第24話 さようならです


 魔王にジロジロと見られていますねぇ……。少し、気分が悪いです。


「小娘……。お前は勇者なのか?」


 また勇者と呼ばれてしまいました。

 魔族は本当の勇者の事を知らないのですかね?

 そもそも、ウジ虫と間違えられるのは気分が悪いです。


「どいつもこいつもなぜ私を勇者と呼ぶのでしょう? そもそも、勇者というのは、タロウという異世界から来たウジ虫でしょう?」

「勇者がウジ虫? あははははは!!」

「なぜ大声で笑います? 喧嘩を売っているのですか?」

「いや、お前があまりにも面白い事を言うのでな……。確かに、神が選んだのは勇者タロウだ。魔王である私はタロウと戦う運命なのだろうな……」


 運命ですか……。

 よくわかりませんが、この魔王なら、ウジ虫くらい一撃で殺せそうなのですが……。


「ところで、お前は何者なのだ?」

「私ですか? ただの復讐者です。復讐の為に魔族には滅びて貰います」

「復讐者だと? 貴様は魔族に何かをされたという事なのか?」

「違いますよ……」


 私は魔族を滅ぼす理由を説明します。


「貴様……。ふざけているのか?」


 まぁ、魔族からすれば、当然の反応でしょう。

 しかし、私にとってそんな事は、たいした問題ではありません。エレンの命は世界よりも大切なものなのです。


「傲慢な復讐者め!! 私が貴様を殺し、人間どもを滅ぼしてくれるわ!!」


 魔王が椅子から立ち上がると、恐ろしいほどの殺気があふれ出します。


「さすがは魔王です。四天王達とは随分と違いますね」


 背筋が凍り付きそうなほどの殺気ですね。

 どちらにしても、魔王を殺すので、剣を出しましょうかね。


「ほぅ。その剣……聖剣か? 勇者でもない、復讐者である貴様がなぜ聖剣を持っている?」


 はて?

 聖剣とは何でしょう?


「この剣は、王都で買った安物の剣です。エレンへの愛の奇跡で、折れても復活するように進化しましたけど」

「あははははは!! 折れて復活する剣を、普通の剣とは言わん。しかし、相手にとって不足はなさそうだ」


 ふむ。

 魔王が召喚した剣は禍々しいですが、ある意味神々しいですねぇ……。


「復讐者よ。その力、見せてもらうぞ!!」


 魔王の魔力は凄まじいですねぇ……。

 近づいただけで、魔力による衝撃波が発生しています。

 これは、私もそこそこ本気で行かなければいけないですかね?


「えい!」


 私は魔力を放出させて、魔王の魔力を相殺します。


「貴様!! その魔力は一体!? ……ふっ。今はそんな事どうでも良いな」


 魔王が繰り出す剣技はマジック以上のものです。しかも魔力が込められているので、私も魔力を込めます。

 しかし、魔力が拮抗しているので、なかなか攻め切れません。

 ……厄介ですね。


「一ついいですか? この力があれば、貴方が出れば、ウジ虫……タロウを簡単に殺せたんじゃないんですか?」


 私がそう聞くと、魔王は一瞬止まります。

 ダメですよ。このレベルの戦いになると、一瞬の気の緩みが全てを覆す事になるのですから。


「ぐっ!?」


 一瞬でも隙があれば、一撃を入れる事は可能です。

 しかし、浅かったようですね。魔王は何事もなかったように振舞っています。

 再生能力まであるのか、傷も塞がっていますね。


「魔王というのは本当に厄介な存在ですね……」


 再生能力がある以上は一撃で倒しきる必要がありますかね? しかし、先ほどのように、魔王には隙がありません。

 さて、これからどうしましょうかね?


 私が悩んでいるのに、魔王はお構いなしに斬りかかってきます。少しは手を抜いて下さいよぉ……。


「困りましたね。どうやったら勝てるのか見当もつきません。魔王さんは、まだ魔法による攻撃も使ってはいませんし……」


 私の呟きに魔王は笑みを浮かべます。


「そうか。貴様を殺そうと思ったら、魔法による攻撃を始めればいいのか」


 魔王は一瞬で後ろに下がり魔力を溜め始めます。


「斬りかかってきたければ、いつでも来ればよい。私の魔力障壁を超えられるのであればな」


 魔力障壁ですか?

 確かに、魔王の体には薄い魔力の膜が張られています。

 みたところ、かなりの強度の魔力の膜のようですね。


 私が全力で魔力を込めれば、魔法障壁を切り裂けると思うのですが……。


 魔王は魔力を込めながら、私がどう動くのかを観察しているようでした。

 おそらく、私に恐怖というモノを感じていないのでしょう。


 それはそれでムカつきますねぇ……。斬りかかってみますか?


 私は一瞬で魔王を斬れる間合いに入ります。


「っ!?」


 あははは。

 いまさら危機感を覚えても遅いですよぉ。


「えいっ!!」

「ぐぁ!?」


 私の剣は、魔王の肩から斜め下に斬り抜きます。

 魔力を込めた私の全力の力です。魔力障壁くらいならば、ソレごと斬り落とせます。

 

 さようならです。

 

「がぁ……」


 魔王は苦悶の表情を浮かべながら……、ずり落ちていきました……。

 余裕を見せたのが、敗因ですねぇ……。

 

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