第18話 追いかけっこですか? 追いかけっこは得意ですよ。
目の前にある不気味なお城……これが魔王城のようです。
不気味なお城も面白いのですが、今から破壊されるモノですからどうでも良いのですが……。一応、城に向かい殺気を放ってみます。しかし、魔王城からは反応がありません。
殺気に気付いた魔王軍が襲ってくると思っていたんですが……残念です。
「魔王城の中で私を迎撃するつもりでしょうか。建物の中ではあまり暴れられないので少し困ります」
私は少しがっかりして魔王城に入ろうと思いました。
しかし、背後から何者かが猛スピードで襲いかかってきます。
何者かは私を殺そうと攻撃してきたのですが、まぁまぁのスピードですが、私はその程度では殺せませんよ。
私は何者かが持っていたアサシンナイフの刃をつまみへし折ります。
「な!?」
「結構なスピードでしょうが、私を殺すには少し遅いですよ。さっきは筋肉だったですが、今度は速さ……スピードさんですね」
「スピードではない! ハヤイだ!」
そっちでしたかぁー。
名前の予想が外れたので少し残念です。
私の目の前に立つのは、青い素肌の細身の男性でした。
男性と言っても魔族には性別がないんでしたね。ハヤイは髪の毛が無く、耳が長いです。これは、エルフですかね? いえ、魔族ですか……。
ハヤイは私を見て口角を釣り上げます。まぁ、気持ち悪いですねぇ……。
「ふはははは。パワーを速さを使って殺したようだが、アイツは四天王最弱だ。四天王最速のこのハヤイ様に勝てると思うなよ!」
私が速さを使って筋肉を倒した!?
「む? 何を驚いているんだ?」
「え? いえ、魔王四天王というのはアホしかいないのかと驚いていただけです」
「なんだと!?」
ハヤイはその場で足踏みをします。
その足踏みがどんどん速くなります。何をしているのでしょう。
「勇者よ! このハヤイ様のスピードについて来れるか!?」
はぁ?
私が勇者とか気持ち悪いのでやめて欲しいです。
私は勇者と呼ばれて不愉快になってしまい、ハヤイを睨みつけます。
私の不愉快な顔を見て、ハヤイはさらに歪んだ嗤いをみせています。
「……誰が勇者ですか」
「ほぅ、ならばお前は何者だ? 勇者でもないお前が何故魔族と敵対する? 我々魔族は勇者と戦う使命があるから戦うが、お前が勇者でないなら戦う必要はない」
はて?
今の話では、魔族は相手が
魔王がファビエ王国と戦っているのもウジ虫がいるからという事でしょう。つまりは全てはウジ虫がいるからなんですね。
まぁ、だからと言って魔族を滅ぼさない理由にはなりませんからね。さっさと魔族を滅ぼしてウジ虫を殺しに行きましょう。
「戦う必要はありますよ。その理由は魔族が憎いからですよっと!」
私はハヤイの首を掴みにいきますが、そこにハヤイはいません。
あれ? 確実に掴んだと思ったのですが、どこに行きましたか?
「はははははは。このハヤイ様を捕まえたとでも思ったか? 魔族が憎いと言うが、そのような遅い動きでこのハヤイ様を倒せると思うなよ」
はて?
