


「魔剣よ。我が祈りを聞け。奴を殺すための力を与えろ!」


 魔剣。

 聞いた事がありますね。勇者が聖剣を持つように魔族は魔剣を持つと……。

 私にも使えますかね?


「へぇ……。かなり強そうですね」


 ブレインの魔力はかなり大きいです。正直な話、今まで戦った誰よりも強いでしょう。

 ブレインは私を見て口角を釣り上げています。自信は自分の強さを信じているからでしょう。

 でも、残念です。

 貴方はここで死にます。


「お前の余裕がいつまで続くか楽しみだな」


 余裕ですか?

 いつまでも続くと思っていますよ。


「さぁ、殺し合いましょう」

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