第17話 力の四天王と力比べです。

 

 ドタドタドタドタ。

 ドタドタドタドタ。

 ドタドタドタドタ。


 ……。

 えっと、これは何かの冗談でしょうか。

 いえ、確かに筋肉はパワー特化なのは分かっていましたが、気の毒なほどに動きが遅いです。


「喰らえ!! 我が力を!!」


 筋肉の遅いパンチは、ゆっくりと私に襲い掛かります。蠅が止まりそうなほど、遅いパンチです。

 いえ、何をどう間違えばこれを喰らうのでしょうか……。

 しかし、私は逆に興味が出てきました。これほど遅いパンチにどれほどの威力・・が込められているのかを……。


 私は筋肉のパンチを受け止めようとします。


「馬鹿め!! 貴様のような細い腕で俺の攻撃を止められるとでも思っているのか!?」

「はい。思っていますよ」


 そもそも、別に受けなくても避けるのは簡単です。これはサービスです。

 もし、絶大な攻撃力があれば私を倒す事は……不可能ですが、まぁ、受け止めてあげましょう。


 ゆっくりと襲いかかる筋肉の拳が、のんびりと私の掌に当たります。その瞬間、衝撃波が発生します。

 というか、こんなに遅いのに衝撃波が発生するのですか!? それにビックリです。


 筋肉の拳を受け止めた私の足が地面に沈みます。流石に体重差があるので、これは仕方がありません。

 しかし……。


「この程度ですか?」


 私が残念そうにそう聞いてみると、筋肉の口角が吊り上がります。おや? なにか面白い事でもありましたか?


「やるではないか!! 俺の半分の力を受け止めるとはな。良かろう。久しぶりに本気で相手をしてやろう!!」

 

 あぁ、本気では無かったのですね。まぁ、四天王を名乗っておいてこの程度なわけがないですよね。

 

 筋肉は力を溜めています。

 あ、これはアレですか? ダメな方のパワーアップですか?

 筋肉の筋肉が二倍に膨れ上がります。全体が大きくなり、身体からあふれる魔力も増大します。この魔力をスピードに当てれば……。まぁ、筋肉脳には無理な発想ですかね。


「これが俺のフルパワーだ。お前、死んだぞ?」


 フルパワーですか。

 確かに攻撃を喰らってしまうと死んでしまうかもしれませんね。けど、喰らう事は無いと思います。


「まぁ、いいです。現実を教えてあげますよ」


 私は無防備・・・に筋肉に近付きます。


「そんな無防備に近付いて、戦意を喪失したのか? ならばせめ「何を言っているんですか? 貴方の戦い方に合わせて行動してあげているだけです」


 そう言って、私は、筋肉に近付きます。


「ほぅ。まさかフルパワーの俺を相手に力勝負でもするつもりか?」


 筋肉の顔が少しだけ赤いです。肩は少し震えていますね。もしかして怒っているのですか?


「粉々にしてやろう!!」


 筋肉は大きく振りかぶって私を叩き潰そうとしてきます。まぁ、遅いんですけどね。しかも、驚く事に先程の攻撃よりも更に遅いです。何を考えているのでしょうね。

 私は、がら空きの筋肉の腹筋にパンチを喰らわせてあげます。


「グボォ!?」


 一撃入れただけで、筋肉はお腹を押さえて、後退ります。


「な、なんだ……。この力は!?」


 何を驚いているんですか? 少し力を入れて殴っただけですよ。

 私はゆっくりと筋肉に近付き、顎を殴り上げます。


「がはぁ!!」


 流石に体重がありますから、浮き上がりませんでしたか。もう少し力を込めればよかったです。


「ち、近付いたな!! 死ね!!」


 だから遅すぎるんですよ。

 筋肉はどうやら力比べをしたいみたいですから、付き合ってあげますか。

 私は遅い拳に向かって殴りかかります。

 拳と拳がぶつかるのであれば、純粋に力が強い方が勝ちます。筋肉は間違いなく自分が勝つとでも思っているのでしょうね。

 けれど……。


「その見通しが甘いんですよ。えいっ!」


 私と筋肉の拳がぶつかった瞬間、筋肉の顔が痛みで歪みます。


「ぎゃああああああ!! なんて力だ!?」


 筋肉の拳は私の攻撃で潰れてしまったようです。筋肉の拳は指があり得ない方向に曲がり、血が噴き出すように流れ出ています。あ、骨も見えますね。

 普通であれば、痛くて仕方ないと思うんですけど。筋肉は口角を釣り上げています。更に在り得ない言葉が聞こえてきました。


「それが全力というのなら、貴様はここまでだ!!」


 全力? 

 私の聞き間違いですかね。今、全力と聞こえたのですが?


「俺の全力はまだだ!! もう一段階パワーアップできるのだ!!」


 なるほど。この期に及んで、まだ力を隠していたのですか? 

 流石にムカつきますねぇ……。


 力の差をいまだに理解・・していないとか……、この筋肉は、頭の中まで筋肉になっている様ですね。

 私は笑顔で筋肉の顔を見つめます。そして優しく教えてあげるんです。


「私がいつ、本気で・・・攻撃していると言いましたか? そうですね。一瞬だけ本気というモノを見せてあげましょう」


 私は、全身に魔力を巡らせます。

 私の本気に気付いたのかは知りませんが、筋肉が一歩引きます。

 駄目ですよ。一歩程度じゃ逃げられませんよ。せめて……。私の視界から完全に消えないと。

 私は一歩踏み込んで、全力で筋肉の腹部をめがけて拳を突き出します。

 筋肉も普通であれば届かないので安心しきっているでしょうが、貴方のいる場所も射程範囲ですよ?


「えいっ」


 私が繰り出した拳は、例外なく全てを貫き破壊しました。


 さて、終わりです。

 私は筋肉の方へと歩いて行きます。


 今更ですが、筋肉も私を警戒している様です。

 でも……遅い・・んですよ。何もかもが遅い・・んです。

 筋肉の真横を通り過ぎようとすると、筋肉が私の腕を掴みます。


「なんですか?」

「まだ、勝負はついていないが?」

「現実を受け入れられないんですか?」

「なんだと?」

「貴方に二度目はありません」


 私が筋肉のお腹を指差すと、筋肉は驚愕した顔になります。


「……え? ば、ばかな……がふぅ!?」


 筋肉の口からは大量の血があふれ出しています。ようやく自分の体がどういう状態かに気付いたのでしょう。

 

「貴方がいくら自慢の筋肉を持っていたとしても、私の真面目な攻撃に耐えられるとでも? まぁ、もう聞こえてないかもしれないですけど」

「が……は……」


 筋肉はその場に倒れてしまいます。まぁ、四天王として頑張ったんですよね……。せめて貴方の望む攻撃で殺してあげます。


 さぁ、さようならです。

 

 私は拳に力を込めて、筋肉を殴ります。純粋な力です。純粋な力で殺されるのなら本望でしょう。


 私は筋肉がいた場所を一瞥して魔王城へと進みます。


「さて、残りの四天王は三人ですね。一気に襲ってくるといいのですが……」

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