今のは掴もうと思っただけですので、遅いと言われても困るんですが……。
「お前はこのハヤイ様の速さに気付けないまま少しずつ斬り刻まれて死んでいくっていう事だ」
なるほど……。
これは追いかけっこなんですね。
私……得意ですよぉ……。
「さぁ……。貴方が
あ、そうです。
ハヤイに私が知っている豆知識を教えてあげましょう。
「ハヤイ。貴方は知っていますか?」
「なんだ?」
どうやら動きながらでも会話できるのですね。
会話できなくても勝手に喋る予定でしたけど。
「魔獣は本能だけで生きていると言われていますが、実はちゃんと
「なに?」
「魔獣にも感情がありまして、怒りと
「な、何の話だ? それに魔獣が絶望? 怒りはわかるが、絶望とは何だ? 魔獣は死の寸前まで本能のまま戦おうとするだろう?」
ハヤイは、興味深そうに私の話を聞いています。まぁ、素早く動きながらですけど。
「貴方には魔獣が絶望を感じる状況を今から実践してあげますから、楽しみにしてくださいね。いえ……
私はハヤイを追いかけ始めます。
ただ追いかけるだけじゃなく、一定の距離を保って走ります。ハヤイは追いつけないと思い込んでいるみたいで、なぜか笑っています。しかし、気付きませんかね。私とハヤイの距離が近付きも離れもしていない事を。
この距離を保つのがいつまで続きますかね。
追いかけだして五分が経ちました。しかし、ハヤイはまだ余裕があるみたいです。
「どうした!? このハヤイ様を捕まえるんじゃないのか?」
ふふっ。
私はあえて無表情の無言でハヤイを追いかけます。
さて、そろそろ
少しだけ距離を縮めましょう。
十分経ちました。ハヤイも無駄口を叩かなくなりました。疲れてきたのでしょう。
でも、私は全然疲れていませんよ。
少し距離を縮めましょうか。
さて十五分経ちました。
全く何も言わなくなりましたよ。
それどころかチラチラと私を見てきます。
目があったので笑顔で返しておきます。
「あ、貴方に言い忘れていましたが、私が貴方を捕まえた時点で貴方を
「ひぃ!?」
私が笑顔でそう言うと、ハヤイはスピードを上げ始めました。
これは素直に凄いです。もう体力の限界だと思っていましたが、まだそんな力を持っていたんですね。
二十分経ちました。
スピードが上がったのは一分だけでどんどん遅くなってきました。
ハヤイは顔を青褪めさせて私に文句を言ってきます。
「い、いつまで、追いかけてくるつもりだ! いい加減負けを認めろ!」
「なぜですか? 私は疲れていませんよ?」
私は距離を少しずつ縮めていきます。
徐々に距離を縮められるのを見て、ハヤイの顔は驚愕に染まります。
そうです。
それが絶望の表情なのです。
「ふふふっ。絶望を感じるでしょう? それが絶望です。魔獣もその顔をするのですよ。まぁ、本能で生きていますから必死に逃げますけど……貴方はどうですか?」
「ひ、ひぃ!?」
ハヤイは泣きそうな顔で必死に走ります。
徐々に詰められた距離は、もう少しで手が届きます。
「ふふふっ。自分の得意分野で追い詰められている気分はどうですか? さて、もう掴めますよ」
「ま、待てぇ。お前……もしかして最初っから……」
「はい! 最初から捕まえられましたよ。あくまで追いかけっこをして遊んでいただけです。ここからは、戦いですよ。ここからは……殺します」
私はハヤイの首を掴み、剣を取り出し、腕を斬り落とします。
「ぎゃああああああ!!」
ハヤイは、猛スピードで、地面に転がります。腕を斬られるよりも痛そうにこけましたね。
「お。このハヤイ様の腕がぁあああああああ!!」
「アレ? どうしました? 逃げないのなら、ここで殺しますよ」
私は、もう片方の腕を斬り飛ばします。
でも、足は斬りませんよ。逃げようとすれば逃げられますよ。
しかし、ハヤイは逃げようとしません。
もう逃げないのであれば、ここで殺しましょう。
私は剣を振り上げます。
ん?
私は耳を澄まします。魔王城から団体さんが来るのが分かります。
私はハヤイの頭を掴み持ち上げます。
「この
足音の事を聞くと、ハヤイの顔に明るさが生まれます。
仲間ですか?
「ブレインの精鋭部隊だ! お前はブレインの逆鱗に触れてしまった! アイツは普段は温厚だがな、一度怒ると誰にも止められん!! お前はここで死ぬしかないのだ!!」
へぇ。精鋭部隊ですか。それはそれは……。
ハヤイの頭を掴む手を思いっきり力を入れます。
「ぎゃああああああああ!!」
ハヤイは、叫びます。
私はハヤイを地面に叩きつけます。
「ごぼぉ!?」
「精鋭部隊が来るのでしょう? 早く、貴方を殺さないといけません」
私はハヤイの両足の骨を砕きます。
「ぎゃあああああ!!」
ハヤイは痛みで叫びます。
「もっと鳴いて下さいね。精鋭達に聞こえるように……」
「な、なぜだ!? なぜ、ここまで非道な事をする!?」
非道?
何を言っているのですかね。
「貴方は勇者の仲間だった聖女の存在を知っていますか? 私は彼女の親友です。彼女は勇者に酷い目に遭わされて自ら命を絶ってしまいました。私は……私から彼女を奪ったこの世界も、勇者が召喚される原因となった魔族も、勇者を呼び出した教会も、諸悪の根源の勇者も、
私が笑顔でそう言うと、ハヤイの顔は完全に絶望に染まります。
「そ、そんな……の八つ当たりじゃないか」
「そうですよ? それがなにか? 別に私にとって
私はハヤイにとどめを刺します。
私はハヤイの死体を炎魔法で焼き尽くし、精鋭が来るのを……待っていても面白くないですね。
こちらから、魔王城に突入しますか。
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